111. 翔子と報告会

「おかえり!」


 本邸の応接室に入った瞬間、待ち構えていた館長さんが私とチョコをガバッと抱き込む。そのいつもよりちょっと力強いハグがすごく嬉しい。


「あう、ただいまです……」


「え、えっと……」


 チョコがルナリア様を紹介しようとすると、ハグが解かれ、私たちを左右に侍らせる。それを見たルナリア様がゆっくりとカーテシーっぽい感じの一礼。


「白竜姫ルナリアよ。よろしくお願いするわ」


「おう! よろしくな、ルナリアちゃん!」


 いつものように人懐っこく笑って握手する。フェリア様の時はかなり驚いてたけど、ルナリア様は見た目は普通だもんね。美少女だけど。


 長ソファーには私とチョコと美琴さん、膝の上のヨミ。向かい側には智沙さんマルリーさん、サーラさん。豪華な一人掛けが二脚用意され、館長さんとルナリア様が向かうように座る。

 なんかこう、映画とかで見るトップ会談っぽい。って、実際に二つの世界のトップ会談みたいなものだっけ。

 メイドさんが人数分の紅茶と用意してくれたがお茶うけはなし。ルナリア様がちょっと残念そうに見えるけど、時間的にこの報告が終わったら夕食なので我慢してください。


「翔子君、簡単な報告を」


「はい」


 というわけで、日本語で報告開始。ルナリア様、マルリーさん、サーラさんはわからないだろうけどしょうがない。チョコがルナリア様に小声でその旨を告げると、ルナリア様も頷く。


「えーっと、結果からですが、無事、大気中の魔素を水に変える古代魔導具を借りてきました」


 道中がどんな感じだったかは割愛。後で時間ある時にでもということで。

 古代魔導具がどういったものなのか。動作確認が必要で、それを見るためにルナリア様がきてること。加えて、これをこっちの世界で預かって欲しいこと。……あと、ルナリア様がこっちの世界の甘味とファッションに興味があることも。


「以上です。えっとそれで、まずはどこかで動作確認をする必要があると思っていて、夏に行ったキャンプ場のとこかなと思ってるんですが」


「おう、わーったが、ちょっと待ってくれ。智沙、こっちはどうだったかは話したのか?」


「はい。ただ、昨日の手紙の件は……」


 手紙? ああ、そりゃ、私たちが帰ってくる日時を知らせる手紙がミシャ様——カスタマーサポートさんから届いてるよね。それに何か別件が? 館長さんがゆっくりと頷いて続ける。


「まあ、大した話じゃねえな。あっちであいつの弟子が管理してた地下施設の一部がこっちに来てるらしい。そこを確認に行って欲しいって話だ」


「え? それって結構重要な話なんじゃ」


「いや、こっちでの場所は前からうち六条が持ってたとこだし、変なもんが出てくるとかじゃねーそうだ。ただ、その中身がこっちじゃ珍しいから回収して送り返して欲しいんだってよ」


 珍しいものってなんだろ? 隣の美琴さんを見ても首を振り、智沙さんを見ても首を振る。聞いてないってことかな。多分、私たちが帰るまでは伏せてたってことだよね。


「わかりました。じゃ、さっそく」


「いや、二人ともしばらく休暇を取ったほうがいい。そうでしょう?」


 と智沙さん。館長さんの方を向いて、その目線はいささか強い感じに。だが、館長さんも慣れてるというか、それくらいでブレる人でもないよね。


「ああ、休みついでに行ってきてくれ。別荘があるから、そこでゆっくりしてくりゃいい」


 え? 別荘? 話が来る以前から六条の所有地だったって話だったから、どこか建設予定地とか工場とかそういうのを想像してたんだけど。


「館長、場所は?」


「奥日光だ」


 奥日光って……どこ? 日光は知ってる。徳川家康が祀られてる日光東照宮があるところだよね? そのさらに奥?


「中禅寺湖や華厳の滝がある場所ですよ。お二人にはいろは坂があるところって言ったほうがわかりやすいですか?」


「「ああ!」」


 豆腐屋さんがすごいドラテクで下る坂があるあそこかー。って美琴さん、そっち系なら漫画でも通じるの?


「実際には、そのいろは坂を登った先。中禅寺湖のさらに奥。戦場ヶ原を超えた湯滝にある別荘でしょうか?」


 ツンドラ? ガハラさん? ってそれは違う違う……


「おう、そこだ。その近くにスキー場があるが、まあ、その辺りらしい」


 なんだかよくわからないけど、智沙さんが把握してるなら大丈夫ということにしよう。別荘があって、その近くのスキー場も六条系列なのかな? で、別荘で休暇を取るついでに見てこいって話で良さそう。


「えーっと、ルナリア様や皆さんをお連れして問題ないんでしょうか?」


「ああ、こっちにいても外に出れなくてつまんねーだろうしな。あそこなら羽も伸ばせんだろ」


 そう笑う館長さん。ルナリア様が竜の翼を広げたら大事になると思います。まあ、みんなで行っていいって話なら嬉しい話。


「わかりました。ですが、そのこちらに来た地下施設で翔子さんたちが持ってきた古代魔導具を使っていいんでしょうか?」


「おう。その珍しいもんを回収する前でも後でもどっちでもいいってよ」


「その珍しいものとは?」


「んー、『ごーれむ』って書いてあったけど、翔子ちゃんわかるか?」


 ゴーレム? ルナリア様の魔導具の倉庫にいたあれかな? あれってカスタマーサポートさんが作ったんだと思ってたけど、実はお弟子さんが作ったとか?


「翔子」


「ああ、すいません。知ってます。というかルナリア様のところで実物を見ました」


 さくっと伝えるには『ロボット』って言うのが一番かな。そんな感じでざっくり説明。あの倉庫にいたゴーレムはかなり賢かったと思う。私たちの言葉を理解してたふしもあったし。


「そりゃすげえな!」


 疑うことなく素直に驚く館長さん。で、まあ、そんなものが見つかったら騒ぎになっちゃうよねと。急ぐ必要はないけど、確実に回収するようにという話になった。回収方法、念のためカスタマーサポートさんに聞いておいた方が良いかな。


「おし! じゃ、もうすぐ飯だからみんなで食おうぜ!」


 館長さんがポンと両膝を打って終わりを告げる。


「チョコ、お願いして良い?」


「あいあいさー」


 ルナリア様やマルリーさん、サーラさんへの説明はチョコにお任せ。私は私で美琴さんたちに説明しておかないといけないことが。


「美琴さん、ルナリア様がすんごく食べるので、料理長さんの方に伝えてもらえます?」


「すんごくって……どれくらいですか?」


「大人五人前ぐらいは普通に食べますね……」


 それを聞いて鼻白む美琴さん。私だって信じられないけど目の前で見たし。あと……


「甘味が超大好きなので、デザートも多めでお願いしてください」


「それであの美貌なんですよね? 全世界の女性を敵にまわしそうですね……」


 あー、うん、あの姿は仮だろうけどね……

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