135. 翔子と目的

「じゃ、打ち合わせを始めましょう。手元の資料をご覧ください」


 そう告げるミシャ様。めちゃくちゃ会議っぽいです。で、手元の資料は今朝渡されてたやつ。どこに行くかと何をするかがざっくりと書かれているんだけど、


「すいません。宿の手配はできました?」


「はい、金沢駅前のホテルを手配しておきました」


「移動には車が必要だが、そちらも?」


「手配済みです。小松空港で六条のSUVを受け取る手はずになっています」


 その答えに頷く智沙さん。SUVって何人乗りだっけ? ここにいる六人、とクロスケさんとヨミだから八人乗りとかかな?


「空港からホテルまでどれくらいかかります?」


「一時間弱ですね」


「ホテルから白山比咩神社しらやまひめじんじゃまでは?」


「これも一時間弱です」


 なんだかその神社にお参りするらしい。で、その後さらに……


「ホワイトロードの目的地まではどれくらい掛かりそうです?」


「車で行ける場所までは一時間半ぐらいでしょうか?」


「なるほど。じゃ、お昼に金沢に向こうについて、その日のうちに全部まわるのは厳しいかな。お参りと目的地へ行くのはついた次の日にしましょ」


 とあっさり。急ぐけど無理はしない感じ? まあ、山で日が暮れたりしたら遭難しかねないし、それはそれでいいと思うんだけど。


「それで、目的地で何を?」


「こっちの偉い女神様に会います」


「「はっ?」」


 間抜けな反応をする私とチョコ。目が点になってる美琴さんと智沙さん。

 椅子が足りないのでベッドに座ってもらってるルルさんはヨミと遊んでるし。同じくディアナさんもクロスケさんのブラッシングに夢中。


「えっと、参拝する白山比咩神社しらやまひめじんじゃに祀られている?」


「ですです。菊理媛命くくりひめのみことっていう女神様で、縁を司る女神様ですね」


 ミシャ様曰く、黄泉平坂よもつひらさか伊奘諾尊いざなぎのみこと伊奘冉尊いざなみのみことを仲裁した女神様だそうで。


「昨日、筋を通すと言われていたのは、その菊理媛命くくりひめのみことという神様に?」


「ええ、こちらの世界と私たちの世界は基本的に分かれていて、繋がってちゃダメなんですが、神樹の力で道ができている状態を謝りに行かないと」


 智沙さんにそう答えるミシャ様。今のところそれは見逃してもらえてるのか、謝りに来るのを待ってるのか、ともかく会ってみないとわからないと。


 あれ? 怒られ案件なのこれ? とちょっと身構えたのに気づかれてしまったのか、


「ああ、別に怒られて天罰が下るとかはないと思うので心配なく。嫌味の一つも言われるかもだけど、まあ、それぐらいはね」


「わかりました。ですが、御前からは皆さんのことをくれぐれもと頼まれていますので……」


「大丈夫ですよ。それにこの状況を解決することを優先してくれるはずですし、そのための力を貸して欲しいと思ってるので」


 昨日言ってた、協力してもらうってことの方かな? 確かに神様に力を貸してもらえるなら、大抵のことはちょちょいっと解決しそうな……


「具体的にどのような協力をしていただく予定なんでしょうか?」


「混沌空間っていうのは、いわばこっちとあっちが絡み合ってる状態なので、それを解く方法を教えてもらえればと。

 すっぱり解いてもらえればありがたいんですけど、さすがに直接手出しされることはないと思いますし」


 おお! ってことは、封印とかじゃなくて完全解決の道!?


「わかりました。えっと、何か御供物とかが必要なんじゃないでしょうか?」


「えっ? あ……、なんか適当によろしくお願いします」


 え? えええー……


***


「おおー! これが飛ぶの? 飛ぶの?」


「はいはい、ルル。離陸するからシートベルト、これをこうね?」


 窓の外に興味津々のルルさん。シートベルトを説明するミシャ様。そして……


「万が一の時は風の精霊に……」


 青い顔でブツブツ言ってるディアナさん。この鉄の塊に入って空を飛ぶ、と聞いた時から青ざめたままだけど大丈夫なのかな?


『それでは発進する』


 智沙さんが副操縦士だそうです。なんかもう戦闘機も操縦できますとか言われても驚かない気がしてきたよ。


 滑走路までの移動——タキシングだっけ?——があって、いよいよ離陸。グッとGがかかってから、ふわっと体が浮く感覚。窓の外を見ると高度が上がってるのがよくわかる。


「おおー!」


「はいはい、落ち着いて」


 テンション高いルルさんを落ち着かせるミシャ様。一方でディアナさんはガクブル状態になってるけど……


「ディーも大丈夫だって。万が一のことがあっても、ここのメンバー全員で神樹の前まで転移すれば済むし」


「そ、そうか!」


 その言葉を聞いて少し落ち着いた風のディアナさん。


『シートベルトを外してもらって大丈夫だ』


 智沙さんのアナウンスが流れてきてホッと一息。小松空港までは一時間ほどだそうで、その間はまったりかな。

 それにしても『メンバー全員で神樹の前まで転移』って……


「そんなに一度の人数を転移して、ミシャ様は大丈夫なんですか?」


 とチョコ。


「え? ああ、うん。いざというときのために、こういうものを持ってるから」


 そう言って胸元から取り出したのはビー玉サイズの宝石がついたネックレス。シンプルな銀のペンダントトップが可愛い感じなんだけど、そういうことじゃなくて、


「魔素を溜めてあるんですか?」


「そうそう、魔晶石の何万倍も溜められるんだけど、使うと割れちゃうのがね」


「それは……本当に大事な時に使う感じですね」


 これがエジプト行きの飛行機だったら確実にやばかった気がするけど、国内だから大丈夫のはず。


「この人数を一度にあの神樹の場所まで転移できるって、冷静に考えるとすごいですよね……」


「そもそも転移とか転送とかってどういう原理なんです?」


「えーっと……超弦理論って知ってる? 超ひも理論とか言われてた頃もあるけど」


 はい? 何それ? ひもって……働かずに養ってもらうやつじゃないよね。


「量子論と相対性理論をまとめる大統一理論、かもしれないと言われている理論ですよね?」


「それそれ。その超弦理論だと世界は十一次元空間で表されるんだけどね……」


 そこから始まる怒涛の魔法科学マシンガントーク! とはいえ、ミシャ様も魔法の原理を全て理解しているわけでもないそうで。

 ぶっちゃけ、古代魔道具を地道に解析して「多分そうじゃないかな」ぐらいらしい。


「すごいです。独力でですよね?」


「まあ、他に数学とか物理を理解できる人がいないからね。誰かに教えて残したい気持ちもあるけど、行列計算とか微分積分の概念を教えるのが大変で……」


 はい。私も理解できそうにないです……

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