117. 翔子と不思議な踊り

 最初にチョコの番、お昼を挟んでから私の番が終わり、今はまたチョコが映像をチェックする番。バッテリーは三本しかないとのことで、今日のラストターンって感じ。


 ちなみにお昼は焼きそばでした。ルナリア様は割と普通の量——それでも多いけど——で満足してたけど、多分食後のデザート……塩羊羹に意識がいってたんだと思う。


「今日は空振りのようだな」


 と智沙さん。手元にあるコントローラーにも小さいながらカメラ映像が来ていて、それを見ながら操縦中。割と広い範囲を捜索したんだけど、特に怪しい場所は見つからず。


「明日はもっと奥まで探す感じです?」


「そうだな。だが、そうなるとここからでは遠い。この初級者用ゲレンデのスタート地点ぐらいまでは移動した方が良さそうだ」


 チョコと智沙さんがそんな会話をしているのを聞きつつ、私たちはロッジのテラスでのんびりお茶をしているところ。


「そういえば、サーラさん戻って来ませんけど」


「大丈夫ですよー」


 お昼を食べた後、また一人でふらっと山の方へ行ってしまった。戻ってきたときは、鹿とか狸とかに遭遇したらしく驚き? 感心? まあ、なんか楽しそうだったけど。


「ん? 智沙さん、そこで少しストップしてください」


「何か見つけたのか?」


「いや、なんか手を振ってるのが……サーラさん?」


 おおお? 何か見つけてくれた?


 チョコの後ろに駆け寄って、肩口からモニターを覗く。指差してくれた先に小さく見えるのは確かにサーラさんっぽい。両手を大きく上にあげたかと思ったら、それを向かって左へと倒す。


「何か見つけたのかな?」


「っぽい。指してる方向に何かあるのかも?」


 でも、どうするべきかな。時間的には午後三時前。多分、目的の地下施設か、その手がかりかを見つけてくれたんだろうと思うけど……


「今日これから本格的な調査はしないですよね?」


「そうだな。時間的にも厳しいだろう」


「夕方から雨の予報ですし、サーラさんにはいったん戻ってきてもらった方がいいのでは?」


 その意見に私も智沙さんも賛成。となると……


「ワフッ!」


「ヨミ、サーラさん、迎えに行ってくれる?」


「ワフン」


「私もついてくから、翔子、交代して」


「了解。これ!」


 スマホをチョコにパス! 何かあったら美琴さんに電話して……電波通じるよね?


 ヨミがドローンに向かってダッシュしてったのをチョコが追いかける。っていうか、スキーする斜面登ってくの辛くないの? 初心者コースだけどさ……


 ヨミとチョコが樹々の間へと消えたのでモニターの前へ戻ると、美琴さんが代わりに座ってて……首を捻っている。


「どうかしました?」


「サーラさんが……」


 モニターを見ると、サーラさんがアップで映っていた。これはズーム映像っぽいけど、光学ズームかな? デジタルズームだと画面荒くなるよね? それはいいとして、サーラさんがなんか身振り手振りして訴えてるっぽい。


「なんだろ。何かしろってことっぽいんだけど……」


「ですよね……」


 それはそれとして、もう一つ問題が。


「智沙さん、バッテリーは大丈夫そうですか?」


 チョコとヨミの二人は多分、ドローンを目印に進んでるはず。到着するまで上空で待機できてるといいんだけど。あ、いや、ヨミならサーラさんを匂いで見つけられそうな気がするな。かしこいし。


「あと十分弱といったところだな。ローバッテリーになっても自動で着陸する仕組みが入っているので大丈夫だろう。樹に引っ掛かりさえしなければ、だがな」


 そう笑って答えてくれる。樹に引っ掛かったら……サーラさんが取ってくれそうな気がするし、大丈夫かな? それにしても、サーラさんの不思議な踊りはいったい……


「どうかしましたかー?」


 テラスでお茶を嗜んでいたマルリーさんが来てくれる。ああ、マルリーさんならこの不思議な踊りを理解してるかも?


「サーラさんが何か伝えたい感じなんですけど、これわかります?」


「あー、これですかー。空にいるケイと連絡するためですね〜」


 ああ、そういうことか。でも、なんでこう不思議な踊りっぽいんだろう。


「確か『わい』が上昇、『えむ』が下降、『しー』がその方向へ、『えー』が待機だったはずですねー」


 マルリーさんがサーラさんと同じような振り付けをしつつ説明してくれるんだけど、その『わい』とか『えむ』とかって日本語……じゃない英語だよね?


「……ひょっとして、これ考えたのってヨーコさん?」


「そうですよー。よくわかりましたねー」


 ヨーコさん……。ふざけて教えたら真面目に受け取られちゃったのかな? とサーラさんの不思議な踊りが終わり、モニターにヨミが映った。その後にチョコも映ってスマホを……


「はい、美琴です。翔子さんは隣ですよ」


『はいはい。えーっと、智沙さん、ドローンをここまで下ろせます?』


「ああ、わかった」


 智沙さんがコントローラーを操作すると、モニターの映像もどんどんと下降していく。


『サーラさんの後ろをついて行けますか?』


「了解した」


『こっちだよん』


 針葉樹の間を進むサーラさんの後ろを器用についていくドローン……の映像が送られてくる。智沙さん、操縦うますぎる。


「面白いですねー」


 上空からの映像も楽しいけど、こういう目線の映像も面白いよね。


『これこれ、これじゃない?』


 映像の向こうでサーラさんが指差した先にドローンが向くと……


「え、これって……」


『うちの蔵にある入り口にそっくりな件』


『ワフン』


「だよねえ」


 作ったのがカスタマーサポート、ミシャ様のお弟子さんだから似るものなのかな。ともかく、これで間違いないとは思う。ので、


「間違いなさそうだが急ぐ必要はない」


「はい」


 智沙さんが欲しかった答えをくれる。


「調査は明日からにするから、みんなで帰ってきてー」


『はーい』


「チョコ君。ドローンのバッテリーが残り少ないので着陸させる。そのまま運んできてくれるか?」


『あ、了解です』


 カメラの視点が地面にまで降りた後に映像が消える。あとはサーラさんたちが帰ってくるのを待つだけかな。ほっと一息ついたところでルナリア様が優雅に登場。


「今日の調査は終わったの?」


「あ、はい。場所は見つかったので、中の調査は明日からですね」


「そう、良かったわね」


 ニッコリ微笑んでくれるのはいいんだけど、小皿に山盛りの羊羹がいろいろ台無しだと思います……

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