100. 翔子と白竜姫

 銀竜シルバリオ様について行き、降り立った先はお城の中庭っぽいところ。

 飛んでてお城が見えてきた段階でテンション爆上がりで、近づいてくるとそれがすっごく豪華で綺麗っていうもうね。で、


「ご案内いたします」


 シルバリオ様がその言葉とともに執事姿ロマンスグレーのイケオジに変身する。そして綺麗に一礼する姿がすごくかっこいい。やはり執事は初老に限るよね……っていうか魔法なのこれ? 身体強化的な?


「ワフ〜」


「相変わらず良い庭よのう」


 バスケットから出てきたヨミとフェリア様が花壇の方へ。勝手していいのと思わなくもないけど、フェリア様だし許されるんだろうなあ……


「こちらへどうぞ」


 完全にそれを無視してケイさんと私たちを案内するシルバリオ様。ケイさんもいつものことなのか全く気にしてない様子。


「ヨミ、行くよ〜」


「ワフ〜」


 呼べばちゃんと戻ってくるヨミはかしこい子。だっこしてあげると嬉しそうにほっぺを舐めてくれる。くすぐったい〜。


「フェリア様も〜」


「うむ」


 チョコに呼ばれてフェリア様も戻ってくる。私がヨミをだっこしてるのを見て、チョコの右肩へとまる。チョコとなんか違いでもあるのかな。私が魔素の色が三色で波長が合うとか。


「翔子の方が座り心地がいいとかあるんです?」


「チョコ、其方そなたは硬い鎧を身につけてることの方が多いからの」


 ……もうずっと小座布団持ってた方がいいんじゃないかな。っていうか、こっちにいるなら飛べるんだから自力で飛んでください。


「二人とも」


「「あ、すいません!」」


 ケイさんもシルバリオ様も少し先まで行っちゃってて慌てて追いかける。

 この中庭はいわゆる外廊下に繋がってるようで、その先が城内に繋がってる感じ。それにしても広い。このお城ってどうやって作ったんだろ……


「こちらでお待ちください」


 通されたのはめちゃくちゃ豪華な部屋。六条本邸の応接室もすごいけど、あそこよりも更にクラシカルな感じ。


「座って待とう」


 気軽な感じでケイさんがそう言って長椅子へと腰をかける。私たちも恐る恐る腰をかけるんだけど、なんかもう少しでも傷つけたらどうしよう感が……


「気を使う必要なんぞないぞ」


 フェリア様がチョコの肩を離れ、バスケットから小座布団を取り出す。そして、それをローテーブルに置いて座る。机の上に座るのはしたないし、行儀悪いし、良くない気がするんだけど、フェリア様なら許される的な?


 ガチャリと扉が開く音がし、慌てて立ち上がってそちらを見ると、さっき出て行ったシルバリオ様だけ。それもティーカートを押してきてて……お茶を淹れてくれるっぽい。


「お座りください。堅苦しくされる必要もございません」


 そう優しく微笑まれ、おずおずと座り直す私とチョコ。


其方そなたら、普段はもっと肝がすわっておるだろうに……」


 小座布団の上で足をぶらぶらさせてそんなことを言うフェリア様。こっちは新人社員なので勘弁してください……


「お姫様ひいさまが来られるまで、今しばらくお待ちください」


 一礼して部屋を出たところで、ケイさんもリラックスしてるのかお茶に口をつける。めっちゃ高そうなカップなんだよね、これがまた。六条本邸のもそうなんだろうけど、館長さんがああいう性格だから緊張しないで済んでる感じ?


「ほれ。飲まんと失礼だぞ」


 そう言ってお茶をプハーッと飲み干すフェリア様。そのカップのサイズは特注ですよね? 悪友っていうか親友だよね。カップまで用意してもらってるわけだし。

 このカップもすごいお高そうなのでそうっと持って一口……おいしい。緊張で味がしないかと思ったけど、ふわっと優しい香りがとても上品なお茶。


「チョコ、こんなことわざを知っていて?」


「それペコでしょ」


 サンドイッチはパンよりも……なんだっけ?

 そんなことを考えてると、再び扉が開く音がして今度こそルナリア様のはず。そっとカップを置いて立ち上がる。


「待たせてごめんなさいね」


 現れたのは真っ白な美少女。びっくりするくらいの美少女。

 銀色の髪に白い肌、あどけなさの中にも色気を感じる顔立ちとサファイヤの瞳。


「ルナリア、すまんの」


 ぷいーっと飛んでいって、ルナリア様の右肩へととまるフェリア様。本当に友達なんだ……と思ったら、


「フェリア、別に貴方いなくても良くてよ?」


「遠慮せんでも良いぞ? 我が来て嬉しかろう?」


 睨み合う二人。なるほど、悪友ってそういう感じなのね。とシルバリオ様がひとつ咳払いをして二人を止める。


「座りなさいな。用件は大まかには聞いてるけど、詳しいことを聞かせてちょうだい」


「「はい」」


 揃って答えて座る私たちを面白そうに見るルナリア様。ああ、チョコが魔導人形だってことも説明しないとだよね、これ。

 ルナリア様が座り、シルバリオ様がお茶を淹れなおしてくれたところでケイさんが私を促す。


「翔子くん、説明を」


「はい」


 うー、緊張する。心の中で一つ深呼吸し、チョコと出会ったところからゆっくり話し始めた。


***


「……というわけで、魔素を吸引して無害な何かに変換する古代魔導具を借りたいんです」


 そこまで話して一息つくと、ルナリア様はカップをテーブルに置く。そして、じっと私を見た後、その目線をチョコへと移した。


「貴方が魔導人形の方ね?」


「は、はい」


 その答えに一つため息を。えーっと……


「ふふん、其方そなたも驚いたであろう。ここまで精巧な魔導人形など他にはないぞ?」


「フェリア、貴方は勘違いしてるわ。そもそも、この魔導人形をミシャに渡したのは私なのよ」


「なっ!」


 フェリア様が驚いてあんぐりと口を開けたまま固まる。うん、まあ、フェリア様はチョコ——魔導人形のこと聞いてなかったっぽいしね。

 で、こっち見られても困るんですけど。私は『空の賢者』ミシャ様——カスタマーサポートさんからはそのまま使ってって言われたし……


「あの子にもしものことがあった時のために渡したというのに、全くどういうつもりなのかしらね……」


 あ、あー、そういう。チョコは髪色だったりほくろの位置だったり、私と違うようにしちゃったけど、そっくりにしておけば影武者ってやつにできるよね。本人と同じ考えをするし、記憶の同期で齟齬もでないっていう……

 これはやっぱり返さないとダメかなとチョコを見ると頷いて返してくれる。私と同じ考えなんだから、異論が出るわけもなく。

 ただ、私たちの世界の問題が片付くまでは待ってくれないかな……

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