114. 翔子とパーキングエリア

 サーラさんとチョコが最後に乗り込んでドアを閉める。


「はー、もうドキドキしましたよ」


 隣に座ってる美琴さんがそう言って胸を撫で下ろす。私もちょっと不安だったけど、サーラさんが戦ってるところを実際に見てるとね……


「チョコ」


「うん」


 手を合わせて記憶を同期すると、サーラさんがいろいろとすごすぎて「フランソワーズか!」って突っ込みたくなる。あ、加速装置もできたんだった、この人。


「美琴、御前には?」


「あ、はい。報告しました。急いだ方が良ければ電話しますが」


「いや、大丈夫でしょ。尾行してただけで、特に武器っぽいもの持ってなかったし」


 まあ、ただのトラック運転手みたいな格好だったし、チョコが観察した範囲では銃器も持ってなかったと思う。これで本当に関係ないトラック運転手だったらアレだけど、反応を見てもいつぞやの隊員さんっぽかった。


「どう思う?」


「んー、多分、下手な相手と接触しないように監視してるってことじゃないかと」


 国外、特に大陸側とかやばそうだもんね。智沙さんが納得したのか頷き、エンジンをかける。これから先もついてくるようならどうするんだろ?


「では、出発します」


「はいー」


「良くてよ」


 ルナリア様とマルリーさんは全く気にしてないご様子。というか、サーラさんのことを信用してるからなのかな。ずんだロールケーキとずんだチーズケーキをもりもり食べてて、そっちに夢中っていう感じがしなくもなく……


「はい、これ、二人に」


「お、ありがとね!」


「ありがと」


 とりあえず大役をこなしてくれた二人にずんだシェイクを渡しておく。これくらいで済めば安いものです。ホントに……っと、美琴さんのスマホからデイ○ナUSAの音楽が流れた。


「はい、美琴です」


 館長さんだよね? 多分こう「ちょっと〆といた」的なニュアンスなんじゃないかなーと思いつつ、通話が終わるのを待つ。


「はい、了解しました。ありがとうございます。では」


「館長さん?」


「はい。苦情を言っておいたので、しばらくすればいなくなるはずだと。あと下っ端の人たちはお仕事なので、あんまりいじめてやるなって……」


 その目がサーラさんの方を向くが、察したサーラさんがそっぽを向く。あれはちょっと隊員さん側の方が可哀想だったからね……


***


 結局、あの後しばらく尾行してきてた陸自の人たちは、私たちが日光宇都宮道路に入ったところでついてこずに消えていった模様。


「どうやら帰還命令が出たみたいですね」


 インターチェンジに入る前から後方を確認していたチョコがこちらを向き直す。一安心っていうか、せっかくの休みに監視されてるってのはちょっとね。いや、休みじゃないんだった。


「日光に入る前にサービスエリアがある。そこで今度はゆっくりしよう」


「「はーい」」


 チョコと二人でスマホで調べ物。もちろん、どういうサービスエリアなのか。って、サービスエリアじゃなくてパーキングエリアらしい。違いがよくわからないけど規模が小さいのかな? どっちにしても、おいしいものはっと……


「日光ゆばそば。いいね」


「日光ゆばナゲット。ナゲット……?」


 ゆばって日常で食べるものじゃないよね? 食べたことはあるけど、どんな味だったのかいまいち思い出せない……


「おいしいの?」


「うーん、食べたことあるんですけど、思い出せない感じですね。ルナリア様、うす味なのは好きですか?」


「うす味……。想像できないわね」


 デスヨネー。っていうか、日本人以外にうす味って想像可能なのかな? まあ、私たちで頼んで、一口味見して貰えばいいかな。


 三十分ほど走ったところでパーキングエリアに到着。さすが平日、人が少ない。これなら、気兼ねなく休憩できそう。


「ゆっくりお昼にします?」


「そうだな」


「散策ルートがあるみたいですし、お昼の後、少し散歩しましょうか?」


「ワフッ!」


 お散歩と聞いて「待ってました」的なヨミ。車内が広いって言っても、走り回れるわけじゃないもんね。本当ならリードも外してあげたいけどぐっと我慢。天気もいいので外のテーブルで。ヨミも一緒に食べられるし。


 ルナリア様やマルリーさん、サーラさんのメニューはお任せされたので、そばやらナゲットやらをとりあえず人数分。三人はお箸は無理なのでフォークを添えて。


「熱いので気をつけてくださいね」


「ええ、ありがとう」


 ドラゴンって炎吐くから熱いとか気にしなくてはいいのでは? いや、ルナリア様は別にファイアブレスじゃないかもしれないのか。白竜姫っていうぐらいだからホーリーブレスとか?


「翔子さん?」


「ああ、ごめんなさい。いただきます」


 チョコにゆばそばは任せて、私は舞茸そばで。うん、舞茸の天ぷらいいね。家で天ぷらってなかなか面倒でやらないんだよね。油の後処理が厄介だし。


「お、これおいしいよ。翔子」


「ナゲットね」


 パクっと行くと優しい感じの味がしてなかなか良い。ゆばって豆腐の膜みたいなやつだよね? っていうことは大豆。大豆は畑のお肉ですってやつかな。


「ヨミ、食べてみる?」


「ワフン」


 ささみジャーキーを齧っていたヨミが食べたそうに見ているので一つ分けてあげると、とってもおいしそうに食べてくれる。……でも、揚げ物なので一個だけね。


「追加を買ってこよう」


 そう言って智沙さんが席を立つ。うん、ルナリア様たち、あっさり平らげてますもんね。食堂のおばちゃんが驚くんじゃないかな。この子らどんだけ食べるのって。


「ここを出た後はどうしましょう? いろは坂を登ったら華厳の滝、中禅寺湖と見所はたくさんありますが」


「時間的に余裕あるし、寄り道したいところですけど……」


 チョコに一応確認。


「もう監視の目は無くなってると思うよ」


「だね。そういう気配はないかな」


 サーラさんからもお墨付きを得たので大丈夫かな。東照宮とかも行ってみたいけど、向こうの人たちに家康公のお寺とか見せても微妙かも? あとやっぱりあそこは観光客多くて混雑してそうだし。


「中禅寺湖に遊覧船があるので行ってみないか? 今日は天気もいいしな」


 智沙さんがおにぎりやらナゲットの追加やらをテーブルに置き、置いた端からルナリア様が食べるんだけど、もうちょっとお姫様してもらっていいですか?

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