98. 翔子とドワーフ自治区
先頭を飛んでいるケイさんが右手で前方やや右寄りを指す。
そこに見えるのは山裾に広がるこじんまりとした集落。今日の目的地であるドワーフ自治区なんだと思う。
「フェリア様、そろそろ着きますよ」
「ん、おおー、もう着いたのか?」
それはあなたがずっと寝てたからです……
リュケリオンからここまで七時間強ぐらい? 途中何度か休憩を挟んだけどやっぱり疲れるね。昨日の後半ぐらいのペースでずーっと飛んでたし。
と、ケイさんが右下へと下降し始めるのでそれを追いかける。ちらっと後ろを見て、チョコもちゃんとついてきてるのを確認。すいーっと降りていく先は集落の方ではなく東の方にある森の中。
やっぱり目立つから人気のないところに降りるのかなと思ったら、樹々の合間に小屋が見えてきた。小屋っていうかログハウス?
その玄関前のスペースにふわっと降り立つと、ヨミがバスケットから飛び出す。うんうん、窮屈だったよね。
「ここだ」
「自治区の中じゃないんですね」
「あそこはドワーフたちの居住区だからな。このミシャの別荘は特別に許可をもらって建てたらしいが、常日頃からいるわけでもないしな」
へー、一応、気を遣ってるってことなのかな。
「じゃ、自治区の人たちに挨拶とかも不要なんです?」
「ああ、ミシャのことだろうから、長には連絡はしてあるだろう。我々は一晩泊まって、明日早朝には出発するだけだからな」
もうそろそろ日も暮れるし、明日が早朝出発なら今から挨拶回りする方が悪い気もするね。
ケイさんがログハウスの玄関扉を開ける。というか、鍵もかかってない感じ? 手入れとかどうしてるんだろう。空気の入れ替えぐらいはしないとまずいんじゃないかなって思うんだけど。
「お疲れ様でした」
「「うわあっ!」」
突然現れたメイドさん……シルキーさん!? 誰もいないかと思ってたからビックリしすぎた。
そんな私とチョコの反応にもニッコリ笑って返してくれるんだけど、このシルキーさんはまた別の姉妹さん?
「私はノティアの森の館のシルキーです」
そう言ってニッコリ。顔に出てたっぽい? というか、
「え? ということは転移してきたの?」
「シルキーはご主人の持ち家であればどこにでも伺えますので」
チョコの問いに答えてくれるシルキーさん。なる、ほど?
いやまあ、こっちの世界で精霊の常識に疑問を呈してもしょうがないか。
「今日も世話になる」
「はい、ごゆっくり。日暮れ前には夕食をご用意いたします」
そう言ってすっと消えるシルキーさん。
入った部屋には食事ができるテーブルと椅子があり、奥のもう一部屋は二段ベッドが二つ詰まってるだけ。後はキッチンとかトイレとか。
「ワフッ!」
「ん、ヨミ、お散歩したい感じ?」
「ワフン」
今日はここまでずっとバスケットの中だったし体動かしたいよね。近くをちょっと散歩するぐらいならいいのかな?
「ケイさん、ヨミとあたりを散歩してきていいですか?」
「ああ、少し待ってくれ」
ケイさんも一緒に来てくれるっぽい。あ、ここ異世界だし魔物が出るかもなんだった……
***
「ふむ、やはり北に来ると涼やかな花が多くて良い」
ヨミの散歩に行くと言ったら、やっとバスケットから出てきたフェリア様。道中ぐっすりだったせいかやたら元気。
「翔子、こっちこっち!」
ヨミとあちこち駆け回っていたチョコが呼ぶので気持ち足早に向かうと、そこにはいかにもファンタジーな感じの小さい泉があった。透明度がすごくて、底に生えてる水草が抱えてる気泡まで見えるレベル。
「ワフ」
「あ、ヨミ、待って」
ぱちゃぱちゃと前足で水面を叩くヨミ。そんなことしちゃ泉の神様が出てきて怒られたりしそうな気がして。
「大丈夫だ。ここはディアナもよく来る泉だしな」
ケイさんがそう教えてくれてほっと一安心。ヨミが「いいの? だめなの?」みたいな顔をしててかしこい。
「ごめんね。遊んでいいよ」
「ワフン」
嬉しそうにパシャパシャし始めるヨミ。チョコもケイさんも隣で同じように手で水面をパシャパシャして気持ちよさそう。私もと思ったところで、あっと思い出したことが。
「どうしたの?」
「水の精霊も長旅で疲れてるかなって」
腰に吊るした革袋から精霊石を取り出して水につけると、ぶわーっと噴水のように水柱があがる。えーっと、喜んでくれてるでいいんだよね?
「水芸」
「駄女神」
宴会芸スキルはどこ?
この世界はスキルとかステータスがある異世界じゃなかったっけ。あったらあったで自分のステータスとかスキルを見たい気がする。いや、それがしょぼかったら絶望しそうだからやっぱいいや。
「ほう、翔子の実家におった水の精霊は元気が良いのう」
「そうなんです?」
「そこまで威勢の良い水柱は珍しいぞ」
そう言って水柱の上まで飛んでいくと、水飛沫と戯れるフェリア様。うーん、喋らなきゃすごくファンタジーなんだけどな、この人。
「さて、そろそろ戻ろうか」
「「はーい」」
精霊石を持ち上げると、なんだか人型っぽい形の水がぺこりと頭を下げてから中へと戻っていく。ウンディーネだったっけ。そういう感じになれるのかな?
「どうしました?」
なんだかぽかーんとした顔のフェリア様。
「いや、
「あー、まあ、神様が八百万いるらしいですしね」
***
「さて、今日はいよいよ竜の都に入る」
朝食を終えてお茶タイム。今日の予定を改めて。
ケイさんの面持ちが今まで以上に真面目で私たちも気を引き締める。んだけど……
「テイルゲートを出たところにシルバリオが迎えに来ると思うがの」
私の右肩でお気楽にそんなことを言うフェリア様のせいで緊張感が一気にダウン。ケイさんも思わず苦笑い。
「はーい、シルバリオさん? どういう方なんでしょう?」
「ルナリアの執事だな。齢、三千は超える銀竜の長よ」
「「おおお……」」
そんなすごい人が迎えに来てくれるんだ。ちょっとテンション上がってきたけど、粗相しないように気をつけないと。
「ま、シルバリオは温和で優しい竜じゃからの。しっかり挨拶だけできれば良い」
……ホントにすぐ台無しにするのやめてもらえませんかね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます