天空と異端と白竜の姫

85. 翔子と決断

 カスタマーサポートさんに昨日の埼玉の件を説明し、「魔素を吸引回収するような魔導具ないですか?」って手紙を送った。

 そういえば、こっちが夏休みに入るので、次のレポート提出はお盆明けになりますって書いて送ったら「ゆっくり夏休み満喫してください」みたいな返事が来てたことを思い出す。

 当人は大変そうなダンジョンの調査をするってことで、ディアナさんとマルリーさんを呼び戻してお仕事中なのかな。厄介な相談を送っちゃった気もするけど……


「翔子さん、手紙の返事が来ました」


 チョコ、智沙さん、サーラさんは例によってトレーニング室で訓練中。私はフェリア様とヨミを連れて庭の散歩を楽しんでたんだけど、ちょうど戻ってきたところで美琴さんに捕まった。


「じゃ、みんなで智沙さんの部屋かな」


「いえ、それが館長に宛てた手紙でして、その判断に従って欲しいと封筒に」


 ありゃ。やっぱり古代魔導具の貸し出しってなると、いろいろと問題が大きくなるのかな。だからって、カスタマーサポートさんは変な要求とかしてこない人だと思うけど……


「ねえ、フェリア様。やっぱり古代魔導具の貸し出しって大ごとなんです?」


「うむ。よっぽどのことがない限り、竜族以外の手に渡ることはない故の。だが、安心せよ。我が頼めば嫌とも言えまい」


 腕組みしてちょっと得意気なフェリア様。

 なんか、頼むときはうんうん唸ってたけど吹っ切れたのかな?


「終わったよー。連絡来たの?」


 サーラさんが軽い足取りで戻ってきて、後ろには息を切らせてるチョコと智沙さん。

 でもまあ、上達してるのか前ほど一方的に翻弄されてる風でも無かったよね。


「はい。館長も交えてになりますので、皆さんシャワーを浴びてきてもらえます?」


 美琴さんからの圧に三人が慌てて別室のお風呂の方へ走っていく。


「館長さん、もう待ってるの?」


「いえ、三十分後ですよ?」


 ニッコリ美琴さん。そうだと思った。


***


「わりぃ、待たせたな!」


 いつもの本邸応接室。

 まったりとお茶しつつだったので、待ってたっていう感じもあまりせず。


「ワフ〜」


「よ〜し、よしよ〜し〜」


 ヨミが駆けて行ってひとしきり撫でられまくった後に、私へと渡されるところまでがワンセット。

 いつもの椅子にどっかりと腰を下ろしたところで、美琴さんから手紙が渡される。


「お昼に届いたものです。まず館長が読んで欲しいと」


「おう」


 それを手に取ってそっと封蝋を割り、優しく中身を取り出すと、三つ折りにされた中身を開いてじっくりと読む。

 二枚あるそれを読み終えた館長さんは、一つ大きくため息をついてこう切り出す。


「翔子ちゃん、チョコちゃん、向こうへ取りに行けばその古代魔導具とやらを借りれるだろうって話だがどうする?」


 ああ、うん、そうですね。稀少な古代魔導具を借りたいから持ってこいはないよね。

 白銀の館で持ってるならまだしも、竜族、ドラゴンから借りるわけだし、そりゃ取りに行って貸してくださいって言わないとだよね。


 チョコと目が合って、お互い頷く。


「「行きます」」


 その答えに館長さんが心配そうな顔をする。


「本当にいいのか? どんなとこかも全然わかんねーんだぞ?」


「それはまあ、私にとっては日本以外は全部一緒ですし」


 海外旅行? 四国ならいったことあります。あ、その前に淡路島?

 向こうは魔物が出るから危険って話もわかるけど、魔法が使えてチョコがいてヨミもいれば、ヨハネスブルグよりは安全だと思う。


「私も行きます!」


「私も同行する」


 美琴さんと智沙さんがそう言ってくれるのはいいんだけど、智沙さんのセリフがですね……○○院!? いやいや、そんなとこに反応してる場合じゃないんだって。


「それはダメだ」


 と館長さん。反論しようとする二人を制して続ける。


「まず、美琴。おめーは確実に足手まといになる。それにこっちにある箱を開けられんのはおめーだけだしな。

 で、智沙。おめーにはこっちで厄介ごとが起きた時に出張ってもらわねーと困る。サーラちゃんと、マルリーちゃんが代わりに来るから、こっちでそれに対処してくれ」


 あの転送の箱を開けられるのって美琴さんだけなんだ。館長さんも開けられるのかって思ってたけど、個人認証でもかかってるのかな? 大伯母さんから受け継いだとか聞いてたから、美琴さんの家系でしか扱えない?


 で、智沙さんが残らないといけないのは、自衛隊なり警察なりで対処できない事態に備えてないといけないからか。私たちが減る分、マルリーさんがこっちに来ると。


「翔子ちゃん、二人に伝えてくれるか」


「あ、はい」


 館長さんの言葉は通じてないのでフェリア様とサーラさんにさくっと説明。二人とも基本的には同意してくれたんだけど。


「では、我は翔子らを連れていく役割なのだな」


「いいと思うけど、フェリア様だけだと心配なんだけど? 誰かサポートに来てくれないの?」


 あ、うん、それは確かに。ディアナさんとかが一緒に来てくれると嬉しいんだけどな。


「館長さん、向こうでは私たちとフェリア様だけで行くんです?」


「ああ、それなんだけどよ。ケイちゃんって子が一緒に行ってくれるらしいぜ。サーラちゃんなら知ってるって書いてあんな」


 ケイさん! 『天空の白銀』のケイさんだよね!?


「ケイが来るなら安心かな。私やマルリーよりもずっと真面目でしっかりしてるし、なにより一番優しいからねえ」


「ふむ。竜の都に行くとなるとケイが一番頼りになるしの」


 二人ともそれならという感じなので間違いなさそう。

 けど、こちら側に納得してない二人が……


「やっぱり私もついて行きたいんですが」


「私もだ」


 二人ともそう言って私たちの方を見るのはずるいと思います。

 そりゃ、二人ともついてきてくれる方がありがたいし楽しいと思うけど、ドラゴンに会いにいくわけだし、さすがに美琴さんは連れてけないよね。

 智沙さんにもこっちの世界で問題が起きたら対処してもらわないとだし。


「すいません、二人で行ってきます。というか、こっちのことお願いしますね」


 さすがにここで「私が死んでも代わりはいるから」とか言うほど馬鹿じゃないので真面目に。

 その言葉に二人とも渋々、本当に渋々それを受け入れてくれた。


「ワフッ!」


「ああ、ごめんね。ヨミはもちろんついてきてもらうからね」


「ワフ」


 ならヨシ! みたいなドヤ顔するヨミ。

 美琴さんも智沙さんも妬ましそうに見つめないであげてください……

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