108. 翔子と帰路
夜明け前に出発した私たちは、今日もシルバリオ様の竜駕籠に乗って空の旅。昨日はあの後、軽く食べてから就寝し、きっちり六時間ほど眠れたと思う。
シルバリオ様が連日のフライトになって疲れてないのか心配だったんだけど、一年ぐらい連続稼働しても全然平気だと聞いてちょっとホッとした。人と竜、そもそものスケールが違うのね……
「昨日のフェリアはなかなか可愛かったわね」
「うっ、もうその話はよかろう……」
照れてプイッとそっぽを向くフェリア様。ルナリア様にからかわれるのが嫌なのか、私の右肩に座ってる。
はい。ちょっと感動的なお別れ感があったフェリア様ですが同行中です。だって、
「ケイさんも最初から最後まですいません」
フェリア様がそのまま私たちの世界について行かないよう、ディオラさんやロゼ様に監視するよう頼まれたのはケイさん。
「気にしなくていい。君たちを最後まで送り届けるのが、ミシャに頼まれた仕事だからな」
そう言って微笑むイケジョ。その真面目さの一パーぐらい、フェリア様に分けてあげてもらえませんか?
「次来る時は、ちゃんとみんなにオッケーをもらってからですからね?」
「ええい、何度も言わんでもわかっとる!」
両手でてしてしと私のほっぺたに突っ張りするフェリア様。相撲とかこっちの世界にはないですよね?
「ふふ、大人しく私のおみやげを待っていなさい。抜け駆けした罰よ」
そう意地悪く笑うルナリア様。美少女って得だよね。意地悪く笑っても可愛いんだもん。で、その『抜け駆け』ってどういうことなんでしょうか? フェリア様が最初にルナリア様のところに行くのを渋ってたのと関係が?
「わかっておる! ……次にミシャが絡む件で抜け駆けはせん。だが、正攻法で頼んでも間違いなくロゼやディオラに止められておったぞ?」
「ええ、そうね。あなたが抜け駆けしたから、私もおいしいものを知ることができたわ。だから、ちゃんとおみやげを買ってきてあげるわよ」
ケイさんを見ると苦笑してるし、なんだかシルバリオ様のため息が聞こえてきた気がする。本当にこの二人には『悪友』って言葉が似合うと思う。まあ、本当に悪いことはしないんだろうけど……
「それで、向こうにはマルリーとサーラがいるのね?」
「はい。ルナリア様が行かれる以上、二人は護衛にと」
ケイさんが答える。そりゃそうだよね、竜族のお姫様なんだし。ただ、お二人にはルナリア様が暴走しないようにする方をお願いしたい。
『パルテームに近づいてきました。ケイ殿、そろそろ案内をお願いできますか』
「了解です」
シルバリオ様が速度を落として下降し始めた感じ。例のダンジョンの詳細な位置までは知らないということで、ケイさんが先導して進むことになっている。
お昼を過ぎたぐらいだと思うけど、小一時間もすれば到着かな? 真昼間にドラゴンが降りてくるのは騒ぎになるんじゃと思ったけど、あの周りには寂れた村しかなかったし大丈夫だよね。
***
「それでは、くれぐれもお
「は、はい!」
深々と頭を下げてお願いされ、思わず答える声がうわずってしまう。シルバリオ様は竜駕籠のこともあって、ダンジョンの外でお別れに。フェリア様とケイさんを乗せて帰るので、二人が戻るのを待つ手はず。
竜族のお姫様を一人送り出すのって心配なんじゃないかなと思うけど、本人の意思だから反対のしようもないんだろうなあ。
「帰りはミシャが知らせてくれるでしょうから、シルバもしばらくゆっくりなさい」
「はは」
お姫様は大事に預からせていただきますので、その間はゆっくりしてもらえればと。鬼の居ぬ間に洗濯……
「さ、行きましょう」
何かを察せられた感じのニッコリが来て、慌ててチョコに視線を移す。しっかりと借りた古代魔導具を抱えてるのを確認。『不可視』タイプ、サーラさんの身軽な格好。
私はいつもの『慈愛』のローブに
「ワフッ」
「うん、行こうね」
先頭はケイさんが。私とヨミ、ルナリア様とフェリア様と続いて最後尾にチョコ。
このダンジョン、例の第十階層以外はクリアリング済みだけど、警戒はしっかりと。チョコはいざという時には『永遠』タイプのメイン盾に換装することになっている。ちなみに、借りた古代魔導具は雑に扱っても壊れないらしい。そういえば『不壊』の術式がどうこうとか言ってたっけ。
「このダンジョンの半分が翔子たちの世界に行ったのね?」
「はい。上にあった建物が崩れちゃったりして大騒ぎになりました」
チョコの答えにちょっと申し訳なさそうな感じになるルナリア様。けど、問題を起こしたのは旧パルテームの上層部だし、遅かれ早かれだった気はする。
「ま、翔子がチョコを見つけたのは不幸中の幸いと言ったところだな」
「それもそうですけど、全体的に私にとっては良かった感じです」
変なブラック企業に片足を突っ込んだところで騒ぎが起きて、運よく抜けれたし、チョコを見つけて六条のお世話になることになって……うん、間違いなく良かった。
「あの子はそこまで考えてたのかしら?」
「さあのう」
二人が話してるのは『空の賢者』ミシャ様のことですよね? これを予想した上で、あの地下施設とチョコを置いてくれてたんだとしたら、それはもう神なのでは? と思うんだけど……
ダンジョンの最短経路で第六階層、神樹があるフロアに到達。時間的には午後四時かもう少し遅いぐらいかも? 一応、迎えは今日以降、午後六時ぐらいまでこのフロアで待っててくれてるらしい。
「フェリア」
「うむ」
ルナリア様の肩を離れてすいーっと飛んで行き、
「おーい、マルリー、サーラー、おるかー?」
「はいー、いますよー」
「おー、フェリア様お疲れー」
マルリーさんのほんわかした声と、サーラさんの気安い声が返ってくる。良かった。多分、智沙さんもいると思うんだけど。フェリア様にケイさんが近づいていって……ロゼ様からの伝言を伝えるのかな。
「マルリー、サーラ。ルナリア様のことを頼む」
「あらー、本当だったんですねー」
「まあ、フェリア様よりは楽でいいじゃん」
「おい、聞こえとるぞ! サーラ!」
なんか漫才が始まったけど、突っ込むべきか悩ましい。そして、ルナリア様がソワソワしてる気がするので、そろそろお願いします……
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