79. 翔子と特殊作戦群

 やっぱりここは昔は土場だったようで、材木を運ぶクレーンのようなものがちらほらと。どれも錆びている感じで、今はもうただの広場って感じかな?

 ハンヴィーは奥まで進んで空いているところに止まった。


「私が先に降りて話をする。皆はまだ乗ったままでいてくれ」


 智沙さんがそう言って車から出ると、どうやらお出迎えらしき人が二名、近づいてきた。

 片方は偉い人っぽい制服で背も高いイケオジ。白髪混じりなあたりがポイント高い。隣にいるのは副長さんかな? フルフェイスマスクをつけてて、背中にはM4A1だよね、あれって。


「陸上自衛隊特殊作戦群長、白井智仁ともひと一等陸佐だ」


「六条グループ白銀の館、白井智沙です」


 ……ん? んんん??


『ひょっとして親娘?』


『です。けど、まさかここで会うとは……』


 こそっと聞いてみたら、美琴さんは知ってるっぽい。

 まあ、その特殊作戦群とやらの偉い人だってのは知らないよね。というか、極秘らしいから家族の智沙さんも知らなかった?


「……六条と聞いた時にもしやとは思っていたがな」


「状況を教えていただけますか?」


 智沙さんが完全スルーなのはいいの? 家族仲が悪いって感じでもなさそうだけど、さすがにちょっと心配になる。

 で、隊長さん、じゃない、群長さんも顔色ひとつ変えず頷き、


「本部まで来てくれ」


 と。私たちもかな?

 とりあえずシートベルトぐらいは外そう。


「聞こえていたと思う。本部で詳しい状況を聞くのでついてきてくれ」


 はいはい、了解っと。あ、サーラさん、鳥籠の方お願いします。フェリア様もいいって言うまで外には出ないでくださいね?

 そんな私、チョコ、美琴さん、サーラさん、そしてヨミが降りてくるのを見て、群長さんは……顔色一つ変えないのは血筋なのかな。フルフェイスマスクの人は驚いてそうだけど、顔色が伺えないのでなんとも。


「こちらだ」


 先導されてついて行くと、よくある家形テントの大きいのに通された。

 中には二名のオペレーターっぽいお姉さんが潜入した隊への連絡を試みてたみたいだけど、私たちが入ってきて……驚くなっていう方が無理があるよね。それでも声を上げないのはさすがというか。


「これが坑道の地図だ。突入隊から送られてきた映像をもとにして作成したもので、大きな違いはないだろう」


 テーブルに広げられた大きな方眼紙に書き込まれた地図を見ると、やっぱり廃鉱という感じで途中途中が枝分かれしている。見た感じ、手前の分かれ道からしらみつぶしにって方針っぽい。


 で、十字路に差し掛かったところまでは書かれていて、そこから先は白紙のままなので、


「この地点までは連絡が取れていたと?」


「ああ、左の道へ進むと報告があったのが最後だ」


「了解した。では、さっそく向かうので、入口までの案内を頼みたい」


 と無駄なく話が進んで行くのはいいんだけど、この二人が親娘なのがわかりすぎてつらい。いや、そんなこと言ってる場合じゃないんだろうけど。


「真田。六条のお嬢さん方を案内してそのまま同行しろ。貴官の任務は突入部隊の安否確認だけだ。それ以外の行動は許可しない」


「はっ」


 手を後ろに短くそう答える副長さん。出してる命令、普通の人が聞いたら正気を疑うよね? だって、私たちどうなってもいいって言外に言ってるよね?


「美琴はこちらで待機していてくれ。有線通信が回復したら連絡を入れる」


「わかりました」


 そう言われてチラッと群長さんの方を見た美琴さんだったが、賛成なのか頷いてくれたので問題なさそうね。最悪、ここならハンヴィーに飛び乗れば逃げられるし。


「では、お願いする」


「こちらです」


 副長さんに案内されるままに土場の裏手から山道を進むと、その先にブルーシートの覆いが見えてきた。あれが陥没跡なんだと思う。

 入口らしきところに二名のフルフェイスマスクの隊員がいて、副長さんを見て姿勢を正すんだけど、視線が明らかにこっちを向いててですね……

 って、私は防弾チョッキを下に来ているとはいえ変なローブを羽織ってるし、チョコはジーパンにTシャツ。サーラさんに至ってはTシャツにオーバーオールの上に革鎧で手には鳥籠……。智沙さんは唯一ちゃんとしたボディーアーマーを着てるけどね。


「六条の調査だ。特例で通す」


「「はっ!」」


 門番的な二人が敬礼して道を開けると、副長さんが進み、私たちも中へと入る。あー、うん。この辺からもう魔素が漂ってるような気がする。

 少し進むと崩落した山肌があって、ぽっかりと斜め下へと続く下り坂。階段じゃないし、やっぱりダンジョンではなさそう。


「ここからは私たちが。最後尾で自衛してもらえればいい」


「……了解しました」


 智沙さん言い方! と思うけどどう言っても一緒だよね。さっさと私たちの方は問題ないことを見せた方が早いかな。と、


「魔素があるようだが、もう良いか?」


 鳥籠からフェリア様の声が。

 どうせ見られるんだしもういいよね? という顔を智沙さんに。


「ああ、いいだろう。チョコ君も頼む」


「はい。『永遠の白銀』」


 事前の打ち合わせ通りにチョコはメイン盾の『永遠の白銀』になり、白銀の鎧に大盾ラージシールド長剣ロングソードを装備。


「フェリア様、いいですよ」


「うむ。我の出番よの」


 鳥籠の扉が開き、フェリア様が飛び出して私の肩にとまった。

 サーラさんは鳥籠を入口の端に置く。これはどうせ帰りに回収するから持ってく必要もないし、そもそも邪魔だしということで。


「ワフ」


「うん、ヨミ、頑張ろうね」


 ということで神聖魔法の聖域と加護もかける。これで準備オッケーかな?

 あ、副長さんには加護はかけてないです。これも事前の打ち合わせ通り。気味悪がられても困るし、そもそも護衛対象外ということで館長さんにも了解は得てるし。


「では、サーラ殿。手筈通りで」


「オッケー。フェリア様、あかり出してあげて」


「うむ」


 光の精霊がフェリア様から飛び出して元気よく私の頭上に飛んでいく。

 今回の隊列もキャンプ中の洞窟と同じ。先頭で斥候役のサーラさん、続いてメイン盾チョコ、私とフェリア様、ヨミが続いて、最後尾は智沙さん。その後ろに副長さんがついてくるなら、お好きにどうぞっていう感じかな。


「先行してる部隊との合流と救出が最優先だ。では……」


「その後ろにおる男は放っておいて良いのか?」


 フェリア様のその言葉に一斉に副長さんを見る私たち。

 そして、当然そうだろうなとは思ってたけど、思考がフリーズしている模様。


「真田一等陸曹!」


 智沙さんの圧のある呼びかけに再起動する副長さん。


「君たちは……。いえ、小官のことは気にせず進んでください」


 ええ、私たちのことも気にせずいてもらえると助かります。

 これからもっと驚くだろうけどね……

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