86. 翔子と準備

 私とチョコが向こうの世界に古代魔導具を借りにいくことに決まったんだけど、じゃあすぐにってわけにもいかないわけで、神樹を潜った先まで迎えに来てもらう日時の調整をしつつ準備を進めることに。

 とはいえ、何を準備すべきかわからないので、サーラさんたちがいる部屋にお邪魔します。


「準備しなきゃいけないことって何かあります?」


「とりあえず、そのよくわからない服はどうにかした方がいいと思うよ?」


 サーラさんが呆れた顔でそう教えてくれる。

 えー、ジャージって最高だと思うんだけど。


「翔子、そういうことじゃないからね?」


「わかってるって。でも、どうしようかな。向こうっぽい服とかネットショップでも探す?」


「うーん、天然素材の服ならいいのかな。絹は贅沢品だろうし麻とか?」


 頭の中でのイメージがだんだん『お墓の侵入者』っぽい感じになっていって、やっぱりノースリーブにホットパンツがいいんだろうかとか……


「翔子さん。似合いそうな服を買ってきましたから」


「「へっ?」」


 急に現れた美琴さんは紙袋を両手いっぱいに抱えていて服なんだとは思うけど、それって向こうに行けそうなやつなのかな?


「えーっと、向こうっぽい服じゃないと」


「大丈夫ですよ。私、チョコさんが最初に着ていた服を見せてもらったじゃないですか」


 そういえばそうでした。チョコのクローゼットに入ってた服とか見てたもんね。

 ん? ということは、


「私、転移魔法陣で魔導人形部屋に戻って取ってこようか?」


 魔晶石に魔素を補充したので、どっちもまだ一つしか消費してないし、今から行って帰ってきてもらっても一回分はある計算。


「大丈夫ですよ。それに下着なんかは枚数が足りないじゃないですか」


「あ、うん、はい」


「さあ、部屋に戻ってサイズ合ってるか確認しましょう」


 強引に腕を取られて引っ張られる私。

 チョコも『これは逆らっては行けないやつ』とわかってるみたいで、大人しく後ろをついてくる。

 サーラさんがニコニコしながら見送ってくれ、フェリア様はいびきがうるさかった。


***


 結局、持っていく服はかなり厳選し、その分は下着多めにした感じ。見えない部分だし化学繊維が多少混じってても許してもらおう。上着はそんなに換えを持ってないのが一般的らしいし。

 美琴さんが不満げだったけど、こっちでも着れるコーデっぽいので「戻ってきたら着るようにします」と約束して折れてもらった。


「忘れ物ないです? ハンカチは持ちました?」


「はい、はい。持ってます」


 二人分の服は革製のバックパックに。綿のハンカチはそのサイドにあるポケットに収まっている。

 このバックパックも革だから高くついてそうな感じだけど、美琴さんが経費で落としまくっていたので気にしない方向で。


「装備はそれで良いのか?」


「「はい」」


 私はいつものように『慈愛』のローブに魔導拳銃、予備の弾倉。チョコは『永遠の白銀』タイプに換装していて、白銀の鎧に大盾ラージシールド長剣ロングソードのメイン盾に。


「向こうへ出たところで、まずはチョコが確認しないとね」


「うん。大丈夫だといいけど」


 樹洞うろを潜って向こうの世界に行くと、こっちの世界に置いてある『白銀の乙女たち』の武装に換装できるの? っていう問題に後から気づいた。

 フェリア様に聞いて見たら「まあ、大丈夫だと思うがの」とだけ。あのクローゼットの転送の引き出しが機能しているんだし、チョコという古代魔導具ならできて当然という見解。


 あっちの世界に行くことを決めてから一週間が経ち、向こうの準備も整って今日がその日。

 向こうに行く私、チョコ、ヨミにフェリア様だけでなく、美琴さん、智沙さん、サーラさんも一緒に都内のダンジョンを降りてきた。


「む、見えてきたな」


 智沙さんがちょっと懐かしそうに見つめる先に神樹が現れる。相変わらず大きくて神秘的なんだけど、壁に埋まって半分になってしまってるのが不思議な感じ。


 約束の時間まではあと十五分ぐらいある感じかな?

 午前中に神樹の向こう側に行って、そこからダンジョンを外に出て、さらに移動しないといけないということでかなり早めに出てきた。


「ワフッ!」


 朝の散歩ができなかったヨミがダッシュして駆けていく。

 チョコがそれを追いかけて走って行き、私たちはそれを眺めつつ神樹の根元に腰を下ろす。


「今日、向こうに来るのはマルリーさんとケイさんですよね。神樹の樹洞うろを広げるのはやっぱりフェリア様?」


「うむ。ディアナほど長くはできんので、一度目はマルリーを来させるだけになるな」


 フェリア様は体が小さい分、魔素の出力も控えめだとかいう話だったよね。

 それを言うと怒られそうなので、ディアナさんがすごいということにしておこう。


「なるほど。じゃ、ちょっとマルリーさんと話す時間はあるかな」


「何か質問でもあるのか?」


「あ、いえ、写真撮っておきたいなって」


 サーラさんとは撮ったけど、マルリーさんとは撮らずに、っていうか忘れちゃってたので、今度はちゃんとね。


「ワフン」


 あちこち走り回ったヨミが私の方へ駆け寄ってきて膝に鎮座する。そこが落ち着く定位置っぽい。

 で、美琴さんや智沙さんが、私とチョコに向こうで変に目立たないように気をつけるようにと念を押してくる。


「ナンパされてもついてっちゃダメですからね? あと、ナンパしないように。約束ですよ?」


 うん、まあ、異論もないので約束したけど、私の方からナンパすることはないと思うんだけど。


「フェリア様、そろそろじゃない?」


 サーラさんが立ち上がり、グッとひとつ伸びをしてからそう告げる。

 ちょっと緊張してきたかな。でも、まず先にマルリーさんがこっちに来るんだよね。


「ふむ。では始めるかの」


 フェリア様が樹洞うろの方へと飛んでいき、私たちも立ち上がって神樹へと向かい合う。

 ぶつぶつという感じの詠唱が終わると、フェリア様が次元の向こう側へと呼びかける。


「おーい、マルリーはもうおるのか?」


「はいー、いますよー。ケイもいますー」


 マルリーさんのおっとりとした声は安心感があって好き。理想の姉って感じなんだよね。


樹洞うろを開けたら、まずはマルリーがくるのだ。その後、もう一度開け直すので、それまでケイは待っておれ」


「はいー」


「了解です」


 お? 今の声がケイさんかな? 『白銀の乙女たち』ではかなりカッコいい感じ書かれてたけど、声もそんな感じがする。

 普段から羽っていうか翼があるらしいけど、寝るときはやっぱり常に横向きなのかな……

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