120. 翔子と試運転開始

 翌日の朝食を終え、今日は古代魔導具、通称『コスモクリーナー』の試運転。結局、水がどこから出てくるのかは動かしてみないとわからないよねってことで……


「このたらいってどこにあったんです?」


「別荘の物置だな。かなり年季が入っているが、水漏れがないことは確認済みだ」


 智沙さんが説明してくれながら、金だらいを地下施設に降りたところの廊下に置く。金だらいの実物って初めて見たかも。コメディー的な上から降ってくるものっぽいイメージが……


「ブロック置きますね」


 チョコが持ってきたブロック二つを真ん中に置く。さらに、


「はい、これもどうぞー」


 マルリーさんが追加のブロックを二つ。さっきのブロックの上に置く。で、いよいよ御本尊を。


「ほい」


 サーラさんが手渡してくれたコスモクリーナーをその上にパイ〇ダーオン! あとは消火用ホースを……


「ヨミ〜」


「ワフッ!」


 ぶっとい消火用ホースを咥えて階段を降りてくるヨミ。転ばないか心配になるけど、無事、私の足元に来ておすわり。


「ありがと。えらいね!」


「ワフン」


 ホースを受け取ってたらいの中へ。水は起動すればたらいに溜まって、サイフォンの原理で低い位置にある排水溝に流れ込む……はず。最初に水をホースに通すのは水の精霊さんに頼む予定。


「ホースは大丈夫です」


 階段の上には手を振っている美琴さんと面白そうに覗き込んでいるルナリア様。


「はーい。じゃ、始めましょうか?」


「ああ、チョコ君、頼む」


 私が魔導具を起動する気まんまんだったんだけど、チョコに任せることになった。私の魔素の出力が普通より多いせいで誤動作するかも? っていう問題に気づいたので……


「じゃ、始めます」


 チョコがコスモクリーナーに触れ、初期起動の魔素をゆっくり注ぐと、上面部分がうっすらと輝いて……タッチパネル? 数字パッド——数字は向こうの世界のだけど——が現れて、その隣にはわかりやすく起動ボタンぽいものが。


「なるほど」


 納得してる智沙さんをチョコがチラッと見ると、頷いて返してくれるので続きかな。


「暗証番号入れます。よん、なな、に、ご」


 チョコが押した番号が順に光って行く。で、最後に起動ボタンが点滅しはじめた。


「押します」


 心の中で『ポチッとな』ってチョコも言ってるんだろうなー。口に出さないだけで。


「あー、そこから水が出るんだ」


 じょぼじょぼと魔導具の下の方から水が溢れてきて金だらいに溜まっていく。結構水量が多くて、これあっという間に溢れそう。


「翔子君」


「はい。水の精霊さん、その筒の中を通してくれる?」


 精霊石を取り出してさくっとお願いすると、溜まっていた水がするすると消火用ホースの中へと吸い込まれていく。


「じゃ、ちょいと見てくるね」


 サーラさんが打ち合わせ通りにホースを通って行った水を追いかけて行く。今のこの場所よりも低いところまで届けば、あとは流れでってなるはず。水だけに……


「この他のボタンが何か、二人はわかるだろうか?」


 起動ボタンが押されて点灯した後に、その隣に幾つかのボタンが現れた。一応、私にも読めてるけど、ここはチョコにお任せ。


「えっと、これとこれが水量の増減だと思います。その隣のこれが『座標固定』って書いてあるんですが……なんでしょう?」


「それ謎だよね。何の座標?」


「ふむ。そのボタンは保留して問い合わせることにしよう。水量のボタンは試しておきたいところだな」


 魔素を水に変えるペースが上がれば、それだけ早く終わるってことだもんね。どのくらい増えるのかが謎だけど……


「水出てたよー」


「ありがとうございます!」


 サーラさんが階段上から声を掛けてくれて、まずは第一段階クリアかな?


「どうしましょう? 水量調整してみます?」


「そうだな。増減一段階ずつ試してみよう」


 ということで、増やす方からかな?


「じゃ、増やすボタン押しますね」


 チョコがまたポチッとやると……点滅? ああ、そういう?


「よん、なな、に、ご、っと」


 うんうん、何をやるにも起動前に設定した暗証番号が必要なのね。ん?


「うわ! やばいやばい! 水量増えすぎ! 水の精霊さん、ちょっと手伝って!」


 サイフォンの原理だけだと処理しきれない水量になったので、無理にホースに送り込んでもらう。


「減らすね!」


「二人とも落ち着け。水が溢れても濡れるだけだ」


「「は、はい」」


 智沙さんにピシャッと言われて落ち着きを取り戻す。そうだった。別に濡れるぐらいなんでもなかった……


「ふう。じゃ、水量下げますね」


「うむ」


「ポチッとな。で、よん、なな、に、ご、っと」


 チョコが暗証番号を入れると水量が元に戻る。


「ありがとうね。もう大丈夫」


 精霊石を持ってそう伝えると、ホースに流れ込む水量も元へと戻って一安心。ふう、びっくりした。


「これは専用の排水装置を用意して動かした方が良さそうだな」


「そうですね。魔素がどんどん消えていくと、精霊さんに頼るわけにもいかなくなりますし」


「うむ。まあ、六条は建設会社だからな。排水装置を借りてくるのはすぐだ」


 あ、そうか。そりゃ地下掘ったりしたら水が出てくることもあるし、当然そのための排水装置あるよね。


「大丈夫ですか〜?」


「あ、はい、大丈夫です」


 心配そうに覗き込んでくる美琴さん。わたわたしてたのを見られてたっぽくて恥ずかしい。


「問題がないようなら、上でお弁当を食べませんか?」


「ワフン!」


 大丈夫かな? まあ、もうこれ以上はどうしようもないっていうか、どれくらいかかるの? ってだけの話だと思うけど。と智沙さんを見ると


「ああ、あとはたまに覗く程度で大丈夫だろう」


 ということで階段を登って外へ。消火用ホースは中に水が流れているせいかうねうねと動いてて面白い。まあ、これが動いてる間は魔素があるってことだよね。


 それを追いかけて行くと、開けた斜面にレジャーシートが広げられ、ルナリア様とマルリーさん、サーラさんが座っていた。うん、はよお昼ってことですね。


「今日のお昼ってなんです?」


「今朝、館長からサンドイッチが山のように送られて来ましたので」


「「おおー」」


 あのマルリーさんの隣にあるでっかいクーラーボックスっぽい。ゴーレムを無事回収したご褒美かな?


「お疲れ様。さあ、食べましょう」


「それはいいんですけど、ルナリア様、あの魔導具が動いてるところを見に来たんじゃなかったんですか?」


「ちゃんと動いたのは見たわ。それにこの世界には魔素がないのが普通なのでしょう? どう暴走しても酷いことになったりしないわ」


 ……いやまあそうですけど!

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