99. 翔子とテイルゲート
「ふう……」
降り立ったのは切り立った崖の手前。その岩肌にぽっかりと穴が空いてるんだけど、軽トラがぎり通れるぐらい。
「ここ潜るんです?」
「ああ、こちら側はただの洞窟に見えるが、そのまま古代施設に繋がっていてな」
「「おおー」」
「ワフッ!」
「あ、ごめんごめん」
バスケットに入りっぱなしのヨミからクレームが。慌てて下ろすとヨミが元気よく飛び出し、その入口前までダッシュして行った。ヨミは来たことがあるのかな?
ところでもう一人のお客様は? と中を覗くと大の字になって寝てるフェリア様。
「フェリア様、着きましたよ」
「うう、もう食えん……」
寝てるのはまだ良いとして、涎垂らしてるし。
もっとこう、可愛らしく可憐にすやぁってするもんじゃないの? イラッと来てくすぐり攻撃でもしようかと思ったけどグッと我慢。この人は賢者。花の賢者……
「フェリア様、おきてください。ロゼ様に言いつけますよ」
「わぁっ!」
ガバッと起き上がってそう叫ぶフェリア様。サーラさんが言ってたのを思い出して試してみたけど「効果は抜群だ!」って感じ。
「ん? ……翔子か。そうかそうか、そうだったの」
なんだろ。ちょっと調子が悪そうな感じ。頭を軽く振ってからバスケットの淵にもたれ掛かるように顔を出した。チョコも心配になったのかフェリア様を覗き込む。
「大丈夫ですか?」
「うむ。夢の中でまんごーを食い過ぎた……」
私とチョコの心配を返して!
「さて、そろそろ行こうか」
「「はーい」」
日が傾いて来てて午後四時過ぎくらい?
フェリア様が言ってたように迎えが来てくれてればいいけど、そうじゃない場合はまた一時間ほど飛ぶことになるらしい。日が暮れる前に着けるといいんだけど……
***
光る苔に照らされた洞窟をしばらく歩くと開けた部屋に出た。ここが入国審査室かな? 左手に受付っぽい小部屋があって窓口のような感じになっている。誰もいないけど。
ケイさんがその無人の窓口へと進むので私たちも後を追うと、いないのではなく、椅子に深く座って居眠り中の……
「すまない。入国審査をお願いしたい」
「んー、なんだぁ? ってケイさんじゃないですか!」
起きてはいたっぽい職員さんが窓口に顔を出す。どこからどう見ても狐人です。本当にありがとうございました。
『ニックだ』
『ニックだね』
チョコとこそこそ話。やっぱり彼女は兎人なのかな?
「いつもすまんな。シルバリオ様に会いに来た」
「いえいえ。そこのお嬢ちゃんたちもですかい?」
「ああ。翔子くん、チョコくん、ギルドカードを」
知り合いというか顔馴染みなのかな? そいや、竜の都へ行くならケイさんみたいな話をしてたし。
ケイさんに言われるままにギルドカードを見せる。あ、ヨミもタグ見せないとかなと抱っこしてあげる。
「ワフ」
ちゃんと挨拶するヨミ。かしこかわいい。
「え゛っ、まさか……」
「すまんが急いでいる」
「は、はいっ!」
ヨミを見てめっちゃ驚いてるんだけどなんで? ルナウルフが珍しいから? ヨミがかわいいから?
不思議に思ってる間に手続きが終わったようでギルドカードが戻ってくる。それを受け取るためにヨミを足元に下ろすと、狐人さんがなんだか残念そうな顔に。
「行こうか」
「あ、はい」
なんかずっと見送られてる気がする。私じゃなくてヨミが。
部屋の大きさのまま広い通路を先へ進み、狐人さんが見えなくなったあたりで声をかける。
「フェリア様、入国審査終わりましたよ」
「うむ、ご苦労」
バスケットから聞こえる声。今すぐ戻って「ここに密入国者がいます!」と叫びたいアゲイン。
リュケリオンの時はバレたら面倒だからってわかるけど、ここでもそんなことしていいの?
「普段から密入国してるんです?」
「密入国とは心外な。我のような上役が表立って来てはルナリアも困るだろうからの」
そんなことを言いながら右肩へと飛んでくる。
「でも、この前も遊びに来てたってサーラさん言ってましたよね? その時は?」
とチョコ。
「我一人であれば転移してルナリアの城まで飛べば良いからの」
くっ、やっぱりこの人賢者だった……
うーん、私も転移魔法教えてもらうかなあ。実家と六条別邸を行き来できればそれだけで……って別邸には魔素がないんだった。だから魔晶石がついた転移魔法陣を置いてもらってるんだし。
飛行魔法にしてもこっちの世界なら魔素が回復するから使えるだろうけど、戻ったら絶対に無理だよね。飛んでる途中で魔素切れとか怖すぎるし。
「チョコぐらい洗練されないと日本で日常的に使うのは無理かなあ」
「それも地下で充魔できる前提だからね?」
そうなんだよね。チョコが日本というか魔素のない世界でも活動できるのは、うちの蔵の地下にある研究所が魔素を運んできてて、そこで充魔できるから。
魔素がない場所での連続稼働時間は一ヶ月らしいけど、それも魔法や身体強化を使わないエコモードに限るだもんね。
「さあ、外だ」
そう声が掛かって広い通路を出ると、そこはちょっとした丘の上の広場。眼前にはのどかな感じの風景が広がっていて、畑はあれは小麦? 大麦? 私の脳内イメージ的には北欧っぽい。
「ふむ、シルバリオはまだか」
「もうすぐ来るかと」
ケイさんが左腕の腕輪を確認する。腕時計なのかな? ちょっと欲しい……
「えっ、何?」
と、急にあたりが暗くなり、チョコが私を庇うように前に立つ。が、フェリア様は慌てることもなく上を指す。上?
「ほれ、来たぞ」
「「……」」
私もチョコも言葉を失う。
その上を飛んでいるのは銀の鱗をまとうドラゴン。旋回しながら降下し、私たちの目の前へと悠々と着陸する。
すごいでっかい。翼を除いても大型ダンプカーぐらいのサイズ。
「シルバリオ殿、わざわざ申し訳ない」
「いえいえ、お
そう言って目を細める表情はすごく優しい感じがしてホッとする。とりあえず自己紹介をしないとと思ったんだけど、
「では、さっそく向かおうか」
「あっ、えっ、はい」
「皆様、お乗りになりますか?」
ふぁっ? ドラゴンに乗せてもらえるの!?
「シルバリオよ。この者らも飛べるゆえ心配はいらぬ」
「ほほう、そうでございますか。では、後をついてきてくださいますか」
そう言ってふわっと浮き上がってしまう。ド、ドラゴンに乗れるチャンスがぁ……
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