119. 翔子と試運転準備
「ほいほい。この先もさくっと調べときましょ」
「「あ、はーい」」
サーラさんが気楽な感じで先に進む。もう危険はない感じなのかな。まあ、ミニゴーレムも平和そうな感じだったもんね。
通路は右に折れてすぐ部屋になっていて照明も健在。中に入ると……
「んー、ここって食堂かな? 台所もあるっぽいけど」
「なんだかすごく今風のキッチンダイニングですね……」
と美琴さん。確かに手前と奥を区切るカウンターとそれにつながるテーブル。で、カウンターの奥はキッチンになってるんだけど、私はそっちの方がかなり気になる。
「翔子、これってシステムキッチンとかそういうのじゃない?」
「だよねえ。シンクに蛇口、コンロはIHっぽいし、これはレンジ? オーブン? あと食洗機っぽいものまであるし……」
電気で動いてるはずもないし、全部これは魔素で動く魔道具なのかな? だとしたらとんでもない仕組みな気がする。向こうに行って、最初に泊まった屋敷? なんて、普通にかまどだったもんね。
「こういう台所って一般的……じゃないですよね?」
「さあ? 私は料理なんてしたことないもの」
うん、ルナリア様はそうですよね。マルリーさんは……
「少なくとも庶民がこんなお台所を持ってくことはないですよー。魔導具がそもそもお高いですからねー」
「じゃ、こんなにあるのは……」
「多分、ミシャちゃんの弟子が作ったんだと思うよ」
サーラさんがそんなことを言いながら、あちこちをキョロキョロと確かめている。そうだった。他にミニゴーレムがいないか探さないとなんだった。とはいえ……
「うーん、保存食があるぐらいかな? これって向こうで食べたグレイディアのスープの素じゃない?」
チョコがキッチン下の扉を開けて取り出したのは、でっかいコンソメキューブみたいなやつ。ケイさんがご馳走してくれたスープの素にそっくりだ。
「それっぽい。そいや、結局、おみやげもなしで帰ってきちゃったね……」
「お二人が無事で帰ってきたのが、一番のおみやげですからね?」
ぐっと美琴さんに腕を抱き込まれる。痛いです……
「どうやら他には特になさそうだな」
上にある戸棚を開けて中身をあらためていた智沙さん。鍋やら何やらとやっぱり料理道具ぐらいしかないらしい。
「ゴーレム以外はどうします?」
「今のところは置いておくことにしよう。今回の目的はゴーレムの回収だ。それ以外については状況報告とともに判断をもらう方がいい」
なるほど。変に気を利かせても向こうが困るかもしれないもんね。
「じゃ、特になければ終わりにします?」
「そうだな。ルナリア殿から借りた魔導具の動作テストは明日でいいだろう」
これであとは魔導具のテストだけ。明後日には東京に戻る感じかな?
***
「え、終わってもしばらくこっちに滞在ですか?」
「はい。ゴーレムを確保したことを館長に伝えたんですが、確保さえできれば返却を急がなくてもいいということです。ルナリア様が帰るときにでもと」
うーん、それはいいんだけど……
「どうしました?」
「いや、この子たちは早く元の世界に帰りたいって思ってたりしないかなって」
精霊石を取り出して眺めている分には、この中で満足してくれてるっぽい? 水だけ入ってた部分に樹が生え、今日は土ができて島のようになった。そして、小さな小さな水色の光、緑の光、茶色の光がふわふわと漂っていて神秘的。
「大丈夫よ。精霊たちに不満があるようなら、そんなに遊んだりしていないわ」
そう答えてくれたのはルナリア様。別荘に戻ってきてラウンジでゆったりしてるんだけど、また塩羊羹食べてるし……
「じゃ、それは安心ってことで、あとは明日の試運転ですかね」
まだ全然打ち合わせしてないんだよね。持ち帰った日は報告とおかえり会だったし、その次の日はルナリア様にこっちの話をあれこれ聞かれたりで終わったしで。
「その話は夕食後にしよう。まずは料理を手伝ってくれ」
と智沙さん登場。今日の夕食の手伝いかな?
「あ、はい。今日の夕飯は?」
「餃子を大量に焼こうかと思っているので……」
「「ああー、いいですね」」
それから「業者かよ!」っていうぐらいたくさん餃子を包んだんだけど、みんなで綺麗に平らげました。はい、主にルナリア様が。
***
「さて、それでは明日の段取りを決めておこうか」
夕食を終えて一休みしてからミーティング。すでにマルリーさんが眠そうな気配……
「チョコ君、古代魔導具の説明を頼む」
「はい」
周囲の魔素を水に変えるっていう基本機能はみんな知ってるんだけど、動かし方の手順とかはまだだったのでそれを説明。
とはいえ「初期起動の魔素を入れて、暗証番号を設定したら、起動ボタンを押す」ってだけらしい。止めるのは「停止ボタンを押して、暗証番号を入れる」と普通に逆。
「ちなみに暗証番号なんですが『4725でお願いします』ってカスタマーサポートさん、ミシャ様からお願いが来てました」
「その番号に何か意味はあるのか?」
智沙さんに聞かれたチョコが困った顔でマルリーさんたちを見る。もちろん私も知らないし。
「さあー、私たちにもわかりませんねー」
「うん、全然わかんないね」
だそうです。誰かの誕生日とかそういうのでもなさそう。っていうか、カスタマーサポートさんはそういう推測できそうな番号とかつけないよね、多分だけど。
「その魔導具でどれくらいの水が生まれるんでしょう?」
「それは正直やってみないとです。ミシャ様の話では、その空間の体積分は水になる計算で想定しておいた方がいいという話です」
「結構な量ですね……」
あの入り口から廊下とキッチンダイニングの分ってなると……かなりの水量になるよね。
「そのまま外に流しちゃって大丈夫なんでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ。スキー場だからな。排水設備はしっかりしている」
あ、そっか。雪解け水のことを考えたら当然だよね。あとはそこまでどうやって水を持っていくかだけど。
「あの場所から排水溝までって距離はどれくらいあります?」
「そうだな。五〇メートル程度といったところだろうか。消火用ホースを用意してあるので、出た水はそれに流し込んで欲しい」
なるほどー……って、この魔導具のどこから水が出るんだろう?
「ただし魔法は?」
「いや、魔導具のお尻ってどこよ……」
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