116. 翔子とドローン
今日は少し曇り空。夕方ぐらいから雨の予報になってて、ちょっと不安。まあ、そんな時間までドローンの捜索は続けないと思うけど。
「スキー場までの移動はこれに乗ってくれ」
智沙さんが玄関前に寄せてきたのは、旅館とかによくある送迎バン。十人乗りぐらいかな?
「私、前の助手席行くね」
「はいはい」
私はスライドドアを開けて、お客様組に先に乗ってもらう。
「ワフッ」
ヨミが乗り込んで、美琴さんが乗り込んで、最後に私っと。スライドドアをきっちりと閉めて、智沙さんにオッケーを出す。
「ドローンはもう積んでるんですよね?」
「ああ、大丈夫だ」
チョコの問いにシートベルトをしつつ答える智沙さん。エンジンをかけて車を出すと、ルナリア様がちょっと驚いた風。揺れるしね、この車だと。
閑静な温泉街をゆるゆると進み、目的のスキー場に到着。シーズンオフということもあって、誰もいないかな。駐車場も私たちのバンだけ。
「この草原になってる斜面は何か理由がー?」
「あー、えーっと……冬になると雪が積もるんですけど、そこを滑る遊びがあるんです」
「へー、面白そうですねー」
向こうにはそういうの無いのかな? スキーはともかく、そり遊びとかならありそうな気もするけど。
「ワフッ!」
「うん、遊んできていいよ。でも、ここから下の街の方はダメだからね?」
「ワフン」
ちゃんと返事してから駆け出すヨミ。かしこかわいい。あ、しまった。こんな広いところでヨミと遊べるんだし、フリスビーとか持ってきておけばよかった。
「翔子さん、はじめますよ」
「あ、はい」
美琴さんに呼ばれて戻ると、でっかいスーツケースが開かれて、そこにピッタリと収まっているドローン。浮くためのローターが四枚あって本体部分は小さめ。でも、でっかいカメラがついてる。
「「おお、すごい……」」
思わずチョコとハモってしまう。
「映像はどこで見るんです?」
「操縦と映像はこっちだ」
智沙さんが手にしているのはジュラルミンケース。それをぱかっと開くと収まっているのはコントローラー。そして天板側がモニターになっていて……
「チョコ君、ドローンをケースから出して地面に置いてくれるか」
「はい」
ドローン本体をそーっと取り出して駐車場のコンクリートの上に置く。
「背中にある電源スイッチはわかるか?」
「あ、えっと、これですね」
電源マークが刻まれてる丸いボタンを押すと、その刻まれたマークが緑色に光る。ちゃんと電源オンになったっぽい。
「皆、私の後ろへ」
その声に全員が智沙さんの後ろへ。それを確認してコントローラーのスイッチを入れると……
ブウウウウウンンンン
あら、思ったよりプロペラ音静か。プロペラ自体が大きいと音も低いから? ドローンはそのまま垂直離陸して、二〇メートルほどの高さまで浮き上がる。
「「おおー!」」
「翔子さん、こっちに映ってますよ」
結構な高さに浮いたドローンを見上げてると、美琴さんに腕を取られ、スーツケースのモニターの方へと引っ張られる。
「すごっ! めっちゃ綺麗に映ってる。チョコ、手振ってみて?」
「こう?」
おおー、遅延もあんまりないみたい。すごい……
「これはあれが見ているものが、ここに映っているということかしら?」
「そうですね」
ルナリア様が上空のドローンとモニターを交互に見ながら質問してくる。どっちかというと映像がこっちに送られてることに興味がある感じ?
「へー、すごいね。うーん、ケイはこんな感じで見えてるのか」
とサーラさん。そいや、向こうで飛んだ時はこんな感じだったかも。あ、ヨミが見上げてる。うん、上から見てもかわいい。
「では、捜索を開始するので……」
「あ、はい。じゃ、チョコ、先にお願いね」
「うん、任せて」
何人もモニターの前に張り付いてる意味はないよねってことで、ここから一時間ほどは智沙さんとチョコにお任せ。ドローンの連続稼働時間が一時間半ぐらいだそうで、その時間になる前にドローンを戻してバッテリーを付け替えるらしい。
そのバッテリー交換のタイミングでモニターを見る係も交代という手はず。ちなみにドローンの操縦は智沙さんしかできないとのこと。なんか航空法で免許が必要とからしい。……智沙さん、免許持ってるんだ。
「さて、どうしよ」
「ロッジの鍵も預かってるので中で休憩もできますよ」
スキー場だし当然ロッジがあって、でも今は閉まってるんだけど、そこにも入れるってことか。うーん、中でぐだぐだしててもいいんだけど。
「私、ちょっとふらっと見てくるよ」
そう言ったサーラさんが斜面の方へと向かう。うーん、どうしよ。温泉街を散歩でもしようかな? 一時間ぐらいって考えるとちょうど良さそうなんだよね。
「ヨミ〜」
「ワフッ!」
呼べばちゃんと戻ってくるヨミはかしこい子。足元まで駆けてきてお座りするので、思わず撫でてしまう……
「私たちは街の散歩に出ますけど、ルナリア様どうします?」
「そうねえ。ここに来る途中にお店があったようだけど、何かおいしいものは売ってないのかしら?」
ブレない人……竜ですね。確か羊羹売ってたような?
「塩羊羹の老舗がありますから、そっちに行ってみませんか?」
美琴さんの言葉にピクリと反応するルナリア様。そういえば、おみやげの羊羹もすんごく気に入ってましたね。
「じゃ、そこに行ってみましょうか。でも、買い占めとかはダメですからね。他のお客さんの分が無くなっちゃうので」
「ええ、わかったわ」
「多分ですけど、塩羊羹の賞味期限は一週間ぐらいですから、おみやげに持ち帰るのはちょっと無理かと」
確かにそれだと向こうの世界に持ち帰るのは無理かな。真空パックがあればワンチャン……って禁止されてたんだった。
「美琴、私たちの分も頼む」
「あ、はーい」
智沙さんとサーラさん、チョコの分も買ってきてあげないとね。というか、お昼どうするんだろ。
「お昼も何か買ってきましょうか……ってコンビニもなかった気がする」
「昼は食材がクーラーボックスに入ってるから大丈夫だ。ロッジのキッチンも使えるしな」
もう準備万端だったっぽい。そういうことなら大丈夫かな。
ちなみに、昨日の夜は智沙さんと美琴さんが料理してくれたんだけど、お好み焼きのたねをすごく用意しておくことでルナリア様に対抗するという手段が編み出されてて「それか!」と。
目の前の鉄板で焼いたアツアツのお好み焼き。濃厚ソースの上で踊るかつお節がおいしくないわけもなく。具材を変えることで味のバリエーションも豊富で、ルナリア様も大満足だったしね。
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