112. 翔子と奥日光

「はい。もうしばらくは東京にいるので家の方は頼みます」


 ちょっと実家をあけてる期間も長くなってきたので、町子さんに電話を入れてるところ。隣に美琴さんとヨミがいて、


「翔子さん、もうしばらく借りますね」


「ワフッ」


『ええ、美琴ちゃん、ヨミちゃん、お願いね』


「任せてください!」


「ワフン!」


 ……任されてしまったらしい。次また落ち着いたら電話するということで通話を切る。


「チョコ、大丈夫だよ」


 声を潜めていたチョコがほっと息を吐く。私がチョコの声色を変えなかったせいで、不意に私の声が二人になったりすると不思議がられるよねっていう対策。気持ちの問題ともいう……


「みんな揃ってるよ」


「ありがと」


 チョコの方からざっくり説明はしてもらったんだけど、そのあとすぐ夕食になって質疑応答がなかったので改めて。

 ちなみに、ルナリア様は館長さんが心配するぐらい食べました。そのあとさらにデザートも食べてたし……


「お待たせしました」


 四つある椅子には、智沙さん、ルナリア様、私、美琴さんが座ることに。チョコはマルリーさん、サーラさんと並んでベッドに腰掛けてて白銀シスターズって感じ。


「ワフ」


「はいはい」


 ヨミを抱き上げて膝の上へ。それを確認して、智沙さんが説明を始める。


「チョコ君から説明を受けたと思いますが、明後日、奥日光と呼ばれる場所へ向かいます。目的は向こうから転移してきた地下施設にゴーレムがいて、それを回収してほしいという依頼があったためです」


 うなずくルナリア様。


「それと同時に、二人が借りてきた古代魔導具の動作確認もする予定ですが、急いでいるわけではなく、どちらかというと二人の休養にお付き合いいただければと」


「ええ、良くてよ」


「ちなみに、そこってどういうとこなの?」


 食い気味に聞いてくるのはサーラさん。私もよく知らないです……


「山の中です。大きな湖を超えた先になりますが、静かでいいところですよ」


「楽しみですねー」


 ほんわかとマイペースを崩さないマルリーさん。ゴーレムの回収はもちろんだけど、転移してきた地下施設の確認もしないとだよね? いや、ひょっとして……


「お二人はその転移してきた地下施設を知ってたりします?」


「いえー、私は全然ですー。サーラはー?」


「うーん、私らの世界での場所ってわかる?」


 あ、そいやそっか。えーっと日光って……何県? 千葉じゃないよね……茨城? いや、茨城は海に面してる戦車道が盛んなところだったはずだし……


「翔子さん、これを」


 美琴さんがタブレットを取り出して、地図サイトを開いてくれた。奥日光の場所にマーカーが乗っていて……こんなとこだったんだ。地理は苦手だったんだよね。世界史選択してCiv知識で乗り切ってたし。


「おお、すごいね、これ!」


 サーラさんがベッドから立ち上がってタブレットを覗き込む。ルナリア様も画面内に映る地図に興味津々といった感じ。


「私たちが今いるのがここで、行き先はここですね」


 東京を指し、次に奥日光、中禅寺湖のさらに北を指す。向こうの世界との縮尺がほぼ同じだと考えると……


「埼玉の……あのオークたちがいたのがこの辺りでしたっけ?」


「うむ、そうだな」


「じゃ、えーっと、私たちが行き来してるダンジョンを北東にずーっと行った先ですね。距離的にはダンジョンからノティアまでの半分ぐらい? いや、もう少しあるかな」


 飛んで行ったせいでいまいち距離感がわからないけど、ノティアは多分、静岡の磐田か浜松あたりになるんじゃないかな。


「パルテームから北東にずーっとっていうと魔王国に入っちゃうかな。翔子ちゃんの話からすると、パルテームってこの辺りまでだからね」


 サーラさんが指し示したのは……利根川かなこれ? うーん、パルテームって意外と小さい国? いや、でも日本の戦国時代ならでっかい方だよね。


「そこより北東側が魔王国、ですか?」


「そだね。魔王国の王都はこの辺りになるかな?」


 ……大洗のあたりなんだ。ダメだ。頭の中で魔王様がIV号戦車に乗り始めた。

 旧体制が崩壊するまでは、つくばのあたりで防衛する魔王国側に対し、攻めるけど攻めきれずっていうのがパルテームだったらしい。


「奥日光の場所にあたるこの辺には、サーラ殿も行ったことが?」


「あるよー。その弟子っていう子も知ってるかな」


「それは興味あるわね。私も知らない子かしら?」


 沈黙を守っていたルナリア様が問う。やっぱりカスタマーサポートさん——ミシャ様が絡むことになると気になるらしい。


「ルナリア様も知らない子ですよ。ああ、フェリア様も知らないから大丈夫」


 その答えに若干不満げな表情を見せつつも、フェリア様にマウントを取られないことには安心したっぽい?


「どういう子なの?」


「それは私の口からは言えませんねえ。まあ、白銀の乙女にもなれるような子ですよ。弟子にしてるのはそんな子ばっかりだし」


「そう。興味深いわね」


 なんかこう、ルナリア様が策を練ろうとしてる雰囲気があるので、これはあとで送る手紙に書いておくことにしよう。


「では、目的の地下施設やゴーレムに関しては、さほど心配する必要がないと?」


「だね。その子が作ったものなら、こっちから不用意に攻撃とかしなきゃ大丈夫だと思うよん」


 サーラさんがそう言いつつ、ベッドへと戻ってぽふんと座る。

 館長さんの話もゴーレムさえ回収できれば、あとはゆっくり休養してこいって感じだったし、地下施設が転移してきたスキー場はシーズン外で閉場中らしいから一般人もいないよね?


「でも、どうやってその場所を探しましょう? 探すにもかなり広範囲になりますよね?」


「あー、それどうしようね……」


 日がな散歩しつつ探すのでもいいんだろうけど、ちゃんと計画立てて調べていかないと、いつまでたっても見つからないとかいう間抜けな状態になりかねない。


「それに関してだが、本社の技術部からドローンを借りて持っていこうと思う。空から不審な場所がないか探すのがいいだろう」


「「おおー!」」


 業務用のドローンだからでっかいやつだよね? 操縦してみたいけど、免許とかいるんだっけ?


「翔子さん」


「はい?」


「みなさんにドローンがどういうものか説明していただけますか?」


 見ると、ルナリア様もマルリーさんもサーラさんも、何のことなのかさっぱりっぽい。デスヨネー。


「えーっと、ドローンっていうのはですね……」


 空を飛べる小さいゴーレムって説明しました。手元に画像が送られてくるやつだと思うけど、それ説明するのは難しいので、実物を見てもらう方がいいよね……

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