95. 翔子と魔術士の塔

「「おおー」」


 お登りさん丸出しでキョロキョロとあちこちを見てしまう私たち。

 ノティアを出発し、ベルグ王都を横目にゲーティアという国境の街を超え、街道を行った先にこの魔導都市リュケリオンがある。

 この都市=国家だそうで、それを聞いた時に『バチカン市国』を思い出したり。やっぱり賢者を決めるときは根くらべするのかな。


「フェリア様。もうすぐギルド本部が見えてきますよ」


「まだ良い。中に我の部屋があるゆえ、それまでは隠れておる」


 ……

 今すぐここで「この賢者様、密入国者です!」と叫びたい。なんで自分の国に隠れて入るのか? まあ、出る時に隠れて出てきたんだろうけど!


 リュケリオンに直接降りたわけではなく、ほどほどに離れた場所に降り立った。飛べる人も魔術士は珍しいので騒ぎにならないようにということらしい。

 そんなわけで、そこからはまったり散歩気分で街まで来たんだけど、フェリア様は「見つかると面倒なので隠れておくのでな」と。


 結局、入国審査みたいなのでも私たちがギルドカードを出して終わりだった。そりゃバスケットに賢者様が隠れてるとは思わないよね。あとケイさんが有名人なせいか審査も気持ち緩め? ちゃんとギルドカードは二人とも見せて、ヨミのタグも見せたんだけど、魔素認証はなしだったし。


「ここから先が魔術士街だ」


 ケイさんが開かれたままの大きな門を潜る。

 昔はここでもう一回審査があったんだとか。ここから先が魔術士しか入れない区域だったそうで、その身分チェックがあったらしい。


 そのまま大通りをまっすぐ進んで賢者の塔に到着。

 結構人通りが多くて賑わってるんだけど、やっぱりケイさんが見られてるね。翼人よくじん族が珍しいのかケイさんが有名人なのか。

 チョコは一番身軽な不可視タイプ、サーラさんの装備に換装してるので普通の冒険者っぽい。こっちでは傭兵っていうのが一般的らしいけど。私とヨミは魔術士と使い魔と思われてる感じかな?


「真下で見るとホントすごいねー」


「だねー」


 ほぼ真上を見るこの感じ。スカイツリー以来かも? おっと、ケイさんが先に行っちゃう。

 大きく開かれた入口を潜るとそこはお役所っぽい空間。受付? 案内所? 綺麗なお姉さんが座ってるのはお高いデパートっぽい感じも。

 受付嬢に連絡してディオラさんに来てもらうのかな?


「ケイ」


「ディオラ。ちょうど良かった」


 呼びかけられた先にはエルフの美人さん。ディアナさんとよく似てるけど、種族的にこういう感じなのかな。他のエルフさんを見ないとなんとも。


「その子たちがそうね」


「ああ」


「落ち着いて話せる場所に移動しましょう」


 ディオラさんが少し周りを見回すと、仕事の手を止めて私たち、いや、ケイさんとディオラさんを眺めていた人たちが慌てて仕事に戻る。

 確か高等魔術士だっけ? リュケリオンで賢者の次に偉い人らしいので珍しいし怖いしだよね。


「こっちよ」


 挨拶は落ち着いてからかな。ともかくディオラさんの後をついていくと……エレベーター? 確かに徒歩で階段を登っていくには階数がありすぎる建物だけど……

 ディオラさんが横にあるボタンを押して待つことしばし、音も無くドアが左右に開く。


「ここから転送されて上へ行くのよ」


 不思議そうにしてるディオラさんが優しく教えてくれたけどそうじゃないんです! 転送って言葉も気になるけど!


『ご利用ありがとうございます。行き先階ボタンを押してください』


 は? 完全にエレベーターなんですけど? いろいろと混乱してると体が浮いたような気がして、でも次の瞬間には元通りに。


『二十九階です』


 ……同じような用途のものができたら、アナウンスも同じようになる?

 扉が開き、ディオラさん、ケイさんと続くので私たちも。この出た場所も完全にエレベーターホールっぽい。


「さて、いろいろ聞く前に」


 ディオラさんが振り返って私たちを見る目線がやや下に。チョコが持っているバスケットに注がれ……スッとそれを差し出すチョコ。

 よく出来ましたというニッコリ笑顔でそれを受け取ると、おもむろにそれを手を突っ込んで……


「ふぎゃっ!」


「フェ〜リ〜ア〜さ〜ま〜?」


「お、おう。ディオラよ、久しい、な……」


 握られたまま思いっきり目を逸らして答えるフェリア様なんだけど、怒られる理由がいまいちよくわからない。

 チョコと二人して疑問符を浮かべているとケイさんが察して助け舟を出してくれる。


「ディオラ。二人に説明を」


「ああ、ごめんなさいね。この人、ミシャから許可をもらったからとだけ書き置いて出て行ったのよ。しかもそれをミシャに聞いたら『ディオラさんから許可をもらったって聞いたから、私もオッケーしたんですけど』って言われたわ」


「「うわぁ……」」


「ワフ……」


 計画的犯行ってやつじゃないですかー、やだー。ヨミまで呆れてるよ?


「何も嘘は言っておらんぞ? ミシャに許可をもらったのは確かだからの!」


「それを詭弁っていうんです!」


「わ、わかった! 我が悪かった!」


 やっと真面目に謝ったことで、ディオラさんも手を離し、フェリア様は慌てて私の右肩へと飛んでくる。なんかぶつぶつ文句を言ってるけど聞かない方が良さそう。


「さて、改めて自己紹介するわね。魔導都市リュケリオンで高等魔術士をしているディオラよ」


「えーっと、翔子です」


「チョコです」


 さっきとは打って変わって優しく微笑み、私たちと握手してくれるディオラさん。『白銀の乙女たち』では、前半は神経質な魔術士って感じだったけど、後半は他メンバーに振り回される常識人だった。

 今はその後半のイメージがさらに丸くなった風? まあ、この人が上司だと苦労するよねとは思う……


「こっちに来た理由はミシャから聞いているわ。今日はここで一泊してゆっくりしてちょうだい」


「うむうむ。我の部屋が良かろう。場所は余っておるので、翔子もチョコもくつろぐと良いぞ」


「ワフッ!」


「おお、もちろんヨミもな」


 ホールの右側へと飛んでいくフェリア様に続く。

 こっち側がフェリア様の部屋ってことは反対側ってひょっとして?


「反対側は『空の賢者』ミシャ様の部屋ですか?」


「いや、反対側はロゼ様の部屋だ」


 そうチョコに答えてくれるケイさん。ロゼ様は『森の賢者』の方で『白銀の乙女たち』をまとめ上げた司令官ポジだったはず。本人が最終決戦兵器ビッグワン的な。

 じゃ、最上階がミシャ様の部屋? とか思ってたら、それを察したのかフェリア様が続ける。


「ミシャは賢者と呼ばれておるがリュケリオンには属しておらんのだ。議会の席も最上階も譲ってやろうというのに……」


 そうなんだ。いや、確か前に『ベルグにある邸宅』とかディアナさんが言ってたっけ。チョコにだけど。

 あと、フェリア様がミシャ様を呼びたいのって、自分が楽したいからですよね?

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