110. 翔子と現状把握

 ダンジョンを上に戻りつつ、こっちの世界の現状を……美琴さんの圧が強いのでチョコに聞いてもらっている。


「埼玉の方、特に動きはない感じですよね?」


「ああ、特殊作戦群の方からも現状では犠牲なしを保証できないという話が官邸に上がったらしい。加えて、館長からもしばらくは助力できないと言われては、手のうちようもないだろう」


 なるほど。まあ、私たちが向こうに行ってたのも一週間ちょいぐらいだし、その間に劇的な何かってのはなさそうだよね。日本だし。


「じゃ、これの動作テストをする余裕はありそうですね」


 抱え込んでいる古代魔導具に目をやるチョコ。あのキャンプ場の洞窟あたりがテストにちょうど良さそう。なんとかしておかないとって場所だし。


「今後の予定は戻って御前と相談だな。それに、予定よりかなり早く帰って来たということは、なかなかの強行軍だったのだろう。しばらくゆっくりするといい」


 そういえばそうだった。七連勤? 八だっけ? 時差ボケとかじゃないけど、全く暦に触れなくて今日が何日で何曜日かの感覚が崩壊してる気がする……


「働いた分はちゃんと休まないとですよー」


 とマルリーさん。町子さんも心配してるかもだし、帰ったらまず電話しないとだよね。っていうか、いったん実家に戻るべきかな?


「実家戻る?」


「うーん、どうしよ? まあ、館長さんと相談かな?」


 ルナリア様を放置して実家に戻るわけにもいかないし、そうなるとみんな一緒に来てもらうことになりそうだけど、それはそれで「仕事してるの?」っていう状態になりかねない。

 あ、でも、あのキャンプ場は六条が買い取ったらしいから、そこの仕事ってことにすればいいのか……


「また『さーびすえりあ』に行くんなら、私もそっちについてくよん」


「お蕎麦ですか? アイスですか?」


「どっちもだけど、アイスは他の味も食べてみたいねえ」


 サーラさんもこっちの食の虜になってる感じ。と、ルナリア様の耳がぴくっとして、


「そのサーラの食べたものはおいしいの?」


「甘くておいしいですよ。ルナリア様も大人しくしてれば食べれますからね」


 サーラさん、ルナリア様の扱いが上手い。ルナリア様のそつのないところをおさえてるというか、フェリア様にはそういう駆け引き通じないもんね。


 その後は、私たちが向こうに行ってる間、マルリーさんとサーラさんが智沙さんと美琴さんも!? 鍛えてた話を聞いたり。


「次が第一階層だ。お二人とも装備を」


「はいー」


「ほいほい」


 マルリーさんが白銀の鎧に大盾ラージシールド長剣ロングソード、サーラさんは革鎧と短剣を外して、階段の入り口に置いてあった袋に詰める。

 マルリーさんは長袖ボーダーのカットソーにデニムパンツ。サーラさんのTシャツにオーバーオールはお気に入りっぽい。どっちも似合ってていい感じ。


「二人が着ているのは、この世界の服なのね?」


「はい。私がコーディネートしました」


 ニッコリ美琴さん。私が向こうに行く前も随分と着せ替え人形させられたんだけど、二人にもやったんだ……

 ルナリア様が今着てるのはゴスロリ系? いや、シンプルよりな甘ロリなのかな。まあ、向こうのドレスってこういう感じなんだと思う。お姫様してて美少女度が高まるやつなんだけど……


「ひょっとして興味あります?」


「ええ、あるわね」


「じゃ、私が!」


 美琴さんが張り切るのはいいんだけど、化学繊維はこっちにいる間だけになる件とか大丈夫なのかな? まあ、気に入ったのは天然素材で仕立て直せばいいのかもだけど、それだとお金かかりそうだよね。フェリア様のおみやげが削られるかも……


 第一階層に上がり、隠し扉を抜けてしばらくすれば地上への出口なんだけど、すでに六条の工事が始まっていて、ユニット工法っぽいフロアへと繋がっていた。


「これって私たちが行ってる間にです?」


「ああ、まずはここにきっちりとセキュリティーを施して、残りの空洞部分は倉庫と基礎になる予定だ。公園と博物館が作られるのはその後だな」


 なんかもう工程表まで作られてるそうです。すごい。お金はどこからって六条だから大した額でもないんだろうなー。まあ、いざとなったらキャンプ場の金鉱を掘れば……


 地上へ出て、立ち並ぶ高層ビルを見て、帰ってきたって感覚が一気に押し寄せてきた。別に東京が実家ってわけでもないし、ビルだって見慣れたわけでもないのに不思議。

 そういえばとルナリア様を見ると、やっぱり驚いてるのかあちこちをキョロキョロと見回している。


「え?」


 前を歩いていたチョコが固まり、何事かと思ってその先を見ると……


「うわぁ……」


 車長がかなり長いリムジンなんだけど、これって大統領とかが乗るやつじゃないです? 色は真っ白だけど。


「今日はハンヴィーじゃなかったんですね」


「ああ、あれだと狭くなるしな。それと御前から他国の姫様を迎えるのだから、相応の車に乗っていけと言われたよ」


 チョコにそう答えつつ、後部座席のドアを開ける智沙さん。


「ルナリア殿、どうぞ」


「ええ、ありがとう」


 景色に興味津々だったルナリア様が智沙さんに促されて乗り込む。そういえば、グリーン車とかグランクラスって言っちゃった時にリムジンの話をしたっけ。


「これが前に言ってた高級な方の乗り物ですよ」


「へえ、これが……」


 ちょっと嬉しそうなルナリア様。フェリア様にマウントを取れるネタを一つゲットしたとか考えてるのかな。


 智沙さんを除く全員が後部に乗り込み、智沙さんは当然運転席に。前後のパーティションがありそうだけど出してない感じかな? 智沙さんが後ろを向いて出発を告げる。


「……」


 すました顔をしつつも、マルリーさんの腕をがっちり握っているルナリア様。車が動き出す時にちょっとビクッとしてたのが可愛らしい。……フェリア様は鳥籠でへそ天だったよね。


「そういえば、さっき美琴さんも訓練してるって聞きましたけど……マジで?」


「はい。マジですよ」


 ニッコリの目がちょっと怖い。マルリーさんとサーラさんに目を向けると、なんかこう違和感があるんだけど?


「実はですねー。私もサーラもちょっと油断してたら、美琴ちゃんに投げ飛ばされちゃったんですよー」


「「は!?」」


 あー、あれか。合気道とか知らないから的な。なんかわかんないうちに体がくるんって回転してすっ飛ぶやつとか。有名なやつだと……


「足を踏んだら何もできなくなるやつ?」


「地下の大会はあれが一番面白かったよね」


「あんなことができるのは本当に本物の達人だけですからね?」


 やっぱりあれって本当なの!?

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