96. 翔子とディオラ
「ほれ、そこに座ると良い」
そう促された先にはローテーブルにソファー。三人掛けぐらいの長いのに私とチョコが座り、対面の同じものにケイさんとディオラさん。ヨミは私の膝上を占拠中。
お誕生日席の一人掛けはフェリア様には大きすぎるのではと思ったら、バスケットから小座布団を持ってきて、それを置いてから座る。随分とお気に入りですね、それ……
「失礼いたします」
急に声が掛かって振り向くとそこには森の館で見たシルキーさん!? え、どうやってきたの? 転移できて先回り?
「彼女は森の館にいたシルキーの姉だ」
「そ、そうなんですね。ビックリした……」
驚いてる私たちにケイさんがフォローを入れてくれる。
その様子に動じることもなく、シルキーさん(姉)がお茶の入ったカップをローテーブルに並べていく。
「すまぬの」
言葉だけ聞いてる分にはフェリア様も偉い人っぽいんだけどなあ。声を掛けられたシルキーさん(姉)が微笑んで一礼し、奥へと消える。
「さて、大まかな事情はミシャから聞いているのだけど、竜の都まで行くつもりなのよね?」
「あ、はい。魔素だけを回収できる魔導具があると聞きまして」
そう説明するとディオラさんがフェリア様を見る。そんなものが本当にあるの? みたいな感じの表情に一抹の不安を覚えるんだけど。
「ミシャの話ではルナリアのところにあるとのことだからの。間違いなかろう」
その答えに納得した感じのディオラさん。
「ディオラ。すまないがルナリア様から物を借りてくるまでは」
「ええ、いいわよ。ただし、帰りには必ず寄ってちょうだいね。またフェリア様に向こうに行かれたら困るわ」
「え? いや、我は翔子らを向こうの世界に送り届け……」
そこまで言ったところで、ディオラさんの圧のある笑顔が。ビクッとなったフェリア様はその続きを言うこともできず、そっぽを向く。さっき怒られたのに全然懲りてない……
「明日にはもう向かうの?」
「ああ、そのつもりだ。ウォルーストの北、ドワーフ自治区まで飛ぶつもりだ」
「飛ぶってことは……二人も飛べるのね?」
「「はい」」
その返事に苦笑するディオラさん。えーっと?
「翔子ちゃんの方は飛行魔法かしら?」
「はい。えっと、このペンダントをもらって」
ヨミを撫でていた手をとめ、掛けているペンダントを取り出す。それを見て納得したのか目線がチョコの方へ。
「えーっと私は」
「チョコよ。見せてやれば良いのだ」
「了解です」
座ったままでも不可能ではないんだろうけど、念のため席を立ち、ソファーの後ろへと回るチョコ。そして、
「じゃ、えーっと『天空の白銀』」
ケイさんそっくりの天空タイプに換装し、白い翼も出してブワッと広げてから折り畳む。
あの翼、折り畳んでても結構ボリュームがあるからソファーとか座りにくそうなんだよね。ケイさんはどうしてるんだろうと見てみると……全然普通に座ってた。
で、隣のディオラさんがポカーンって顔をしててですね。そこまで驚くことかな? マルリーさん、サーラさん、ケイさんの三人はそこまで驚かなかったと思う。
「ディオラさん?」
「あ、ええ、ごめんなさいね。ちょっと、いえ、かなり驚いたわ」
「ふふん、まだまだミシャへの理解が足りぬな」
またなぜか得意げなフェリア様。
でも、チョコが白銀の乙女モチーフなのは本人の許可を得てたんだよね? マルリーさんが言ってたような。
「チョコが魔導人形、古代魔導具だっていうのは聞いてらしたんですよね? 白銀の乙女になれるってことも」
「え、ええ、一応ね。でも、実物を見たのは初めてよ。っていうか、ケイは驚かなかったの?」
「ミシャに聞いていたからな。それより翔子くんのローブがヨーコの物とそっくりだったのに驚いた」
落ち着いて答えるとお茶を一口。ケイさんもブレない人だね……
そんなケイさんを見て、ディオラさんは大きく一つため息を。結果的に一番常識がある人になっちゃって苦労してる感じ。上司がこの
「それで、マルリーやサーラにもなれるのね?」
「せっかくなのでディオラになって貰えば良い。『異端の白銀』だったかの?」
「やめて! 昔の自分なんて恥ずかしい!」
両手で顔を覆うディオラさん。ちょっと可愛いし、なんていうかこう……
「じゃ、『異端の白銀』」
チョコわかってる〜。ヨーコさんもディオラさんを構い倒して懐柔した感じだったよね。
薄緑に白のストライプが入ったローブに
「ふむ、懐かしいの」
「この頃のディオラはロゼ様に食ってかかったりしていたな」
うんうん、前半はツンキャラで、後半がデレキャラっていう、エルフの理想的なツンデレキャラでしたね。
そのディオラさん、両手で顔を覆っているものの、ちらっと指の隙間からチョコを見て……
「無理! 勘弁して!」
「あ、はい。じゃ、『不可視の白銀』」
やりすぎは良くないよねってことで、チョコが元の不可視タイプ、サーラさんの格好に戻った。
それをまた指の隙間から確認して、ほっと手を下ろすディオラさん。チョコももういいかなとソファーに戻ってきて座る。
「はあ、わかったわ。それにしても急ぐのね」
「ああ、向こうの世界では魔素のせいでオークの群れを駆逐できないらしい。急いだ方がいいだろう」
「了解よ。それでルナリア様にはいつ到着なのか伝えてあるの?」
なんだか今後の予定を話してるんだけど『ルナリア様』が良くわからない。前にフェリア様が遊びに言ってたとかどうとかそんな記憶。話の流れ的には竜の都の人、いやドラゴンなんだろうと思うけど。
「ミシャから話は通っておるようだが、いつかまでは伝わっておらんだろう。ケイ、ディオラ、すまんが代筆を頼めるか」
「わかりました」
ケイさんがそう答え、ディオラさんは席を立って筆記用具と便箋を取りに行った感じ?
「ところでその『ルナリア様』って?」
「別名『白竜姫』と呼ばれる竜族のトップ。ま、我の悪友でもあるがの」
「「は?」」
竜族の一番偉い人ってことだよね? フェリア様、そんなお方と友達なの? いや、悪友っていうのがまた不安なんですけど?
「心配しなくても優しいお方だ。だが粗相の無いようにな。機嫌を損ねると古代魔導具の話も無しになりかねない」
うわぁ、今さらながら緊張してきた。
サーラさんが『フェリア様のお友だち』とか言ってたから、ちょっとお使いに出るくらいのつもりだったのに、いきなり向こうの社長相手に商談まとめてこいみたいになってるんだけど……
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