78. 翔子と出番待ち

「私たちは明日はどうすればいいんです?」


「ああ、我々はダンジョンの近くで待機になる」


 なるほど。何かあった時のための出番待ちってことでいいのかな。

 でも、それで何かあったからってすぐ駆けつけるとか……いいの?


「私たちが行くことになったとして通してもらえるんです? あ、いや、館長さんから話が通ってるってことなのかな」


「ああ、その通りだ。我々がどういった人間なのかは不問という前提だ。向こうもそうだしな」


 あー、お互いが秘密を厳守しないといけない立場同士だから大丈夫ってことか。

 うーん、出番がなければそれで良しだけど……


「じゃ、明日は私とフェリア様もそれに同行するってことかな?」


「はい、お願いします」


「なるほどの。ま、大船に乗ったつもりでおると良い」


 ……

 微妙な沈黙が流れる。


「明日の予定を話しておこう。あとは我々が出なければいけなくなった時のための打ち合わせが必要だな」


「そうですね。何もなければ待っているだけになってしまいますし、そのあたりの事も考えておいた方がいいかと」


 向こうに合わせて待機するそうだけど、私たちはダンジョンがある場所からそれなりに離れた道の駅での待機になるそうで。

 まあ、ご飯とかトイレのことを考えるとそういう場所での待機になるよね。それでも暇にはなりそうだけど。


「ボードゲームでも持ってく?」


「今から準備する時間ないでしょ。密林に頼んでも朝には間に合わないし」


 あと私とチョコは考えてることがわかるので、組んで圧勝になるか、泥試合になるかどっちかよね……


***


「この冷たいのはホントおいしいねえ」


 食後のデザート、紅茶ソフトにご満悦なサーラさん。

 この道の駅には十時に到着。来るかもしれない救援要請を待っているという状態。


 暇なのでおみやげ売り場をぶらぶらしたり、近くに流れる河原を散歩したりして、お昼になって併設されてるレストランでご飯を食べたところ。おうどんおいしかったです。


「連絡来ませんねー」


「まあ、何事もなく終われば、それに越したことはないかと」


 食後のお昼寝というわけでもないけど、ハンヴィーの車内でまったり。山間部で日陰ならそれなりに涼しいのが嬉しい。


「そうであって欲しいところだな。我々に出番が回ってくるということは、我々以外では対処できないということだ。そうなると……」


「チョコが十人くらい欲しくなりますね」


 それでも足りるかな? でも、同期するのが大変になりそう。なんとか自衛隊の皆さんで対処できるようにならないかなあ。


「私が増えたとしても、アンデッドが出てきたらどうしようもなくない?」


「あ、そうだった」


 っていうか、今のところアンデッドを浄化できるのは、こっちの世界だと私だけ? なんかヤバい気がするんだけど。捕まって解剖……はされないと思うけど、騒がしくなるのは間違いないよね。


「心配しなくても良い。翔子君の安全は我々が全力で保障する」


「いざとなったら、こっちの世界へ雲隠れしても良いぞ」


 そう鳥籠の中から聞こえてきた。外に出れないということで、食っちゃ寝してる妖精だけど賢者なんだよねー。


「なんならしばらく遊びに来る? ディオラとケイにも会えるよ?」


「うっ、それはちょっと魅力的……」


「もしそんなことになったら私もついて行きますからね!」


 と美琴さんにガッチリ腕を抱かれる。

 いや、別に美琴さんはついて来なくても大丈夫なんじゃないかな。魔法が使えたりするわけでもないし。


「君とチョコ君だけを送り出すわけにはいかないからな。私も美琴もついていくことになるな」


「ワフッ!」


 智沙さんまでも楽しそうに話し、ヨミが忘れるなと言わんばかりに吠えた。なんて言うか、むずがゆい気持ちになる……


 チャーラーチャーラー♪


 不意にスマホが鳴り、慌ててそれに出るのは持ち主の美琴さん。音がデ○トナUSAだったような気がするんだけど……レースゲーなら誘うのもあり?


「はい。すぐ向かいます」


 美琴さんの目線が智沙さんに向けられると、ハンヴィーにエンジンがかかる。

 通話は続行中だけど、急いで行く先なんてあそこしかないよね。


「しっかり捕まっててくれ」


 答える前にシートベルトを締めた。後部座席のチョコはサーラさんによろしくやってくれるかな。

 美琴さんがシートベルトを締めるのを手伝ってあげると、それを確認した智沙さんが一気にアクセルを踏む。

 ぐわんと振られる体を支えるシートベルトと美琴さんの左腕。右手ではスマホで館長さんと通話中っぽいので突っ込めない。漏れ聞こえてくる言葉からあまり状況は良くなさそう?


「はい。了解です。では、また一時間後に」


 どうやら通話終了かな。


「どういう状況か頼む」


「はい。特殊作戦群十六名で侵入。坑道を隈なく調査していたそうですが、一時間ほど前に定時連絡が途絶えたそうです。途絶えたというか有線通信の線が切れた可能性が高いと」


 おお、無線使えないって知ってたっぽい。ちゃんと有線通信で連絡は取ってたのね。で、その線が切れたのか。でも、切れたって潜ってる方もわかるはずだから……


「連絡できなくなった場合は戻ってくるはずなんですが、一時間経っても戻って来ないらしく……」


「なるほど。しかし早めに救援を求めてくるのは意外だったな」


 確かにそうかも。なんだかんだ、自分たちが最強って感じの人たちが集まってるもんだと思ってたけど、その辺拗らせてないのは上からの圧があるから? 文民統制とか言うやつ。


「最初の検問を通ったあと、右へ入る道があるのでそちらを進むように言われました。まっすぐ行くとマスコミが張っているそうで」


「了解した」


 そもそも特殊作戦群自体を公表したくないし、そういうのも用意してあるんだ。私たちもそんなのはお断りだしね。


 しばらく山道を進むとその検問が現れる。ここは普通の検問というか、注意喚起と不明者が出ないためにあるらしい。

 で、そこを超えてすぐに右へと続くのは林道かな。ハンヴィーだとギリギリの山道で起伏も多くて揺れる揺れる。

 右へ左へと林道を走ると先に少し広い場所が見えてきたんだけど、入り口にジープが横付けされていて門の役目を果たしてる。その手前で止まると、ジープからフルフェイスマスクの人が降りてきた。


「六条のものだ」


 智沙さんが社員証を出すと無言でそれを確認するマスクの人。アサルトライフルが背中にあって正直かなり怖い。


「通行よし!」


 いきなり大声はびっくりするのでやめて欲しいんですけど!?

 その声とともにジープがバックして道を開けてくれ、智沙さんも躊躇なく前進する。

 私たちを見送った人たち——さっき社員証を確認した人とジープの運転席に座ってた人——どっちも敬礼してて……これは気合入れていかないとね。

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