107. 翔子と師匠

「ただいまです。遅くにすいません」


「いいのよ。みんな元気そうで何よりだわ」


 ニッコリ迎えてくれるディオラさん。なんか久々に常識人に会えた気がしなくもない。で、先に降りたルナリア様とフェリア様は……


「久しぶりね、ロゼ」


「ええ、元気そうね」


 おおお、あの色っぽいお姉様が『森の賢者』ロゼ様? 魔術士っていうよりは魔女だよねえ。大人の色気がある女性いいなあ……


「ああいう女性になりたい」


「わかる」


 その私たちの呟きを拾ったのか、ケイさんとディオラさんが、


「やめてちょうだい」


「やめた方がいい」


 そんな二人揃って超反応で言うことなの? 二人ともロゼ様のこと尊敬してましたよね。特にディオラさん。


「外での話もなんだ。部屋に戻ろうぞ」


「ワフッ」


 屋上は魔導具のランプで明るいんだけど、外で立ち話を続ける意味もないので下へ。転送魔法……エレベーターで二十九階へと降りる。

 どっちの部屋に行くんだろうと思ったらロゼ様の方の部屋らしい。そういえば、明日どうするんだろ。もう出発するのか、一日休息するのか……


「お帰りなさいませ」


 シルキーさん(姉)が出迎えてくれて応接室に。長ソファーに私とチョコとケイさん、向かい側の長ソファーにはロゼ様とディオラさんが座る。そして豪華な一人掛けにルナリア様と肩乗りフェリア様が座って斜め後ろに立って控えるシルバリオ様。

 一人掛けはロゼ様が座るのかと思ったけど、やっぱり竜のお姫様の方が上なのかな。シルキーさん(姉)がお茶を淹れてくれ、その温かさにホッと一息。


「さて、そこの二人には初めましてね。私は『森の賢者』ロゼよ」


「あ、はい、えーっと翔子です」


「チョコです」


 あまりに間抜けな自己紹介をしてしまって十秒ほど時を戻したくなる。もっとこうなんかあるんじゃないのっていうね……


「ロゼよ。チョコはルナリアがミシャに譲った魔導人形だそうだぞ」


「ええ、話は聞いたわ。ルナリアが譲ったって言うのは初耳だけど」


「むむ、其方そなたも聞いておらなんだか」


 二人してルナリア様の方を見るが、ルナリア様は涼しい顔でスルー。こう「私とミシャの間の話だから関係ないわよ」って言う声が聞こえてきそうな感じ。


「まあいいわ。それよりルナリア。あなたも向こうの世界に行くと聞いたけど、どういうことなの?」


「貸し出した古代魔導具がちゃんと使われるかを確認するためよ。それに、こちらで必要になるまでは向こうで保管してもらうつもりだから、どういうところか見ておきたいの」


 ちゃんとした理由を考えてるあたりがフェリア様と違うところだなと感心。本音は私たちの世界の甘味——いちご大福などなど——を食べたいだけですよね。で、


「うむ、そういうわけなので、我も今一度翔子たちについて行って……」


「ダメです」


 笑顔で威圧するディオラさん。なんだけど、フェリア様も粘る。


「ロゼが戻ってきておるのだから、我は居なくとも良かろう?」


「ダメです。ロゼ様には明日から東側の友好国に行ってもらいますので」


 ああ、私たちの世界での陥没箇所が、こっちの世界の位置と被ってる件、まだまだ他の国にも説明に行くのね。

 ちらちらとルナリア様に助けを求める感じのフェリア様だけどこれまたスルー。いや、何か目で合図してるようなしてないような。あれかな? 余計なこと言ったらおみやげ買ってこないわよ的な?


「はあ……。まあいいわ。それでミシャに迷惑はかからないんでしょうね?」


「心配はいらないわ。ちゃんと大人しくしているし、古代魔導具については私がついて行った方がいいでしょう?」


 確かに古代魔導具なんて初めて扱う……チョコが古代魔道具じゃん! まあ、全く性質の違うものだし、いてもらったほうが何かあった時には助かるはず。きっと、そのはず。

 ルナリア様の後ろ、シルバリオ様に目をやるロゼ様だけど、


「私がお姫様ひいさまのお考えに反対することはありませんので」


 ですよね。ルナリア様がお小遣い制なのはびっくりしたけど、まあ常識はちゃんと持ってもらいたいっていう親心的な何かなんだと思う。


「二人はいいの?」


「はい。まあ、えっと……自由な行動は控えてもらいますが、それであればミシャ様も良いという話なので」


 ミシャ様の意見に反対できそうなのは館長さんぐらいだろうけど、多分「おう、いいぜ!」って言いそうなんだよね。あとフェリア様とも意気投合してたし。言葉通じてないのに。


「ケイ、マルリーとサーラにはくれぐれもよろしく伝えておいてね。あとルナリアが戻るまではリュケリオンに待機していてちょうだい」


「わかりました」


 あちこち飛び回れるケイさんは手元にいてもらいたいってことかな。せっかくだし、ケイさんにもディオラさんにも来てもらいたかったけど、しょうがないか……


「あの、それで明日っていうか、夜明け前に出発なんですか?」


「ええ、そのつもりよ。シルバも問題ないわね?」


 その言葉に一礼するシルバリオ様。なんか大変そうだけど平気なのかな。私たちは六時間も眠れれば問題ないから全然余裕だけど。


「一日休んだ方が良いのではないか?」


 フェリア様の提案にロゼ様もディオラさんも頷くんだけど、ルナリア様は特に反応せず。多分、早くいちご大福を食べたいんだと思う。あと、フェリア様はもうちょっと遊んでたいだけ……


「向こうの世界ではオークの群れを駆逐できずにいるという話です。急いだ方がいいかと」


「だそうよ」


 ケイさんは急ぐのに賛成。そういえばこっちに来てからえーっと……一週間経ってるんだっけ。さすがにこの間に埼玉の廃鉱とかの再調査とかはしてないと思うけど……


「やっぱり心配になってきたので急ぎます」


「そう……気をつけてね。とはいえ、シルバリオ様が運んでくださるから心配はないと思うけど」


「お任せください」


 来るときはでっかいカラスにストーキングされたけど、さすがにドラゴン相手にそんなことはして来ないだろう。今日の飛行速度もかなり速かったはずだから普通について来れないかな。


「はあ……翔子らともここまでか。世話になったの……」


 そう聞いてしょんぼりと呟くフェリア様。そんな今生の別れみたいな言い方しなくても。


「ここまでって、また遊びに来ればいいじゃないですか」


「良いのか!?」


 別にダメって話は全然してないと思うし、ちらっとディオラさんを見るとちょっと呆れ顔だけど、怒ってはない風。ロゼ様もミシャ様が良いって言うならなのかな。


「今度はちゃんとミシャ様とディオラさんに了解を取ってくださいね? 約束ですよ?」


「うむ! 約束するぞ!」


 そう言って私の顔に張り付くフェリア様。強者つわものっぽいおじいちゃんでも、クセのあるおばあちゃんでもないけど、愛すべき私の師匠だからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る