97. 翔子と賢者不在
「ふむ、良かろう」
ケイさんが代筆した手紙、親書かな? それをチェックし終えたフェリア様が頷く。
そして何か魔法を唱えたかと思うと、紙の右下に手をあてた。そこに浮かび上がったのはさまざまな花が緻密に描き込まれた紋章。
「「おおー!」」
「ふふん、すごかろう?」
腕を組んで鼻息ふんすなフェリア様。でも、これはドヤっていいと思います。日本も昔は書状にこういうの書いたんだっけ。花押とかいう奴だった記憶がある。
「伊達政宗のあれ思い出す」
「
で、フェリア様の目が「何の話だ?」ってなってて気まずい。歴史トークもほどほどにしないと。そもそも作り話らしいし?
不審がってるフェリア様をよそに、手紙を封筒にしまい、魔法で封蝋するディオラさん。なるほど、カスタマーサポートさんもそうやってたのね。
「では、送っておくかの」
《起動》《転送》
フェリア様の魔法で一瞬にして消える。
「「おおー!」」
「ふふん」
またドヤ顔するフェリア様。
魔導具で転送ができるわけだし、魔法でできても不思議じゃないんだけど、実際に目の前で見ると感動する。これができれば田舎でもネット注文した物がすぐ届きそうなのに……
そんな考えを見透かされたのか、
「転送魔法は危険な使い方をされかねないから許可制よ」
とディオラさん。そいや、転移魔法陣をもらった時もそうだったっけ。変なものが急に送られてくるとか考えると確かに……
「その上で、転送先は君たちが見たことがあるような箱や、誰もいない部屋というのが一般的だな」
「そもそも、信頼しとる相手にしか転送先は教えんのだがな」
つまり、そのルナリア様に信頼されてるフェリア様だから転送できる、と。
きっとそのルナリア様も苦労してるんだろうなー……
「おい、
「「イエ、ナンデモナイデス」」
知らんぷりしとこう。そうしよう。
それはいいとして、もう一つ気になることがあるんだよね。
「ところで『森の賢者』ロゼ様はいらっしゃらないんです?」
うんうん、それそれ。
確か『どんと構えてるお仕事』のはずなんだし、反対側の部屋にいるなら顔を見せてくれても良さそうな気が。それとも顔も出せない理由があるのかな。
「それよ。ロゼはどうした?」
フェリア様も不思議そうだし、ケイさんも知らないのかディオラさんの方を見る。
「ロゼ様は転移した地下の情報を共有するために、ラシャードとウォルーストへ行かれたわ」
えーっと、ラシャードがここリュケリオンから南西にある商業国家で、ウォルーストは北西にある大国だっけ。どっちもパルテームとはほとんど関係ない国だったと思うけど、例の地下転移の影響はあったのね。
「ほう。ロゼが動かねばならんほどのことが?」
「二人がそちらの世界で異変があった場所をミシャに伝えてくれたでしょう?」
「あ、はい。地理的にも似たような感じだったので。私たちの世界で異変があった場所はこの世界でも何か起きてるんじゃないかっていう話を。あくまで推測ですが」
「どうやらその推測は間違っていないようなの。けど、それを調べ尽くすには人が足りないのよね……」
そう言って頬杖をつくディオラさん。
まだ空から見ただけの印象だけど、人口は日本の半分、いや四分の一もないかも? 科学技術は無く、その代わりになる魔法も一般的って感じでもなさそうだし手間もかかるよね。
「それぞれの国で調査をしてもらおうと言うことか?」
「いえ、そこまでは望まないって。別に言わなくてもいいんでしょうけど、言っておいてどうするかは任せる方が後々揉めないからって話ね」
確かにそうかな。なんか大変なことが起きてから「あー、そこかー。それ知ってたんだけどねー」って言われたらキレるよね。何事もないかもしれないけど、報告はしといたほうがいいと私も思う。
「なるほど。二人とも律儀よの」
フェリア様……
うんうん頷いてるのはいいんですけど、あなたもその仕事しなきゃいけない人ですからね?
さっさと古代魔導具を借りて戻ってこないと、ディオラさんが倒れちゃうよ……
***
「え? 屋上あったんですか、ここ?」
「ああ、ほぼロゼ様専用だがな」
フェリア様の部屋で一泊させてもらい、しっかりと休息を取った翌日。朝ご飯もしっかり食べていざ出発。
私もチョコも街を出てから飛び立つんだと思ってたけど、この魔術士の塔の屋上から離陸できるらしい。下からは見えなかったし、こっちに飛んできた時も全然気にして無かったんだよね。
「ケイさんは使わないんです?」
「私は『白銀の館』のラシャードのギルドマスター。滅多なことでこの塔には来ないからな」
そう笑うケイさん。つまり、今回はその滅多なことってことで、ホントありがとうございます。
じゃ、さっそくエレベーターで屋上にって感じなんだけど、フェリア様がまだ来ない。ディオラさんも見送りに来てくれると思うんだけど居ないし。ちょっとそわそわ……、いつでもキョロキョロはしないけど。
「慌てる必要はない。二人なら昼の四の鐘までには着けるだろう」
シルキーさん(姉)が入れてくれたお茶を飲みつつ待つことしばし。やっとフェリア様とディオラさんが現れた。
「うう、眠いのう……」
「ごめんなさいね。どうしてもフェリア様の認可がいる書類があって」
「いえいえ、ケイさんの話でも慌てる必要はないそうですし」
なるほど、お仕事サボってた分を突貫でやらせてたのね。
私たちは夕飯をいただいた後はおしゃべりもそこそこに早寝したけど、フェリア様は残業中だったと。ま、どうせ今日もバスケットの中で寝てるんだしいいんじゃないかな。
「フェリア様。寝てていいので中へどうぞ」
「うむ、うむ……」
ふらふらしつつも小座布団はしっかり回収してバスケットへと潜り込むフェリア様。
結局、『森の賢者』ロゼ様とは会えずじまいだったなあ。『白銀の乙女たち』に登場するヒロイン全員に会えるかなと思ってたからちょっと残念。いや、帰りにワンチャンあるかも。
エレベーターで最上階のさらに上、屋上へと出ると、まだまだ登ったばかりの太陽が眩しい。
「それじゃ気をつけてね。ケイ、申し訳ないけどフェリア様のこと頼むわね」
「ああ、任せてくれ」
ガッチリと握手する二人。なんかかっこいいなあ。っと、そろそろ……
「ヨミ〜」
「ワフン」
バスケットを開け、ぐーすか寝ているフェリア様をそっと避けて収まるヨミ。かしこかわいい。
「さて、行こうか」
「「はい!」」
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