113. チョコとサーラと追跡者
外環道から東北自動車道を北上中。車は当然というか白くて長いリムジンの方。運転手は智沙さんなので一安心。とはいえ、ずっと車内は辛いので、サービスエリアで休憩を取ることに。
「少し早いが一度休憩でいいか?」
「ええ、いいと思います。ゆっくり行っても余裕で着くんですよね?」
「はい、かなり寄り道しても、午後三時過ぎには着くと思いますよ」
翔子が確認し、智沙さんの代わりに美琴さんが答えている。
出発したのが朝の九時ごろ。奥日光までは車で三時間ぐらいらしいけど、ぶっ通しで走るわけでもなく休憩入れつつの予定。お昼とかあるし。
「お、ひょっとして『さーびすえりあ』?」
「です。またアイスですか?」
「うーん、アイスもいいけど、一通り全部食べたいねえ」
サーラさんといいルナリア様といい、小さい体のどこにそんなに入るんだろう。マルリーさんが食べて胸に行くのはわかるけど……
「おいしいものがあるの?」
「あるはずです。えーっと……」
「甘いものなら、ずんだ系っぽいよ」
と翔子がスマホを渡してくれる。シェイク、お餅、ロールケーキにチーズケーキ……。ずんだってえだ豆のことだよね? ちょっと楽しみになってきた。
「向かい側に行けないのが残念ですね」
「何か違う名物でもあるの?」
「サービスエリアに江戸の街並みが再現された場所があるんですよ」
「「は?」」
思わず、じゃなくて、思った通りに翔子と間抜けな返事をしてしまう。美琴さんの話では、有名な時代小説にあやかってるらしい。……ちょっと見たい。
「その向こう側というのには行けないんですかー?」
「あー、そうなんです。今走ってる道って速く走れるかわりに、左側にしか立ち寄れない専用道路なんです」
「あー、なるほどですー。ふむふむー」
なんかマルリーさんが一人納得してるけど? とサーラさんを見るとこそっと耳元で教えてくれる。曰く、『空の賢者』ミシャ様がベルグに似たような道路を作らせたらしい。
「作らせたって、なんかすごくないです?」
「あの子、エリカ様の友達だったしねえ。あ、エリカ様ってのは、翔子ちゃんたちの上司の絵理香さんじゃなくて……」
「フェリア様から『ベルグの国母』のエリカ様の話を聞きましたけど」
「そうそう、それそれ」
とそこにルナリア様が割り込んでくる。
「どういう話なの?」
「んー、まあ、これはだいぶ前の話だし、マルリーも知ってる話だしいいかな」
サーラさんが話してくれたのはベルグの西に広がる荒野の話。その荒野を緑の土地に変えたあと、そこに馬車専用の幹線道路を作ったんだとか。ルールはまんま高速道路っぽい。
「へえ、じゃあ、その道路のアイデアはこの世界の道路から来てるのね」
「っぽいですけど、よく思いつきますよね。私もそっちの世界に行きましたけど、生活基準が違いすぎて……」
と翔子。私もだけど「おおー!」とか「すごーい」とか「たーのしー」……は言ってないはず。そうこうしているうちに、車はサービスエリアに入ったようで速度が落ちて静かに停車した。
「着きました」
とりあえず私が先に降りるかな。ちょっと気になることがあるけど、翔子は気付いてないよね。
「ほらほら。チョコちゃん、先に降りて」
サーラさんは気付いてそうなんだよね。ちらっと目をやると頷き返してくるし。
次いで降りてきたのは翔子と美琴さんとヨミ。最後に、
「ルナリア様は私のそばから離れちゃダメですからねー」
「ええ、わかっていてよ」
ニッコリと素直なルナリア様。マルリーさんに手を握られて降りてくる姿は母娘に見えなくもない。おっと誰か来たようだ……
「チョコ君」
あ、智沙さんも気付いてる。バックミラーで見てたのかな。
「ついてきてた人たちは、この間の廃坑にいたお兄さんたちかな?」
「ええ、そうでしょう。しばらく六条邸でおとなしくしていた我々が、急に全員でどこかに向かったのを知って追いかけてきたのかと」
ああ、陸自の特殊部隊だっけ? あの人たちか。それなら、ちょっと安心? いきなりアサルトライフルで撃ってきたりはしないよね?
「私たちに危害を加える可能性は低い?」
「そう願いたいところだが、信用はしない方がいいかと」
えーっと、智沙さんのお父さんが隊長……郡長さんだっけ? だったと思うんですが?
「智沙ちゃんは翔子ちゃんたちについててあげて。ルナリア様にはマルリーがついてるから大丈夫でしょ。というか、ルナリア様が怒ると本当にやばいから、ちょっと釘刺してきていい?」
サーラさんの『本当に』の部分に力がこもってて「あ、これダメなやつなんだ」って悟る。多分、ライフル弾で打たれても平気なんだろうけど、竜の姿に戻りかねないのか。
「了解した」
「ほい、チョコちゃん、行こ」
そう言ってスタスタと歩いていくサーラさん。智沙さんも止める気はないのか、私についていくように促す。うーん、智沙さん的にはサーラさんなら何があっても大丈夫だって感じなのかな。
「それでどうするんです? 相手の素性も何も知りませんよ?」
「お、あそこでアイス買おう! おにーさんたちの分も含めて四つね」
「……いいですけど、どこにいるかわかるんです?」
アイスを四つ。二つは持ち帰れるように別に頼む。コーンに盛り付けられたそれをサーラさんと一つずつ受け取って、持ち帰り用を待つ。
「一度聞いたことがある声は絶対にわかるよん」
アイスをひと舐めしてニヤリとするサーラさん。マジですか……マジなんだろうなあ。っていうか、このワイワイガヤガヤしてる中でそれを聞き分けてるの?
翔子たちを見ると智沙さんが事情を話しているようで、翔子から「大丈夫なの?」っていう目線が飛んでくる。いや、サーラさんに聞いて欲しいんですけど。
「はい、お待たせ」
「あ、どうも」
売店のおばちゃんに持ち帰り用のアイス二個を受け取ったところで、
「あのテーブルに座ってる二人だね。右側が胸を怪我してた人。左側は右手を痛めてた人だねえ」
「そこまで……。どうやってるんです? 私の『不可視の白銀』にそんな能力ないんですけど」
「そりゃ内緒にしてるからね。チョコちゃんには今度また教えるよ」
そんなことを言いながらテーブルの方へと歩き出す。で、当然サーラさんが話しかけても通じないので……
「お仕事お疲れ様です。これどうぞ。怪我が完治するまでは安静にしていた方がいいですよ」
そう言ってアイスを二つテーブルに置いた。置いた瞬間はプラのフタがついてたカップだけど、次の瞬間にそれが外れてスプーンが刺されている。もちろん、それを一瞬のうちにやってのけたのはサーラさんで……
「あ、ありがとう」
「おいっ!」
慌てるお兄さんたち。ちゃんと小声なのがすごいねと思いながら、私とサーラさんは車の方へと戻って行った。
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