118. 翔子とミニゴーレム

「では、慎重に」


「ほいほい」


 翌日は雨がひどくて延期。で、次の日は天気も回復したのでようやっと。準備万端、いざ謎の入り口へ。謎っていうか、うちの蔵にある入り口にそっくりなんだよね。


「じゃ、チョコちゃん、ついてきて」


「はい」


 先頭は当然サーラさん。Tシャツにオーバーオールの普段着だけど腰には短剣を。チョコはサーラさんとおそろのTシャツにデニムだけ。下に降りて魔素があったら換装するかも?


「後ろは頼みます」


「はいー」


 智沙さんは……ミリタリールックでいいのかな? ファティーグシャツにミリタリーパンツ、防刃ベストまで着込んでて真面目だなあと。後ろを任されたマルリーさんは、変わらず長袖カットソーにデニムと緊張感ゼロ。


「じゃ、行きましょう」


「ワフッ」


 智沙さんに続くのは私と美琴さん。ブラウスにクロップドっていうラフな格好なんだけど、ペアルックみたいになってて、ちょっと恥ずかしい……


「ルナリア様、行きますよー」


「はいはい。慌てても逃げないのに、皆せっかちねえ」


 ルナリア様が続いて最後がマルリーさん。ルナリア様、昨日までは白ワンピとかいう完全無欠お嬢様だったのに、今日は白パーカーにワイドパンツっていうボーイッシュスタイルに変身してて……美少女何着ても似合うの反則じゃない? まあ着せたのは美琴さんなんだけど。


 ゆっくりと階段を降りていくと、なんとなくだけど魔素の存在がわかる。うちの地下もそうだけど、なんで外に出て行かないのか不思議だよね。


「おや、さっそくお出迎えかな?」


「はい?」


 先頭のサーラさんが階段を降り切ったところで手招きしている。慌てるとまたルナリア様に愚痴られそうだし、転ぶとシャレにならないので慎重に。


 降り切ったところから続く廊下のような場所も、うちの地下と同じで天井が淡く光っている。けど、左右に扉は見当たらない。中身も全く同じってわけじゃないのね。


「お出迎えって?」


「あれっぽい」


 チョコが指さす方向を見ると……ゴー……レム? 大きさ的にはフェリア様よりちょっと大きいぐらい。丸っこくてレンガ色のベイ○ックスみたいなのが、通路の角から二、三体顔を出してこっちを伺っている。


「か、かわいい……」


「持ち帰っちゃダメですかね?」


 美琴さんもその可愛さに撃ち抜かれたっぽくて、かなりマジな感じで聞いてくるんだけど、


「回収して返さないとな」


 智沙さんの真面目な返しにしょんぼり。いや、それは置いとくとして。


「なんかあの子たち、ゴーレムっぽくないっていうか、自由意志がありません?」


「ああ、こちらを警戒しているように見えるな……」


 それになんか話し合いっぽいものをしてる? 顔を見合わせたりしてるのが……またかわいい。


「サーラさん、知ってたりしません?」


「うーん、私も見たことないね。ミシャちゃんの弟子のことは知ってるけど、あの村にいたのは数年だったし、その後のことだと思うんだよね」


「ふむ。回収して欲しいとは言われているが、それで傷つけたくはないな」


 智沙さんもしっかりあの子らのかわいさにやられてるっぽい。でも、どうしようかな。とりあえず話し合い? ができればいいと思うんだけど。


「あれは精霊ね」


「へ?」


 ルナリア様の声が聞こえて振り向くと、その目が金色に変化していてびっくりする。もともとはサファイヤの色だったよね? いや、それはいいとして精霊?


「こういう時にフェリアがいないのは困りものねえ」


「えーっと精霊さんが実体を持ってるってことですか?」


 向こうの世界に行った時、水の精霊さんがちょっと人型を取ったことがあったけど、それと同じな感じ?


「精霊がゴーレムの体を借りているんじゃないかしら?」


「「おおー……」」


 ルナリア様が目を瞑り、再び目を開くと元のサファイヤ色に戻っていた。なんか竜の力を使ってたのかな? 後ろにいるマルリーさんが少し心配そうな顔……


「翔子はフェリアの弟子なのでしょう? あの子たちに話しかけてご覧なさいな」


「あ、はい……」


 その言葉に皆の視線が集まってきてプレッシャーが。でも、どうやって話しかければいいんだろ。


「ワフワフ」


「ヨミ? ああ、これか。うん、そうだね」


 ベルトポーチに吊っていた革袋。この中にいる水の精霊さんとか樹の精霊さんに仲介してもらうっていうのが一番良い気がする。


「ちょっと頼んでみます」


 革袋を外して口紐を解き、精霊石を取り出して両手で包み込む。しゃがんだ方が見やすいかな? サーラさんとチョコ、智沙さんが道を開けてくれたので、あの子たちにもこの精霊石が見えてると思う。


「精霊さん、ちょっとあの子たちとお話ししてくれる?」


 そう問いかけると精霊石が淡く輝き、その輝きが一筋の光となってミニゴーレム? の方へと飛んでいく。自分で頼んだことだけど、まさかそんなことになるとは思ってなくて……


「え? ああー……あれ?」


 こちらを覗いていた三体のミニゴーレムが隠れてしまって、あああーって思ってたら、ひとまわり大きいのが戻ってきた。


「赤くて角があるんだけど」


「中隊長機? 三倍の速度で動きそう」


 まさかお弟子さんの方も元日本人とかなの?


 で、そのままさっきの三体を後ろに連れて近寄ってくる。え、えーっとどうすれば? と思ってたら、なんだか右腕をちょいちょいと振る中隊長機。


「あ、これ?」


 精霊石を彼の前に差し出すと、それにちょいと右手を乗せる。淡い光がまた出たかと思うと、今度は精霊石の中へと消えてミニゴーレムの本体がくたっと倒れた。


「ええっ!?」


 驚いているうちに後ろにいた三体も手を添えて吸い込まれていって倒れてしまう。ちょっとこれ大丈夫なの!?


「外に出ていいように、あなたの魔素を足しておきなさい」


「え、あ、はい」


 ルナリア様に言われて魔素を注ぐと……おおお、テラリウム完成! 水と樹だったところに土ができてそれっぽくなった! って!


「えっと、ゴーレムを動かしてた土の精霊さんがここに入ってくれたってことですよね?」


「ええ、そうよ。気難しい相手でなくて良かったわね」


 気難しい精霊なんているんだ。優しい子で良かった……。あ、いや、水の精霊さんや樹の精霊さんが説得してくれたからって考えるべきかな。この子たちだって元の世界、そのお弟子さんのところに帰りたいんだろうし。


「この子たちは帰りに回収するとして、一応、奥を確認しておこうか」


「そだね。他の子たちもいるかもだし」


 智沙さんとサーラさんがくたっとしてしまったミニゴーレムをそっと通路の端にもたれかけさせる。


「ルナリア様、大丈夫ですか?」


「あら……どうしたの?」


「いえ、なんとなくっていうか、さっきマルリーさんが心配そうな顔してたので」


 そう答えると、驚いたような顔をしたのちにクスクスと笑いだす。


「大丈夫よ。マルリーが心配していたのは、私が竜の力を解放するとこの辺り一帯が更地になるからでしょう」


 ……

 マルリーさんを見るとニッコリ。そういうことは前もって言っておいて欲しいんですけど!?

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