128. 翔子と一時帰宅
実家に戻ってきて十日ほど。奥にあるキャンプ場にも行って、金鉱床が転移してきた場所も再確認。ムカデの魔物も復活してたりしなかったし、古代魔導具で魔素を水に変えて終了。その後は温泉を堪能して帰ってきました。
「それにしても、あの二人は熱心ねえ……」
ルナリア様がそんなことを言うのはチョコと智沙さん。今日も今日とてマルリーさん、サーラさんと手合わせ中。チョコはまあ私も凝り性だしわかるけど、智沙さんはいったい何を目指してるのか。
「そういえばさっき館長から連絡が来てたんですが、智沙さんのお父様は退役されたそうです」
「え? それってひょっとして?」
「はい。責任を取ってということですけど、六条警備保障に転職していただきましたので」
わー、わかりやすい天下りって感じだー。でもまあ、あのことを知ってるのは関わりがあるところだけにしたい感じかな。
「こうね。はい、翔子の番よ」
「うっ……、ルナリア様、上達早すぎ……」
今回は休みなのか仕事なのか微妙な状態。一応、あのキャンプ地の開発計画を考えるっていうお題は出されているものの、実質はルナリア様御一行の接待旅行的な。
そんなわけでおもてなし中なんだけど、向こうの世界に戻ってもできない遊び——アニメ鑑賞とかテレビゲームとか——をやると大変なことになりそうなので……お約束のリバーシとか将棋で遊んでるんだけど……
「翔子さん、詰んでますから」
「アッハイ……」
「翔子には勝てても美琴には勝てないわね」
将棋なんて随分久しぶりだけど、二人とも知らないだろうし余裕でしょとか思ってたのに。美琴さんはお父さんと指してるそうで圧倒的敗北の山。
で、最初は全然だったルナリア様もあっという間に強くなっちゃってもうね。いい勝負ができるようになってからは、ずっと対戦相手にされる次第。これがラノベだったら『白竜姫のおしごと』って名前になってるよ……
「ん? あ、手紙来てる」
美琴さんと交代ということで席を立った時に、チョコの格納庫の下段、転送の引き出しが点滅しているのに気づいた。
「ミシャがそろそろ帰ってこいって言ってるのかしら?」
「そいや、そろそろ一月になりますもんね。フェリア様へのおみやげどうします?」
「翔子が適当に見繕ってくれればいいわよ」
はいはい、そうだと思ってました。まあ、そろそろ買っておかないとかな。とりあえず、転送の引き出しを開けて手紙を取り出す。
「ちょっと休憩……」
「ああ、ちょうど良かった。向こうから手紙が来てたので」
「ふむ。そろそろ戻る頃かと思っていたしな」
汗を拭きつつ席につく智沙さんたち。マルリーさんもサーラさんもそこそこお疲れ? 二人ともかなり強くなってきたのかな?
「シルバリオ様も心配してるでしょうしねー」
「そだね。そろそろ戻らないとかな」
こっちの世界を満喫してた二人もさすがにそろそろと思ってたっぽい。私としては、実家にたくさん人がいるのは楽しいので、それそれでちょっと寂しい感じが……
「それで、なんと書いてあるのかしら?」
「あ、はい」
封蝋を割って中身を取り出して目を通す。いつも通り『お世話になっております』からのお仕事な感じの出だし。時節の挨拶みたいなものは見たことないです。
「えっと……、ルナリア様がそろそろっていう話と、例の第十階層についてこちら側も再調査して欲しいって話ですね」
「あの場所か……」
智沙さんの珍しい嫌そうな顔。確かにあそこは気持ち悪いもんね。
「再調査とは具体的に何か見なくちゃいけないことがあるんでしょうか?」
「うーん、特にこれを確認してっていう感じではないですね。違和感があったら教えて欲しいって感じです」
「ルナリア様が帰る日についでにって感じなのかな?」
「ですかねー」
白銀の乙女の二人もそんな感じなので、あんまり気負わない方がいいのかな? でもまあ、気を緩めずに行かないとね。
***
「それじゃ、いってきます。またしばらく家を開けますけど」
「はいはい、家のことは心配しないでね。楽しそうにしてるみたいだし、こっちのことは気にしないでお仕事頑張ってね」
夕飯後に町子さんのお店『シティ』にちょっとお邪魔して、明日からまた東京に行くことを報告。例によって美琴さんがついて来てます。
「美琴ちゃん、翔子ちゃんのことお願いね」
「はい、任せてください!」
任されてしまいました。うん、まあ、お世話になりっぱなしなので、実際任されちゃってる気がするけど。
「じゃ、明日は早くに出るので」
「ええ、気をつけてね。いってらっしゃい」
「「はーい」」
田舎の夜は暗い。けど、月明かりがすごく綺麗だったりする。
「そういえば、向こうの世界って月が二つあったんですよね」
「そうなんですか?」
もし月がなかったら、潮の満ち引きが少なくなって、自転が速くなって一日が八時間ぐらいになったりするらしいけど、二つあったからといって一日が長かったりはしなかったんだよね。
「ダンジョンを出たところの村が結構酷くって、いろいろ大丈夫なのかなとか思ったんですけど、そこ以外は楽しかったかな」
「私も一度行ってみたいです。向こうの人たちが来てるんだから、こっちが行っても良くないですか?」
「確かにそう言われると……」
白銀の乙女の二人はちゃんと仕事に来てるって感じがあるけど、フェリア様とルナリア様に関してはほぼほぼ観光だよね。でも、あっちの世界はあちこち回るのがかなり大変。
「移動の問題があるんですよね。ダンジョンを出た後に丸一日飛んで、やっと……ノティアだっけかな? 道も整備されてないから空を飛んで行って、それも途中で魔物に追われたりとか」
「そう考えると、こっちの世界は移動もお手軽ですよね」
あれ? 距離的なことを考えると、私が向こうで移動したのって日本国内とかそういうレベルだよね。帰りはともかく、行きは随分移動した気がしたんだけど……
「どうしました?」
「あ、うん、向こうで三つ、四つかな? 違う国に行ったけど、こっちだと県ってぐらいの移動だったのかなって」
「普段の移動距離が短いと国のサイズも小さくなるんでしょうね。日本も戦国時代はたくさん国があったわけですし」
「あ、そっか」
そんなことを話しながら夜道を進んでいると、家の前にヨミが待ってくれていて、私たちに気づいて駆け寄ってくる。
「ワフ〜」
まあ国が違おうが世界が違おうが、ヨミのかわいさは普遍だよねってことで……
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