123. 翔子と状況継続

 古代魔導具を起動して一時間弱が経過。あの後、もう一段階水量をアップし、排水装置の吸引量を調整して、すごい勢いで排水中。


「いい感じに釣り合いが取れて良かったけど、この吸い出した水ってどこに?」


「智沙さんの話だと、ここの近くに沢があって、そっちに流してるって」


 現在、私、チョコ、サーラさん、そしてヨミは廃坑入口からちょっと離れた場所にあるテントで待機中。智沙さんは入口正面で監視に加わっていて、もうしばらくしたらチョコと交代の予定。私とサーラさんは、交代の時間にちょっと見に行くぐらいかな。


 そういえば、今日は美琴さんもついてくる気まんまんだったんだけど、ルナリア様とマルリーさんだけ残すのもなんなので。……今度の休みにショッピングに付き合うことで許してもらいました。


「ヨミ、退屈じゃない?」


「ワフン」


 さっきサーラさんと偵察に行って満足したのか、私の膝を満喫しているヨミ。全然平気みたいな返事を返してくれる。


「うーん、ずっとここで待ってるのは退屈だねえ」


「ですね。夕方ぐらいまでに魔素が無くなってくれるといいんですけど」


 というか、水出しすぎて下流は大丈夫なのかな? 大丈夫だよね。ダムとかに比べたら微々たるものだろうし、一気に放流するわけでもないし。


「そろそろ交代の時間かな?」


「ん、みんなで行きましょうか」


「ワフ」


 退屈すぎてヨミと散歩したくなってきた。前回は道の駅で時間潰してたから気楽だったし、適当にぶらぶらできたけど、今日はちょっと無理だよね。うまく行けば、今後は同じことがあっても連絡待ちで済みそうだけど。


「智沙さん、交代の時間です」


「ああ、もう一時間経ったか」


 お高い双眼鏡に三脚をつけたやつを覗いていた智沙さん。三〇メートルほど先の入口には特に変化もなく。


「順調そう?」


「ええ、水量は安定しています。廃坑がどれほど広く深いかがわかりませんが、あと一、二時間で終わるのではないかと」


 サーラさんと智沙さんが話している間、私とチョコは排水装置の操作板——タブレットだけど——を覗き込む。正直、よくわからないけど、数字が緑ってことでヨシ!


 ここから少し先、十メートルほど前方には、特殊作戦群の隊員さんたちがバリケードを構築して待機中。そっちでも監視はしてるっぽい。


「よくよく考えるとさ」


「ん?」


「何もない穴から水が湧いてるのって、かなりおかしくない?」


「うん、そうね……」


 チョコの言い分に思わず納得。向こうの世界に行ってから、わりとこっちの世界の現実との乖離に疎くなってる気がする。


「自衛隊の人たちも不思議に思ってるんだろうね」


「まあ、それを言い出すと、前回もっといろいろとね?」


 チョコとサーラさんが大暴れしたし、私も土壁をドーンと作っちゃったし。いや、そもそもチョコの存在がかなり……ってチョコは別に私と双子にしか見えないか。


「よし、では交代してもらえるか?」


「あ、はい」


 智沙さんが立ち上がり、チョコが入れ替わりに座る。高級そうな双眼鏡をさっそく覗いてるけど、なんとなく覗いてみただけってやつだよね。と思ってたら……


「ん? なんか来るかも?」


「む?」


 チョコがすぐに席を譲って智沙さんが座り直し、双眼鏡を覗き込むと……


「何かが来ている! 警戒を!」


 そう声をあげると、前衛にいた隊員さんたちが一斉にアサルトライフルの準備を始める。あと、わきにクロスボウ置いてあるのはいざという時のため?


「敵性生物を視認!」


 前で監視してた隊員さんにも見えたっぽい? というか、チョコと智沙さんは普段からナチュラルに身体強化魔法——乙女アイ——が発動してるのかな?


「構え!」


 副長さんの声がかかり、前衛の隊員六人がアサルトライフルを構えた。


「サーラさん、驚かないでくださいね?」


「え、うん?」


 ぱっと見、サイレンサーがついてるから大きな発砲音は出なさそうだけど一応。チョコが万一のために大盾を準備。私は腰の魔導拳銃に手をかける。


「もうすぐ土嚢のあたりに到達しそうだ」


 智沙さんの声があり……


「撃ち方はじめ!」


 バシュッ!


 おおお、そういう音するんだ! フルオートじゃなくて単発を狙って撃ってるみたい。それがしばらく続いた後、


「撃ち方やめ!」


 その合図で発砲が止まる。えーっと効いてるんだよね? 目視だと暗くてちょっとわかりづらいけど、オークが土嚢を越えようとしたあたりで撃たれてた気がする。


 効いてなかったら、土嚢を超えて外に飛び出して……いや、魔導具を壊そうとするのかな? うーん……


「有効なようだな。視認できた範囲でだが、七、八体は倒しただろう」


「「おおお!」」


 これはひょっとして楽勝ムード? いや、でも、死体があるのを見つけたら、これ以上は突っ込んでこないかな?


「ねえねえ」


「あ、はい。なんです?」


「今、何が起きたの? 魔法じゃないよね?」


 サーラさんが目をぱちくりさせてるのは……そうですよね。うーん、説明が難しい……


「えーっと、火球が地面近くで爆発すると、石が飛んだりするじゃないですか?」


「うん」


「筒の中で小さい火球を爆発させて、詰めてある鉄の塊を飛ばしてるって言えばわかります?」


 そう答えるとサーラさんが頭を捻る。科学っていう共通言語がないから説明しづらい!


「吹き矢みたいなもの? 口で吹く代わりに火球を使う?」


「「それです!」」


 っていうか、向こうの世界にも吹き矢ってあるんだ。


「二人とも静かに」


「「あ、すいません……」」


 智沙さんに怒られてしまった。いや、うん、緊張感無さすぎでした。素直に反省。副長さんが智沙さんのところに来てるし、完全にお話の邪魔になってるし……


「設置している装置の方は問題ありませんか?」


「ええ、問題ありません。設定通りの排水量を維持しています」


「了解です。監視に戻ります」


 と去っていく副長さん。なんかホントすいません……


「オークの死体は片付けに行かないの?」


「はい。魔素が完全に無くなるまで、危険を冒す必要もないかと」


 そういや、前回のオークの死体は通路ごと埋めちゃったんだっけ。今回は回収しようと思えばできるんだろうけど、回収してどうするんだろ。戻ったら館長さんに聞いてみよ。


「この調子なら、私たちの出番も無さそうかな」


「ええ、このまま行けば」


 さっきの様子を見る限りは問題なさそう? オークじゃないすごい魔物が出てこなければ大丈夫かなと思う。アンデッドとかアイアンゴーレムとか出てきたら……。まあ、その時は私たちの出番だよね。

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