77. 翔子と戦力分析

 お盆休み明けの火曜、私とサーラさんは新幹線で東京へと向かっている。

 チョコ、ヨミ、フェリア様は一足先に転移魔法陣で六条別邸に移動した。一瞬で行けるのはやっぱりうらやましいんだけど、私には出張に行ったっていう体裁も必要だからしょうがない……


『まもなく終点東京です』


 アナウンスが流れて周りのお客さんたちも降りる準備を始める。

 サーラさんもそれに気づいたらしく、


「降りるの?」


「ええ、ここが終点なんで」


 理解が早くて助かります。って乗合馬車にも終点とか途中下車の概念はあるよね。

 特に大きな荷物を持ってるわけでもないので、慌てて降りる準備をする必要はないかな。でも、サーラさんが食べた駅弁(二個!?)の箱は捨てないとね。


「なんか翔子ちゃんの家に行く時より随分早いねえ」


「あー……、あの時はたくさん寄り道しましたし」


 高速道路で帰ったとはいえ、新幹線と比べられても困ります。二倍以上はスピード差あるよね。途中停車もほとんどしないし。


 程なく東京駅に着き、ゆっくりと最後に降りると美琴さんが待ち構えていた。そんな毎度毎度ホームまで迎えに来なくてもと思うんだけど。


「はあもう、乗ってないかと思ってドキドキしましたよ」


「いや、別に急ぐ必要も……」


「さ、行きましょう」


 ガッチリと腕を抱き込まれて連行される。サーラさんは面白そうに後ろをついてくるんだけど、お客様という自覚を持って欲しい。


「サーラさん、迷子にならないでくださいね」


「はいはい」


 と反対側の手を握られた。

 いや、うん、なんだこれ……


***


「来たよー」


 別邸、ではなくトレーニング室へ直行。

 チョコと智沙さんは予想通り試合というか手合わせというか、まあ頑張ってるとのこと。


「ワフッ!」


「ヨミ〜」


 駆け寄ってきたヨミを抱き上げて撫でていると、チョコと智沙さんがやってきた。手合わせは休憩タイムかな?


「いつもすまんな」


「いえいえ。泊まるところも食事も全部お世話になってますし」


 実家よりも良い環境を無料で用意してもらってて、移動の交通費も会社持ちなので文句の言いようもなく。


「お疲れ」


「そっちもね」


 チョコと手を合わせて記憶を同期。なるほど、結構良い勝負が出来るくらいまでになったのね。すごいじゃん。


「休憩じゃなくて上がりなのね」


「我々はシャワーを浴びてくる。先に私の部屋で待っていてくれるか」


 ということなので先に行きましょうかね。

 チョコと智沙さんを見送ってから、もう一人回収しないといけない人を呼ぶ。


「フェリア様」


「んあ?」


 鳥籠の中、小座布団の上にへそ天してるインコって……

 別に起こさなくても良かった気がするけど、どうせ部屋に行ったら起こさないとだしね。


「おお、翔子か。もう来たのだな」


「いやもう夕方ですし……」


「はいはい、行きましょ」


 サーラさんが雑に鳥籠を持ち上げて歩き出す。鳥籠の中から苦情が聞こえてくるけどスルーしつつ別邸へ。まずは私とチョコの部屋へ行って荷物を置いてこないと。


 美琴さんが飲み物を持ってきますと食堂へといったので、私たちは智沙さんの部屋に。先にと言ってただけあって鍵は当然かかっていない。

 サーラさんがテーブルに鳥籠をどんと置くと、インコが扉を開けて妖精となって出てくる。


「サーラよ。其方そなた、賢者への接し方がなってないと思うのだが?」


「私を拾ってくれた賢者のせいですねえ。ちょっと報告しておきますか」


「い、いや、それはせんでいい」


 そっぽを向いてそう答えるフェリア様。サーラさんを拾った賢者って『森の賢者』ロゼ様だよね。なんか頭が上がらない相手っぽい?

 私も椅子に座り、ヨミが膝に乗りたそうな顔をしてたので抱えてあげる。


「ワフ〜」


 はい、かわいい。

 ヨミはずっと一人で庭の散歩をしてたみたいだし寂しかったのかな?


「お待たせしました」


 美琴さんが入ってきて、アイスティーを置いてくれる。

 ここで飲むアイスティー、シロップとか入れなくてもほのかに甘くて美味しいんだよね。


「先に少し話を始めますね。智沙さんも知っていることですし」


「あ、うん、そうね。私はチョコと同期できるし」


 ということで、美琴さんからざっくりと説明を受ける。

 埼玉のダンジョンは陸自による警備が続行中。ただまあ、例の事件のこともあって、内部を調査しろっていう圧がかなり強まってる感じ。

 なんにしても放置でずっと警備してるわけにもいかないので調査ということになり、明日水曜日の十一時から潜るらしい。ただ、警備中の部隊が入るわけじゃなく、なんだか別の部隊が呼ばれたそうで。


「陸上自衛隊特殊作戦群?」


「はい。そう聞きました」


 なにそれ。特殊部隊ってことでいいのかな?


「特殊作戦群は陸自の特殊部隊だ。ほとんど情報が公開されてない」


 Tシャツにジーパン、バスタオルを頭に被った智沙さんが部屋に入ってくる。その後ろにはチョコが同じようにバスタオルを被ってるんだけど、ドライヤー使わずに急いで来たって感じかな?

 一つ空いている席は智沙さんに座ってもらって、チョコは私の後ろにあるベッドに腰掛ける。


「その人たちってオークがいることを知ってるんでしょうか?」


「おそらくはな。被害者が持っていたビデオカメラは官邸からの指示もあって陸自に回ったらしい。機動隊を動員して負傷させた件もあって断れなかったのだろう」


「かなり本気ってことですよね?」


「そうだろうな」


 それなら大丈夫……なのかな?


「うーん、勝てると思います?」


「勝てると思いたいが、アサルトライフル抜きではどうだろうな」


 苦笑いの智沙さん。でも、智沙さんなら勝てそうな気がするし、そういう人たちが揃ってる部隊だと思いたい。


「よーわからんが、国の近衛でも投入するのか?」


「そんな感じですね。でも、一番得意な武器、まあ飛び道具なんですけど、それを使えないってなるとどうかなーって」


「オークは群れだと厄介なのも混じってる可能性があるから気をつけないとまずいね」


 フェリア様に説明したら、サーラさんから気になる発言が。

 オークが群れるとその中から魔法を使うものも現れるとのこと。高度な魔法を使うことは稀だけど、普通に火球とか撃ってくるという話で……


「かなりやばいんじゃない?」


「こっちはナイフ一本、向こうはなんでもありってどんなハンデマッチって話だよね」


 やっぱりここは私の黄金銃、もとい、白銀銃の出番なのかな?

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