106. 翔子と竜駕籠

 お城の広い中庭をヨミと散歩したり、城内の見晴らしの良いところに連れてもらったりしているうちにお昼過ぎ。そろそろ出発ということで、忘れ物がないかしっかり確認を。


「借りた魔導具はチョコお願いね」


「了解であります」


 シルバリオ様が駕籠で運んでくれるらしいので、チョコは不可視タイプに変更して身軽な格好。私は杖とバスケットをと思ったら、ケイさんがバスケットを持ってくれることになった。杖に槍にバスケットと電車に持ち込んだら間違いなく邪魔そうなものが揃ってるけど大丈夫かな?


「大きな荷物は別の場所に収納してもらうことになる」


 だそうです。トランクがあるってこと? どれくらいのサイズなのかによるけど……


「さあ、行きましょうか」


「アレに乗るのも久しぶりよの」


 フェリア様はルナリア様の肩に乗ってご機嫌の様子。なんか、最初に話が出た時は微妙に躊躇ってたけどあれは何だったんだろ……

 向かう先は……中庭じゃなくて上の階らしい。幅広の階段をゆっくりと登っていくと広い屋上へと出る。屋上っていうよりは空中庭園っぽい感じ?


「あれよ」


 右手側へと歩いていく先には軽のボックスワゴン? 普通に二頭だて馬車の本体って感じで、お姫様が乗る感じの豪華な装飾が施されてるんだけど……


「なんかでっかい……ショルダーベルトだよね?」


「首に掛けるんじゃないかな? あと持ち手がついてる……」


 なるほど。ベルトを掛けて両手で持つ感じ? ……虫取りかごに見えてきた。


「ぼくのなつやすみ」


「あれ、実際に田舎の人間から見ると『きれいなジャイアン』って感じだよね……」


 そんなくだらないことを話していると、出発前の点検をしていたのか、駕籠の裏側からシルバリオ様が現れた。


「皆様、お忘れ物はないでしょうか?」


 一応、もう一度、忘れ物がないのを確認。……大丈夫だよね?


「ヨミも忘れ物ない?」


「ワフン」


 チョコを見ると両手でしっかりと古代魔導具を抱え込んでる感じ。大丈夫かな?


「大丈夫です」


「荷物はこちらへ」


 多分、後部側へと案内されると、そこにはやっぱりトランクが。バスにあるようなタイプのそれに荷物を詰める。


「ケイよ。そのバスケットは持っておれよ」


「はい」


 うん、その中にドライマンゴーの残りと小座布団入ってるからですね。しかし、ケイさんは真面目だなあ。私だったら嫌味の一つも言いたくなるんだけど。

 荷物を詰め終わったところで、シルバリオ様ががっちりとロックをかける。ロックの仕組み自体もバスのあれみたいな感じ。


「では、皆様お乗りください」


 側面に移動したシルバリオ様が扉を開けてくれる。開くやつじゃなくてスライドドア。ルナリア様とフェリア様、私とチョコとヨミ、最後にケイさんが入ったところでドアが閉められた。


「さ、座りなさい」


 中には向かい合わせに幅広なソファー。ゆったりと深く腰掛けることもできて、足元もかなり広いリッチなやつ。


「グリーン車?」


「グランクラスじゃなかったっけ?」


 グリーン車はまだイメージ可能だけど、グランクラスってどれぐらい贅沢なんだろ。ネットでみた画像は確かにこんな豪華なソファーに座ってたけど。そういうイメージで作られてるとしたら……


「これってミシャ様が作られたんですか?」


「ええ、そうよ。やっぱりあなたたちの世界にはこれに近しいものがあるのかしら?」


 ミシャ様は説明しなかったのかな? そういえば甘味の話もしてなかったっぽいし、わざと私たちの世界のことは伏せてたのかも……


「えーっと、なかなか説明が難しいんですが」


 と、ちょっとごまかし気味に説明。ただ、自動車は帰ったら実物を見られちゃうんだよね。なので、いつも六条のお迎えに来てくれるリムジンのことを話す。あれの内装もこれと同じくらいすごかったし。


『出発します』


 説明が終わったあたりでシルバリオ様の声が。一瞬だけ浮上する感覚があったけど、そのあとはほぼ揺れもなくて、やっぱりリムジンっぽい感じ。


「智沙が御者をしていた物とは違うのか?」


「御者って……まあそうですね。あれよりももっと高級感があるやつです。智沙さんのは乗り心地を重視するタイプじゃなくて荒地とかを走るためのものですし」


 実際は軍用だけど、またそこから説明が必要になりそうなので簡単に。対してリムジンは乗り心地超重視。地面の上を滑るように走る感じがすごいんだよね。エンジン音とかほぼ聞こえないし。


「むむう、そんな物があるなら乗せてもらっておけば良かったのだ……」


「大丈夫よ、フェリア。私が代わりに乗せてもらってくるから」


 隙を見てはマウント合戦を始める二人。仲良いよね、ホント。

 結局、そこから先はフェリア様が私たちの世界で何をして、何を食べたかという話がメインに。キャンプの話も当然したんだけど、古代魔導具の試運転はあそこが良いのかも?


***


 小窓から見える外はもう真っ暗。駕籠の中は魔導具の淡い光に照らされていい感じの雰囲気に。時間は夜の八時か、もう少し遅いくらい?


 フェリア様は当然のように寝ちゃってるし、ルナリア様も穏やかな寝息をたててるし、ケイさんも……じっと目を瞑ってるから寝てるのかな? ヨミは私の膝の上ですやすやかわいい。

 私とチョコはまだまだ平気。こっちの世界は朝早いんだけど、今日は出発が昼過ぎっていうのもあって、かなりゆっくり寝かせてもらったし。でも、まあ大人しくしてるしかないよね……


『まもなく到着いたします』


 その言葉にケイさんがバチっと目を開く。ルナリア様もすっと目を開いて姿勢を正す。フェリア様は……うん、うん。


「ワフ?」


「ヨミ、もうすぐ着くよ」


 優しく撫でつつ話しかけていると、ほんの少しだけ揺れて……着陸したのかな?


『お疲れ様でした。扉を開けるまでしばしお待ちください』


 着いたっぽい。けど、小窓に映るのは光に反射して映る私たちだけ。と、人の姿となったシルバリオ様が見え、ゆっくりとドアを開けてくれる。

 こういう時は偉い人が最後に降りるんだよね。ということで……乗った時と逆順になるのから普通に降りればいいのか。シルバリオ様に手を取ってもらって降りると、そこには光の精霊に照らし出されたディオラさん。


「お帰りなさい」


 笑顔でそう迎えてくれるのって、なんだか嬉しいよね。

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