136. チョコと翔子と三人娘

 小松空港に降り、そこから六条のSUV——八人乗りでした——に乗って金沢駅前のでっかいホテルに直行。無事こっそりと?チェックインして一段落。


 翔子と私、美琴さん、智沙さん、ヨミで一部屋。ミシャ様、ルルさん、ディアナさん、クロスケさんで一部屋。

 ヨミには「クロスケさんと一緒にいてもいいよ」って話を翔子がしたら、すっごく迷ってたけど、結局、翔子のところに。


 それにしても、飛行機の中でも車の中でもずいぶんとミシャ様に質問された。主に私、『チョコ』っていう存在についてのことだけど……


***


「こう、いろいろと失礼な質問になるかもだけどいい?」


「「あ、はい、どうぞ」」


 二人して同時に答えてしまうのも、もう慣れたっていうかいつものこと。それを見てミシャ様はちょっと面白そう。


「チョコちゃんは、自分が翔子ちゃんから切り離された別人格だって思うことはある?」


「う、うーん、難しいですね。私が翔子じゃないことははっきりわかってますけど、違う人格だって思ったことはないです」


 率直に答える。


「チョコって、要するコピー○ボットじゃないんですか?」


「その例えは正しいし、元々そういう用途で作られたらしいんだけどね。ただ、長く使い続けるとどうしても『ズレ』が起きて、別人になっちゃったっていう話が残ってて……」


 な、なるほど……


「私とチョコはほぼ毎日同期してるからズレないとか?」


「うん。それはとても重要で、やっぱり同期が不十分というか、長く離れて稼働してた魔導人形はもはや別人って言えるレベルになるみたい」


 別人……全然想像がつかないんだけど、やっぱり記憶がずれてくるとってことなのかな?


「チョコの体って、古代魔導具なんですよね? ってことは、使ってたのは古代の人ですか?」


「そう。でもまあ、使い方が良くなかった可能性は高くって、魔導人形の方に酷い環境で実験をやらせてたりした感じ」


「うわぁ……」


 ミシャ様の話だと、人体では耐えられないような——例えば高温だったり、低温だったり、有害なガスがあったりの——環境での実験とかやらされてたらしい。


「えええ、自分の分身にそんなことさせるとか、私だと絶対嫌なんですけど……」


「それは翔子ちゃんが優しいからだよ」


 そう言って微笑んでくれて嬉しい。


「でも、私ってルナリア様がミシャ様に贈られた物だと聞きましたが。万一の時のために……」


「うん、まあ、それはルナリア様がそう使えってくれただけで、私自身が使うつもりは全く無かったから気にしなくて良いよ」


 とあっさりした答え。


「そうなんです? なんだか随分とお忙しい感じだったって聞きましたけど」


「いや、ほら、私はコピー○ボットがいたら喧嘩するタイプだし……」


 そう言って目を逸らす。そうなんだ? 意外と作業分担できそうなタイプに見えるんだけど。


「まあ、そんな感じだから、ちょっとした遊び心で『白銀の乙女』にしちゃってて、実際に使うことなんてないだろうと思ってたんだけど」


「今回の転移事故を見越してってわけではなく?」


「いやいや、まさかまさか」


 手をパタパタと振って否定する。


 ミシャ様の話では、パルテームでのクーデターは王族を捕まえて終わり、ってオチのはずだったそうで。

 転移で逃げた先についても、あのダンジョンの第十階層だってわかってて、ゆっくり追い詰めるつもりが……的な。


「それで話を戻すんだけど、具体的に二人は違うことをしてるよね? フェリア様の話だと、翔子ちゃんは全部の魔法が使えるみたいだし、チョコちゃんは白銀の乙女らしく戦えるみたいだし」


「「はい」」


「お互い、別のことしてるってことに違和感とかない? あとは『あっちの方が楽そうだな』とか憧れっていうか嫉妬っていうか」


 うーんと首を捻る私たち。この辺も記憶の同期をまめにやってるからなんだろうけど……


「その瞬間は少し思うかもですけど『あとでわかるからいいか』って感じですね」


「それそれ」


「へー、それはちょっと面白いっていうか、疲れるとか苦しいとかいうのも共有できてるの?」


「ええ、はい。もちろん過去形になっちゃうんですけど、マルリーさんとかサーラさんとの特訓ってそういうことありましたし」


 そう答えるのはもちろん翔子。私自身がそれを感じるときは『痛っ!』とかだしね。


「それって同期した時に強制的に思い出す感じ? それとも思い出し直すの?」


「うーん……手を合わせて同期してる間に何倍速かで体験してる感じかな?」


「あ、うんうん、そんな感じ」


 私たちの答えに納得というか、


「そういう仕様だったら、危険な目に合わせた自分と同期するのは嫌がるか……」


 と。古代に魔導人形を作った人たち、自分でどうなるか考えなく作ったのかな? いや、そんな使い方されると思ってなかったとか?


「でも、わざわざ痛い思いをし直すって辛くないの?」


 そう聞いてきたのはルルさん。


「実際に痛いわけじゃなくて、痛いって思ったっていう記憶なので。それに、マルリーさんやサーラさんと手合わせしてる記憶って、自分ができないことをやってる感じで楽しい方が大きいかな?」


「おおー、すごいね! チョコがマルリーさんやサーラさんにそっくりなのは、ミシャがそうしたからってだけじゃないんだね」


「そりゃね。私が元の魔導人形にプリセットしたのは、あくまで私が見た『白銀の乙女』だし」


 魔導人形自体は本人のコピーとなるだけの機能だけど、それを『白銀の乙女』にカスタマイズしたのはミシャ様。

 それぞれの武器や防具への換装機能だけでなく、動きをトレースしたデータも入ってるんだそうで……


「そういえばケイさんの技がいまいちだったけど、教わらなかったの?」


「あー、教わる時間がなかったんですよね」


 マルリーさんやサーラさんは教える気まんまんで来てくれたから良かったけど、ケイさんはルナリア様のとこまでの道案内に専念って感じだったし。


「じゃあ、時間がある時にでもルルが教えてあげれば?」


「ふっふっふ。まーかせて!」


 アッハイ。と、ここで聞き手に回っていたディアナさんも参加。


「では、魔法に関しては翔子殿が独自で?」


「はい。でも、元素魔法は本で読んだの程度ですし、神聖魔法はヨミのおかげですし。あ、精霊魔法はフェリア様に教えてもらいました」


「ああ、精霊魔法に関しては私より上な気がするな……」


 遠い目をしながら呟くディアナさん。樹洞うろのサイズが翔子が開けた方が大きいことって、やっぱりショックだったのかな?


「ディーは光の精霊や風の精霊とも契約してるでしょ。それに弓の腕前はすごいんだから、あんまり自分を卑下しないの」


「あ、ああ」


 なんだか仲が良いなあ……っていうか、二人がミシャ様に依存してる気がしなくもなく……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る