124. 翔子と状況終了

 オークが現れて、アサルトライフルの銃火に沈んでから二時間弱。あれからは特に魔物の襲撃もなく、のんびりモード。


「おー、ノティアの森の館に行ったんだ。シルキーちゃん元気だった?」


「ええ、ドワーフ自治区でまた会った時はびっくりしましたけど……」


 特にすることもないので、向こうに行った時のことを改めて話してたり。ディオラさんがチョコの『異端の白銀』に悶えてたことは黙っておかないと、かな? とスマホに着信が。


「はい、翔子です」


「私だ。水量が減ってきたので、皆で来てくれ」


「了解です。すぐ行きます」


 オフって振り向くと、みんなはもう行ける状態。時間は午後四時前。暗くなる前に終わって欲しいところだけど。


 私たちが駆けつけると、智沙さんが副長さんと協議中? とりあえずそれが終わるのを待とうかと思ったら、


「翔子君、加わってくれ」


「あ、はい!」


 呼ばれて会話に加わることに。


「放水量が減ってきたので様子を見た方がいいと思うのだが、どうだろう?」


「そうですね。チョコと二人、いや、サーラさんも加えて三人で見てきましょうか?」


「すまんが頼む。ついでと言ってはなんだが、携帯が通じるかも試したい」


 ああ、なるほど。魔素が薄くなってるなら、電波が届く可能性も? そうなれば銃火器を持って行けるようにもなるはずだし。


「了解です。ちょっと待っててください」


 というわけで、チョコとサーラさんに説明を。さくっと行って確認してきましょう。


「ワフ?」


「ヨミはちょっと待ってて。もしかしたら呼ぶかもだからね」


「ワフン」


 ちょっとしょんぼりなヨミだけど、本当にちょっと確認に行くだけだしね。


「じゃ、見てきます」


「頼む」


「お願いします」


 副長さんにもお願いされてしまってはしょうがない。サーラさんに先頭を任せ、チョコが大盾を持って続く。私は一番最後。


 穴の手前まで来ると、その中の水がほぼ空っぽになってるのが見えてきた。でも、まだ魔導具からはチョロチョロと水が出ているので、完全に無くなったってことでもないか。


「ちょっと向こう見てくるよ」


「気をつけてくださいね」


「はいはい」


 気楽な返事をしつつ、ひょいっと穴を飛び越えるサーラさん。そして、オークの死体も確認するのか土嚢の端っこを駆け上がる。


「私、降りて見てくる?」


「ううん、近くに行ったからって変わらないと思うし」


「だよね」


 チョコも答えがわかってての問いってやつかな。


「やっぱり集まってくる魔素が減ってるから?」


「多分そうかな? もう廃坑の端っこにあった魔素がチョロチョロ来てるだけとか?」


「普通に考えるとそうだよね」


 そんなことを話してるとサーラさんが戻ってきて、その表情がかなり真剣な感じで。


「何か気になることが?」


「多分だけど、アンデッドが近づいてきてると思う」


 うげっ、どうしよ。ヨミを呼ぶかな? いやでも、魔素が薄くなってきてるし、うーん……って電波の話があったんだった。スマホで智沙さんに繋がるかな?


「智沙さん、聞こえてます?」


『……るようだな…や…だ不明瞭だ……る』


 微妙にダメっぽい。「時々聞こえるところがやりきれねぇ」ってやつだこれ。と通話が切れた。


「とりあえず戻ろ。ここにいてもしょうがないよ」


 サーラさんに突っ込まれて慌てて智沙さんのところに戻る。で、サーラさんの違和感を説明。智沙さんは前に都内の第七階層以降でアンデッドともやり合ったし、面倒くささは……あの時は楽勝だったっけ。


「どうしましょう? ヨミ連れてって、今のうちに私たちで対処します?」


「……いや、彼らに任せてみよう。スケルトン程度ならきっちり当てさえすれば勝てるだろう。それにアンデッドは確か陽の光に弱いのではなかったか?」


 ああ、そっか。山の中ではあるけど、まだ午後四時ぐらい。秋晴れといった感じだし、あと一時間ぐらいは大丈夫かな。……智沙さん、アンデッドが陽の光に弱いってなんで知ってるの?


「アンデッドって明るいところダメ、ですよね?」


「うん、そだね。とりあえず暗くなるまでは大丈夫かな。でも、逆に暗くなる前に処理しておきたいね。魔素が無くなってるなら、そのうち動かなくなるとは思うけど」


 すでに死んでる状態を無理に動かしてるので、やっぱり魔素が無くなれば朽ちるとのこと。日光が当たれば尚更らしい。


「じゃ、私たちはサポート主体で行きましょうか」


「うむ」


 で、ずっと向こうの言葉で話してたからか、副長さんはさっぱりわかってないっぽい。未知の言語で会話されたらどうしようもないよね。幕末だかに、薩摩弁が謎言語として幕府に恐れられたって話って本当なのかな……


「……という感じだが大丈夫だろうか?」


「は、はい。やってみます!」


 智沙さんが真面目な顔で副長さんに説明したっぽいんだけど、話してる内容がもう「は?」って感じなんだよね。それでも真面目に答えてくれるあたりがすごい。今さらかもだけど。


「ヨミ、いざというときはお願いね」


「ワフン!」


 魔素がない状態で魔法を使うと、もちろん魔素を消費して、でも回復はしなくなる。私や智沙さんは魔素がなくて平気だけど、チョコ、サーラさん、ヨミはまずい。


 チョコは魔導具だし私が充魔できるからいいけど、サーラさんとヨミは意識不明とか洒落にならなくなっちゃうからなあ。


「無理しちゃダメだからね?」


「ワフ」


 真面目な顔で頷いてくれるヨミ。かしこかわいい。


「未確認生物を確認! い、いや、生きては……」


 どうやら来たっぽい。智沙さんが慌てて双眼鏡を覗く。


「スケルトンだな。一番楽な相手だろう」


「あー、それなら壊し続ければ、いつかは動かなくなるね」


 とサーラさん。マルリーさんもそんなこと言ってたような気がする。


「つるはしを持っているが、鉱山として使われていた時に強制労働でもさせられた恨みか?」


「あー、まあ、そういうことしてそうな国だったっていうのは聞きました」


 最初に立ち寄った村とか酷かったしね。こっちでいうところの政治犯みたいなのに仕立て上げて、鉱山で強制労働させるとか定番っぽいよね。


「撃ち方用意! ……撃て!」


 副長さんの号令で銃撃音がおとなしめに響く。夕方近くになってるせいか、肉眼じゃもう全然わからない。オークの時よりも撃ってる時間が長い気がしてきたところで、


「撃ち方止め!」


 止めたってことは大丈夫? いったん確認? サーラさんも気になってるのか、智沙さんに確認。


「どう?」


「殲滅できたようです。最初はどこを狙えばいいか迷っていたようですが、当たれば確実にダメージを与えていたようですね」


 腕なり足なりふっ飛ばせば、そこから飛び散った魔素は魔道具に吸われて、って感じかな? ということは……


「智沙さん、水量がほぼゼロになってます」


「よし。完全にゼロになったら撤収作業に移ろう」


 オークの死体とかスケルトンの……残骸とかどうするんだろ? まあ、表沙汰にはしないよね?

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