143. 翔子と量産型

 私とチョコのシンクロテストはその後も何度か試し、全て成功という好成績を収めて終了。

 というか完璧すぎてミシャ様から、


「ちょっとエラー時テストをしたいんで、わざとずらしてみてもらえます?」


 とか言われる始末。それでもお互いが「こうやったらズレるかな」って考えが一致しちゃってずれ無かったんだけどね!

 結局、ずれてる状態を確認するために、ルルさんとディアナさんでやってもらい、見事にずれました。

 なるほど、ずれると『ブブー』って鳴るのね。『これをなんと読む!』とか言われるかと思った。


 それが終わったところでお昼休み。ミシャ様がテーブルを取り出して、これは向こうで食べたラシャードラビットのソテーかな。


「すごくおいしいです!」


「うむ、ジビエ以上に肉の味が濃い……」


 美琴さんも智沙さんも大満足。いや、ホントにこの兎肉おいしいんだよね。とはいえ、量は控えめに。

 この後、チョコや智沙さんがルルさんに稽古をつけてもらうのと、私も教わらないといけないことがあるらしい。


「結局、私は何を教わるんでしょう?」


 食べ終わって食休み中。そろそろ教えてもらってもいいはず。昨日聞いた時はなんかはぐらかされたし……


「あ、うん、ゴーレムの操作方法なんだけど、魔素があるところでないと見せづらいからね」


「「ゴーレム!?」」


「混沌空間を解決するときって、チョコちゃんと私たちは向こう側にいないといけないでしょ?

 そうなると、翔子ちゃんを護衛するのは智沙さんだけになっちゃうから、護衛を増やしておかないとね」


 あ、そうだった。

 神樹を経由しての行き来ができなくなる前に、ミシャ様達は帰らないとなんだった。


「ゴーレムって、私たちが古代魔導具の倉庫で見たあれですか?」


「ううん、もうちょっとロボットっぽい、いや、アンドロイドっぽい感じかな。まあ、見てもらえれば……」


 で、食後のお茶も終わり、さっそくそのゴーレムを見せてもらうことになった。多分、転送して持ってくるんだと思う。


「ゴーレムは一体です?」


「いえ、三体渡しておきます」


 保存用、観賞用、布教用とかじゃないですよね? とか不埒なことを考えていると、ミシャ様があっさりとゴーレムを取り出し始める。


「一体だけ渡して、すぐ壊れたりしたらシャレにならないので」


「うわ、人間っぽい……っていうか……」


 銀色のゴーレムは、どこかの3Dゲームのラスボスによく似てる。

 なんだけど、長剣ロングソードに盾を持ち、鎧も着込んでいて、以前見た素体だけのゴーレムとは全然違うんだけど、なんというか……


「ひょっとして量産型ですか?」


「そうそう。白銀の乙女量産型って感じかな。ちょっとチョコちゃんこっち来て、首の裏に手を添えてくれます?」


「あ、はい」


 チョコが言われた通り、ゴーレムの延髄のあたりに手を添えると、淡い光が数秒出て終わる。ミシャ様に言われるままに、残り二体にも同様に手を添えていく。


「ひょっとして、チョコの戦闘データをコピーしてる感じですか?」


「そうそう。この子たちは学習能力がなくてね。というか、やっぱり学習能力を得ようとすると、どうしてもシンギュラリティを突破する必要が……」


 と技術トークを捲し立て始めるミシャ様。

 チョコはそういう意味ではマルリーさん、サーラさん、そしてルルさんと訓練してきたし、ここでも埼玉でも実戦を潜って学んできたもんね。


「つまり、チョコの実戦データを量産型にフィードバックするという……」


「「「○作戦!」」」


 そんなミシャ様まで叫ばなくても……


「こほん。で、翔子ちゃんにマスター登録してもらわないとなので、こっちへお願いします」


「はい。えっと登録ってどうやって?」


「登録っていうか起動ですね。起動した人の命令に従うようになってるので、眉間に指をあてて《起動》《白銀の乙女》と」


 なるほど。

 ……なんかもう動きそうで怖いんだけど、眉間に人差し指をそっとあてて唱える。


《起動》《白銀の乙女》


 ブオォォン……


 この目が光る演出いります? いや、動いてるって判別するには必要なのか……

 戦闘したら『ブッピガン』とかSE出しそうな予感。


「起動直後は必ず待機中になってます。で、命令が出るまでは動かないので」


「はい。えっと、その命令はどうやって?」


「えーっと、魔素通信って言えば良いのかな。対象のゴーレムまで魔素を繋いで。命令を送信するんだけど……」


 魔素を視覚化で見せてくれたミシャ様が魔素通信のやり方を教えてくれる。

 要するに魔素の糸をゴーレムに繋いで、それを伝って命令を送るっと。


「じゃ、試しに護衛命令を」


「はい」


《起動》《送信:操作:護衛》


 一番近くにいた一体に魔素の糸を繋げてから呪文を詠唱。


「おおお……」


 私の間の前まで来て庇うような構えで立ちはだかる。


「これは翔子さんを守ってるんでしょうか?」


「はい。えっと、ルル。ちょっとお願い」


「オッケー!」


 腰から戦鎚を手にするルルさん。あー、試しにってことですね。わかります。


「少し離れた方が良さそうだな」


「はい」


「じゃ、行くよー!」


 えええ……

 すっごい怖いんだけど大丈夫なんですよね?


 ………

 ……

 …


「終了〜!」


 最初は怖かったけど、ルルさんも十分手加減してる感じだったかな。それを盾で確実に防いでくれる白銀の乙女ゴーレム。


「これだけ動ければ大丈夫だね」


「思った以上に機敏に動くんですね」


「それはチョコちゃんのおかげかな。とりあえず護衛にしておけば大丈夫だと思うけど、それでも危ないと感じたら逃げることを第一にしてください」


「「はい」」


 うなずく私と智沙さん。

 ゴーレムは警護対象を追いかけてくれるらしいので、そこは気にせず逃げていいらしい。


「このゴーレムたちは、いろいろと終わった後はどうすれば良いでしょう?」


「このフロアの警備とか? まあ、何もしない待機でもいいですよ。魔素がないと動かないですし」


 というわけで、ミシャ様が『警備』と『待機』の命令も教えてくれた。

 警護の方は指定した場所への侵入を防いでくれるらしい。待機は本当に何もせず立ってるだけ。


「警護だと三ヶ月に一度、魔素を補充してあげてください。待機だと半年に一度ぐらいかな」


「了解です。今でも月一で確認には来てるので、その時にですかね」


 月に一度はヨミと遊びに来てるしね!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る