134. 翔子と晩餐
六条邸に戻って車から降りると、そこにはもう館長さんが待ち構えていた。私とチョコと美琴さんが急いで降り、続いてミシャ様が降りたところで、
「美沙だよな!?」
「あー、絵理香。初めましてでいいのかな?」
「なんだよ、水くせえな!」
そう言いつつガッチリと握手する二人。そして、後ろからディアナさんとルルさんが降りてきたんだけど、
「うわっ、エリカそっくり!」
「言っただろう?」
ってなやりとりを。向こうの言葉だから館長さんには通じてないかな。いやまあ、館長さんはそれどころじゃなさそうだけど。
「美沙、お前、老けないのずるくねーか?」
「いやいや、いつまでも仕事させられる方がキツいんだって」
「そりゃ、私だって変わんねえぞ」
にこやかにそんなことを話し合ってるけど、ミシャ様ってやっぱり老けてないんだ。不老不死とかってやつ?
あ、召喚されたんじゃなくて、違う種族に転生したとかそういう?
「ミシャ、そろそろ我々も」
「ああ、ごめんね。ディー……ディアナにはもう会ってるよね。で、こっちがルル。あの件でもいろいろ手伝ってもらった、私の親友」
「おう!」
ルルさん、ディアナさんと握手する館長さん。なんか『あの件』とかいうワードが出てきたけど、あまり突っ込まない方がいい、よね?
「館長、皆さんを別邸にご案内してきます」
「おう、翔子ちゃんたちもお疲れ! 今日は宴会だ!」
館長さんのテンションがめっちゃ高くて不安になるレベルなんだけど……
***
別邸ではフェリア様やルナリア様、マルリーさん、サーラさんに使ってもらっていた広い部屋に入れ替わりで滞在してもらうことに。
服もそれぞれこちらの物に着替えてもらってから夕食、というか晩餐、というか宴会突入。
館長さんが用意したんだろうけど、ひたすらお寿司を食べるミシャ様。その隣では『生魚とか信じられない』みたいな顔をしたものの、唐揚げやら餃子に夢中になるルルさんとディアナさん……
あ、私はお寿司です。ええ、そりゃもう、唐揚げやら餃子ならいつでも食べられるから!
………
……
…
「で、お前さんがこっちに来たってことは、翔子ちゃんにも任せられない問題があるってことだよな?」
デザートタイムなんだけど、館長さんが前置きもなくスパッと切り出す。って、私には任せられない問題?
「はあ、察しのいいのはどっちのエリカも同じなのね」
「いや、みんなだって気づいてんだろ?」
やばい! 私とチョコだけ気付いてない!?
「混沌空間のデータを取り、お話にあった魔導具を調整するだけなら、こちらの世界に足を運ばなくてもできます、よね?」
「その上で調整して、実際に動作させるとしても、こちらまで来ていただいたのは、別に何かあるとお見受けしますが」
あ、確かに……。神樹のフロアから上に来る必要はないよね。擬似無限収納で家とか出せそうだし、あのフロアに寝泊まりするのでも問題ない気がする。
「あはは……。まあ、ちょっとこっちの世界に筋を通さないといけないのと、あわよくば協力してもらえないかなーって」
こっちの世界に筋を通す? 協力してもらう? なんだろ、こっちにも賢者がいるとかそういうことなのかな?
「なるほど。あたしが力になれることはあるか?」
「うん。そのために白山に行かないとなの」
「白山?」
白山ってどこ? チョコを見ても……知らないよね、私なんだし。でも、白山っていうぐらいだから……白い山?
「白山の本山ということであれば、石川県でしょうか?」
と美琴さん。石川県って……どこだっけ?
「ですです。東京からだと遠いんですよね。新幹線だと長野から富山抜けてかな? 京都から福井抜けた方が近いかも?」
「いやいや、飛行機の方がはえーだろ。な、智沙?」
「そうですね。羽田からプライベートジェットで小松に降りるのがいいかと」
プライベートジェット……なんかすごい事になってるんだけど、いや、今さらな気がする。うん。
「おし、明後日にも出れるように手配しとけ。ただ、明日は付き合ってくれんだろ?」
「うん、それはもちろんね」
話がとんとん拍子で進んでいくけど、ともかく明日は一日休みかな? で、明後日に飛行機で石川県まで飛ぶ、と。
この場で細かい事まで話してもってことで、その後の細かい日程については、明日の夜にでも話してくれるらしい。
別段、危険なところに行くわけでもないけど、質問とかはそれまでにまとめといてもらえると助かります的な。
なんというか『てきぱき』って言葉がこれほど似合う人って初めて見たかも。その割につれてる二人がゆるいのは……バランスなのかな?
***
「では、お願いする」
「さあ、こいっ!」
翌日。別邸裏手にあるトレーニングルームでは、智沙さん対ルルさんの模擬戦が始まろうとしてるところ。智沙さんとチョコが交代でって話っぽい。
ディアナさんはクロスケさんとヨミを連れて庭をお散歩中。で、ミシャ様はというと、
「美琴さんの大叔母様でしたっけ?」
「ひいお爺様の妹はなんて言うんでしょう。ともかく、私にあの転送の箱を譲ってくださったお婆様です」
「お墓は千葉の方なんですね」
館長さんと二人でその方のお墓参りに行かれたそうです。人間関係がよくわからないけど、美琴さんが持ってる転送の箱は間違いなくミシャ様作なんだろうし、お二人の共通の友人ってことなんだと思う。
「戻られるのは夕方でしたっけ?」
「はい、そう聞いています」
まあ、二人で積もる話もあるしって感じかな。まあ、一日ゆっくりしてもらえばなんだけど、智沙さんとルルさんの模擬戦は本気モードに突入中。主に智沙さんが。
王国騎士団の戦闘師範らしく、ポリカーボネートの盾とゴム製の警棒で智沙さんの攻撃をうまくあしらってる、ように見える。
「どう?」
「なんていうか、すごくバランスが良くて……勝てるビジョンが全く見えない」
チョコがげっそりした表情でそうこぼす。
「そんなに?」
「マルリーさんは防御じゃん? サーラさんは回避じゃん?」
「うん、そうだね」
「その二つにさらに攻撃が加わってる感じ」
「あー」
智沙さんの攻撃を受けたり、流したり、避けたり……してから確実にそれを咎めてくるし、なんなら攻撃する前に先読みされてる?
「チョコ君、交代だ……」
智沙さんがぜいぜい言いながら戻ってくる。さすがにルルさんも汗はかいてるみたいだけど、どっちかっていうとアップ完了しました的な……
「チョコ、がんばって」
「翔子も一緒にやらない……よね」
「私と美琴さんはこれ確認する仕事があるから」
朝にミシャ様から白山行きへの行程表をもらってる。美琴さんにノーパソを借りてちゃちゃっと作ったらしい。
「むう、頭脳労働と肉体労働」
「ギャラは同じですってね」
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