144. 翔子とチョコと最後の夜

 さて、いよいよ明日に作戦決行ということになって、館長さんも交えて壮行会。

 いつにも増して豪華な食事なんだけど、食べ過ぎて明日つらいとかならないようにしないと……


「まあ、しばらくって話も半年とか一年だと思うぜ?」


 そう言って笑う館長さん。

 そうなのかな? 私としては十年ぐらいとか何となく思ってるけど、菊媛お姉様ははっきり言わなかったし何とも……


「ワフッ」


 美味しそうに骨つき肉にかぶりついてたヨミが元気よく返事する。

 ヨミも向こうへ帰っちゃうんだよねって、そこはちょっと寂しかったんだけど、本人……もとい本狼が私と一緒に居たがったので、こっちに残ることになった。


 ミシャ様曰く、


「ウィナーウルフもルナウルフも、一度決めた主人と別れることはないから」


 とのこと。そうなると、こっちでヨミのお婿さんを探さないといけないのかな? まあ、もっと大きくなってからだろうけど。


「御前。そろそろお酒は控えてください」


「いいじゃねーか。あたしが行くわけじゃねーんだし」


 明日が本番なので、智沙さんだけでなく、ミシャ様もディアナさんもお酒はなし。

 ただ、ルルさんだけは「絶対に酔わないから」ということで飲んでる。ドワーフだもんね。

 あ、私とチョコは未成年なのでパスです。向こうに行った時に、ナチュラルに薄いワインが出てきて飲んだけどノーカンでお願いします。


 ………

 ……

 …


「はー、食べ過ぎたね」


「チョコレートケーキとかしばらく食べられそうにないしね」


 二人してそれぞれのベッドに座ってお風呂待ち。

 明日、チョコと別れたら『しばらく』は離れ離れになっちゃうわけで、こう……特に感慨深くもならないんだよねえ。


「不思議なもんだよね。確かに美琴さんたちに寂しくないのって言われたけど、そっちよりもワクワクの方が強いっていう」


 とチョコ。


「わかるー。この間立ち寄れなかったベルグ王国とかじっくり見てきてよ。あ、館長に似てるっていう国母様とか会えたりするのかな?」


「さすがにすごい偉い人っぽいから無理なんじゃないかな」


「それ言い出したら、館長さんだってすごい偉い人だし」


「なんだよねー」


 日本屈指の財閥の一番偉い人に気軽に会えるようになっちゃったし、よくよく考えるとミシャ様も賢者なんだよね。っていうか、


「「フェリア様が賢者だもんねえ……」」


 いやまあ、うん、すごい人なんだけど言動がね? 尊敬する師匠ですよ? でもね?


「それで、向こうで当面手伝うことってやっぱり」


「転移した場所の再調査とかじゃないかな」


 チョコが向こうに行くと、こっちに転移した場所の把握も早そうなんだよね。

 こっちで見つかってる地点を、あっちの地点と照らし合わせつつ、お互い調査していく感じ?

 また埼玉のような場所が現れないとも限らないけど、その時は魔素を水に変えてくれる古代魔導具が役にたってくれるはず。


「乙女ウイング出せば飛べるから移動で困ることもなさそうだしね」


「下手するとチョコの方が移動早かったりしない?」


「かも」


 でもまあ、それだと同行できるのはケイさんぐらいになりそう。あ、でも、ミシャ様はなんか複数人で転移できるとか、ルナリア様が言ってた気が。


「魔王国に行ったり来たりしてるとかいう話あったし、連れてってもらえるかも?」


「魔王様に会えたりするかも?」


「ちょっと世界の半分って言われた時にどう切り分けるか聞いといて。『じゃ、お前海なー』って理屈は通じるのかとか」


 そんな無駄話をしてると……


「翔子さん、チョコさん、お風呂あいたそうなのでどうぞ」


「「はーい」」


***


「「はー、極楽ー」」


「ワフー」


 やっぱりお風呂はいい。人類が生み出した以下略って……あれは歌だっけ?


「向こう行ったらお風呂ないのは辛そうなんだよね」


「それね。でも、ミシャ様は当然として、マルリーさんもサーラさんも普通にお風呂入れてたし、実はお風呂あると思う」


「そっか。ミシャ様の本邸だっけ? それはちょっと見てみたい。土足禁止になってたりするらしいし、実は和風建築で檜風呂だったりするのかも」


 なんかこう、脳内の妄想が段々と日本のお城になってきた。畳とか障子とか普通にありそうな気がしてくる。


「まあ、最悪、お風呂は自作すればいいかなって」


「そうだね。石壁の魔法あれば大理石の浴槽とか作れそうだし、あとは水出してあっためればいいだけか……」


 意外と簡単に作れそうな気がしてきた。あ、でも、排水したり掃除のことを考えたりするとやっぱり大変? けど、魔法で割となんとかなるような。

 あ、魔法といえば……


「翔子は『慈愛』の装備を使い続けるってことでいいんだよね?」


「それそれ。そのつもりだけど」


「うん、『異端』の装備は使っていいよ」


 私には『慈愛』のローブと飛行魔法のためにもらった杖があるしね。


「ワフ〜……」


 浴槽べりにぺったりと伏せてるヨミ。

 お風呂は好きっぽいけど、ちょっとはしゃぎすぎた?


「ヨミが限界そうだしあがろっか」


「だね」


「ワフ」


***


「ヨミ、今日はチョコと一緒に寝てあげてくれる?」


「ワフッ!」


 チョコのベッドへと飛び込んでいくヨミ。かしこかわいい。


「嬉しいけど、結局、朝また同期したら一緒じゃない?」


「そうなんだけど気分的な問題? ちょっとカッコいい感じじゃない?」


「それだったら」


 チョコがヨミを抱えて私のベッドへと飛び込んでくる。


「ま、そうするよね」


「ワフン」


 二人並んだ間にヨミが寝そべって満足そう。あれだ、川の字になって寝るってやつ。


「父さん母さんと最後にこうやって寝たのっていつだっけ?」


「小学三年生ぐらいだったと思う」


 うーん、記憶は同期できてても『いつ何が起きた』って厳密には覚えてないんだよね。

 そういえば、ミシャ様が長いこと離れてると別人になっちゃうみたいな話してたのは、この辺が原因なのかな?


「翔子は私が別人になっちゃったら……」


「それはそれで」


「「面白そうなんだよねー」」


 うん、私だなあ。

 私っていう個人、いや個性かな? それがこの先、別の環境で生きて別の人格が形成されるとしたら、それはすごく見てみたい。とはいえ、


「連絡は密にね」


「もちろん」


 私とチョコの同期を何かを経由してって話をミシャ様にしたんだけど、やっぱりすぐにはできなさそうな返事だった。


「ま、ずれたらずれたで」


「だね。じゃ、そろそろ」


「「おやすみなさい」」

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