137. 翔子と神社

 翌日は結構早めの出発。今日は予定が盛り沢山なので。


白山比咩神社しらやまひめじんじゃまでは一時間ぐらいでしたっけ?」


「ああ、平日で観光客も多くはないので、渋滞などもないだろう」


 白山神社の総本山って話だったから、すっごい有名なのかと思ったらそうでもなく。

 でも、有名だったら知ってたよね。出雲とか伊勢とかは誰でも知ってるし。


 SUVの車内でわいわいしつつ、車は市街地を離れて南の山へ向かって進んでいく。


 だんだんうちの田舎に似た雰囲気になってきたところで、


「ミシャ! なんか飛んでる!」


 ルルさんが窓の外を見てはしゃぐ。その先には……おおお? ハンググライダー?


「この先にリフトがあって、そこからテイクオフしてるそうです」


「「おおー、すごい!」」


 あんな風に空を飛べたら気持ちいいんだろうなー……。いや、もう飛んだよ! こっちの世界じゃないけど!


「駐車場が見えてきたので降りる準備を」


「「はーい」」


 車が右折し、結構広い駐車場に入る。けど、さすが平日午前中って感じでガラガラ。お祭りがあったりするとかなり人出もあるらしいけど。


「なんか、既にちょっと神聖な雰囲気がある?」


「かも」


「ここは参道の途中になりますからね」


 と美琴さん。正面に石造の鳥居が見えて身が引き締まる思いが多少。


「では、行こうか」


 智沙さんが車の鍵をポチッとロック。メインはここではなくて山の方なので、荷物も積んだままで身軽に参拝予定。


 一礼してから鳥居を潜って、えーっとまずは手水舎に行かないと。後ろからついてきてるミシャ様は、ルルさんとディアナさんに作法を教えている模様。

 こういう時、向こうの言葉で会話してると「ああ、外人さんかー」って感じでほっこりするよね。


「「うわ、すご……」」


 荘厳な拝殿が見え、チョコと思わず唸ってしまう。


「ちょっと社務所の方へ行ってきますね」


 唖然としてる私たちを置いて、美琴さんが左手の社務所の方へ。館長さんから初穂料を預かっているので渡してくるらしい。すごい金額になってそう……


「うわっ、すごいねっ!」


「なんと美麗な……」


「こらこら、二人ともここは神聖な場なんだからはしゃがないの」


 ルルさんもディアナさんも拝殿の凄さはわかってくれた感じ? 向こうの人でも通じるんだったら、日光行った時にルナリア様に東照宮案内すべきだったのかな。いやでも、あれ家康公だしなあ……


 驚いている間に、美琴さんが智沙さんと戻ってきて、いざ参拝。二礼二拍手一礼。ミシャ様が二人に教えながら実践してるのが微笑ましい感じ。


 こう『……今…あなたの…心に…直接…呼びかけています』的なのが来るかもと思ってたけど特になく。うん、真面目にお祈りしよう。


『これからお伺いすることになると思いますので、よろしくお願いいたします』


 ……ちょっと事務的すぎるかな?


***


「さて、では出発する」


「「「はーい」」」


 私とチョコに加えてルルさんも元気よく返事を。駐車場近くのおみやげ屋さんでごっそりと買い物をしていたミシャ様。


 おみやげってよりはお昼? とちもちをごっそり買い込んでたけど、あれはルルさんの胃袋に収まる運命なんだろうか。


「翔子さんはこれを、チョコさんはこっちですね」


 美琴さんから渡されたのはお守り。社務所に行ったときにもらったのかな? 私に渡されたのはカラフルな感じのお守りで、チョコは白いやつ。


「ミシャ様にはこれを。ルルさんはこちらで、ディアナさんはこれです」


 それぞれ、青、赤、緑のお守り。


「ありがとうございます。こっちが久しぶりすぎて、すっかり忘れてました……」


 とミシャ様。そういや、ディアナさんは弓が得意なんだし破魔矢とか良かったのでは?


「あと破魔矢とか絵馬とか、授与品を全種類全部いただけましたので、またあとでお渡ししますね」


「あー……」


 遠い目をするミシャ様。わかります。館長の初穂料がとんでもない額だったせいなんだろうなーとか思ってるんですよね!


「これってどうすればいいの?」


「手首に巻いておくのか?」


「ううん、そんなずっと身につけて……おいた方がいいんだけど、そうそうギルドカードと一緒に持っておけばいいから」


 ミシャ様、普通にギルドカード持ってるのね。それを取り出してお守りをそっと入れる。それを真似する二人。面倒見良いなあ……


「ワフ」


「あ、クロスケのぶんってあります?」


「あ、はい。これを」


 美琴さんが渡したのは小さいストラップ型のお守り。スマホ流行ってから携帯ストラップってあんまり見ないけど、まだあるんだ……


「ほら、クロスケおいで」


 そういうとミシャ様の膝にもふっと顎を乗せるクロスケさん。赤いスカーフを外し、なんだかすごいプレート状の首輪の横にそれを結ぶ。


「ワフン」


「はい、ヨミちゃんのはこれですよ」


 大人の真似をしたいお年頃なのかな。さすがにあの首輪には負けるけど、こっちのだってお値段はすごいはず。


「うん、似合ってる似合ってる」


 なんだか神の使いっぽい感じがしてきたけど、元々そうでした。ヨミがいないと神聖魔法は使えないもんね。


 車は国道に戻り、さらに山奥の方へと進んでいく。目的地は白山白川郷ホワイトロードっていう、石川と岐阜をつなぐ白山越えの有料道路の真ん中へん。


 マップアプリで見ると、白山沿いをずーっと南下し、そこから東へ進んでホワイトロードに。国見展望台っていうのがあって、そこからしばらく歩く予定。


 今はまだ南下中なんだけど、


「ミシャ、さっき買ってたのは?」


「とちもちっていう、木の実と合わせたおもちだよ」


「食べたい!」


 ルルさんがさっそくおみやげに手を出そうと。向こうの世界の人はみんな健啖家ってやつだよね。昨日も結構な量を食べてたし。


 それはそれとして……


「餅って向こうの世界でも食べられるんですか?」


 とチョコ。


「あー、お餅は私が米を食べてる地域を見つけたからね」


「「へー」」


 向こう世界の南方に米を食べてる地域があって、それはタイ米みたいな米だったんだけど、品種改良を続けてもち米にまで進化?させたそうで……


「日本人的な執念でそこまで!?」


「いや、私が品種改良したわけじゃないからね? ソフィア……こっちから転生した子に全部任せっきりだったし」


 勇者召喚での転移じゃなく、チート?をもらって転生した人もたまにいるそうです。なんだか、意外と行き来してるんだけど、それはちゃんと許されてるってことなのかな……

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