87. 翔子と出発
フェリア様の二度目の詠唱は樹の精霊へのお願い。
しばらくすると、ディアナさんの時と同じように
「いいぞー、はよ来い!」
そう
ヨミが気になるのか覗きに行ったので、私もその後ろにしゃがんで目をこらす。んー……来た!
「はいー、マルリーですー」
心の中で「十七歳ですー」「おいおい」をワンセットやって心を落ち着ける。
チョコがすっと手を伸ばしてマルリーさんを引き起こすと、『永遠の白銀』姉妹って感じで絵になるなあ。おっと、こういう時こそ写真撮らなきゃ!
「マルリー、向こうはどうだったの?」
「私が必要なお仕事は終わりましたよー。あとはミシャさんたちが頑張ってくれるでしょー」
「おけおけ。じゃ、こっちに専念できそうね」
ミシャさんって『空の賢者』様だよね。ディアナさんは来れてないみたいだし、まだそっちに一緒にいるのかな。
「翔子君、こっちの状況をマルリー殿に」
「あ、そうですね」
智沙さんから説明してもらってもいいと思うんだけど、業務の引き継ぎは当人同士がやるべきと教わりました。ということで、簡単だけど埼玉の陥没で現れた廃鉱の件について説明を。
「なるほど、やっぱりあそこでしたかー。それでー、オーク以外は見ていないんですねー?」
「はい」
一応、サーラさんにも……間違いないと頷いてくれたので大丈夫かな。
この前の救出作戦で三十体ほど倒したけど、それで終わりかどうかはわからないし、何よりまだまだ続いてたからね。
「お二人はもしこの国で対応できない事態になった場合にお願いします。どういう対応をするかは、館長さんが決めますが、現場では智沙さんが」
「ああ、任せてくれ。二人ともよろしく頼む」
「はいー、頑張りますよー」
「ま、私たち二人に任せといて」
うんうん、この二人がいて智沙さんがいるなら大丈夫でしょ。
そもそも変な問題が起きなければ、二人にはゆっくりしてもらうだけだし。
「そろそろ良いか。ケイが待っておるだろう」
「「あ、そうでした」」
二人して頷き、いざ向こうの世界へ。
フェリア様が精霊魔法を唱え、
「よし、では行こうかの」
「「はーい」」
「早く帰ってきてくださいね」
「無理はしないようにな」
美琴さん、智沙さんがやっぱりまだ心配そうな顔をしてるけど、私たちができることをするだけ。無茶をするつもりは初めからないし、できるだけ早く帰ってくるつもりだし。
「ワフ?」
「うん。じゃ、「いってきます」」
***
次元の細いトンネルを抜けると異世界であった。
そんなギャグを思いつきつつも、しばらくの間はそれが通じるのってチョコだけだし、自重しないとね。
私とチョコは四つん這いだけど、ヨミやフェリア様はいつも通りのスピードで先へ進んで行ってしまう。ここで閉じ込められたらシャレにならないんだけど、とか思っているうちに、
「ほれ、もうすぐだぞ」
そう聞こえて頭を上げると外の明るさで光る出口が見えた。
慣れない運動で疲れるっていうか、姿勢を強制されてる方が辛いのでスピードを上げて出口を目指す。
明るいだけだった出口に景色が見え始め、やっぱり同じような感じなんだなーって思っているうちに到着。
「はー、結構大変だった」
「翔子、はよ出ちゃって!」
チョコにお尻をぐいっと押されて全身が
「大丈夫か?」
「あ、はい。ありがとうございます」
その手を取って立ち上がると、目の前にいたのはすっごいイケメン……もといイケジョ。
この人が『天空の白銀』ケイさんですね。ええ、背中に灰色の羽があって、もうこれ天使様とかじゃないんでしょうか?
『慈愛の白銀』ヨーコさんが「彼氏にしたいナンバーワン」とか言ってたけど、そりゃそうだよね。ナンパされたらホイホイついて……次元の向こうから美琴さんの圧が来た感じなのでやめよう。それ以上いけない。
「君がチョコ君か。……確かにマルリーと同じ装備だな」
ついでチョコの手を取って引き起こし、その姿を上から下まで眺めて驚いた様子。実際、マルリーさんにそっくりだもんねえ。
「チョコよ。あれを試しておくのだ。ケイもおることだし『天空の白銀』で良かろう」
「あ、はい。じゃ、えーっと……『天空の白銀』」
怒られないかな? って気になるよね。少し躊躇したけど、今試しておかないとってことで、タイプ変更の言葉を発するチョコ。その言葉とともに、チョコの装備が目の前のケイさんと同じになった。
「ほう、すごいな。翼がないようだが?」
「あ、出せます」
背中からブワッと白い翼を生やすチョコ。色が違うのは、ちょっとしたオリジナル要素って感じなのかな?
「ふむ、そっくりだな。少しじっとしていてくれ」
「は、はい」
ケイさんが左右に後方とあちこちからチョコを眺め、ふむふむと納得している。見られてるチョコはなんかモジモジ。まあ、居心地が良くないだろうなあとは思うけど。
「ま、無事、装備変更ができたようで良かったの」
「ですね。って、古代魔導具を借りにいくだけですし、そんな困らないと思うんですけど」
「だが、できないよりは良かろう」
うーん、それは確かに。なんか、フェリア様がフラグを立ててそうなんだよね。
「チョコ君、飛べるか?」
「あ、はい」
一通りチョコを確認したケイさん。次は性能テストかな?
軽く浮いたチョコが翼でひと仰ぎしてすいーっと部屋を一周して戻ってくる。地下の訓練所で練習してたし、その辺りは抜かりなし。
「ふむ。これなら明日は一気にノティアまで行けそうだな」
とケイさん。あー、移動に時間がかかるのを飛んで行くことで短縮しようっていう……待って?
「すいません。私、飛べないんですけど」
「ああ、翔子くんにはこれを」
手渡されたのは青い石がついたペンダント。えーっと、これをつけると飛べるようになる? はっ、もしかして飛行石? それを受け取ったところで、さらに二つ折りの紙を渡された。
「ミシャ曰く、飛行魔法についてだそうだ」
「「おお!」」
例によって取説なのかな? 受け取ったそれを開いてみると、取説っていうよりは走り書きというかなんというか……最低限のことしか書いてない感じ。
とりあえずペンダントをつけて試してみないと。『我を助けよ、光よ蘇れ』……じゃなかった『起動します』っと。
「こうかな?」
《起動》《飛行》
「うわっ?」
体から重さが消えた!
で、『スラスターを操作して姿勢制御が可能です』か。ハリアーみたいな感じかな。
いきなり吹かすと天井に頭をぶつけそうだから慎重に……
「おおー」
ゆっくりと浮き上がったので、スラスターを水平にしてすいーっと……何これ! めっちゃ楽しい!
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