80. 翔子と廃鉱

 サーラさんが結構早いペースで進み、私たちもそれを追いかける。

 目的は連絡が途絶えた突入部隊との合流なので寄り道は無し。有線通信ケーブルをたどって足速に進む。

 もちろん、サーラさんのことなので警戒を怠ることもなく、分かれ道の前では慎重に気配感知を巡らせている感じ。


 右へ左へと分かれ道を迷いなく進む。ケーブルを追っかけてるのもあるけど、サーラさんは地図はまるっと頭の中に入る人だそうで……うらやましい。

 体感的には結構進んだ気がするんだけど、坑道ということもあって距離感がいまいちわからない。あの地図の縮尺的には、連絡が途絶えた十字路まで直線距離なら一キロ弱?

 と、サーラさんが立ち止まり右手を横に。慌てて私たちも停止する。この先がその十字路っぽい。


 手はそのまま、私たちに動くなと指示しつつ、足音もなく進むサーラさん。左側の壁に沿って背中を預けて覗き込み……右手が私たちを呼ぶように振られた。


「どうです?」


「この先を進んで右に曲がる手前でこの紐が切れてる」


 小声でそうケーブルを指すサーラさん。皆が頷いてからさらに続ける。


「かすかに物音が聞こえるし、多分ここから先、そう遠くない場所で何かしら遭遇するかな」


「では、一気に?」


「うん。指示は私が出すから焦らないでね。あと、見てない後ろからが一番やばいから、そっちは智沙ちゃん、フェリア様、頼んだよ」


「了解した」


「良かろう」


 一番後ろに副長さんがいる気がするけど、気のせいということにします。どうせサーラさんの言葉は理解できてないはず。……しばらくしてれば通じるかもだけど。


「じゃ、深呼吸して」


 大きく深呼吸を一つ。落ち着いて、冷静に、ヨミを撫でて落ち着く。

 皆が顔を見合わせてそれぞれの表情を確認すると、サーラさんが十字路の方を向いた。


「行くよ」


 その言葉とともに一気に駆け出す!

 ケーブルを追って、五、六メートル進んだところでちぎれてしまっていたが、そのまま進んで右へと曲がると。


「オーク、八、九! 対象なし! 翔子ちゃん!」


「はい!」


 腰の魔導拳銃を抜いて膝立ちに構えると、サーラさんが左に避け、チョコが右横に陣取る。

 撃つ! 撃つ! 撃つ! 四肢を狙ったりはせず、胴体真ん中、太くて当たりやすい場所を狙って撃ちまくる!


「グギャァ!」


 放たれた氷弾は二〇メートルほど先のオークたちに命中。完全に不意を突いたようで、陰になっていたオークたちがやっとこちらを……杖持ってる奴がいる!


「もういっちょ!」


 サーラさんの声が掛かり、私も迷わずトリガーを引く。

 魔法使うっぽい杖もち優先で、距離があるうちにできるだけ数を減らしたい。


「翔子ちゃん、ストップ! チョコちゃん、行くよ。左の道に気をつけて!」


「はいっ!」


 駆け出す二人を私たちも追いかける。

 ここから見える範囲では立っているオークはいないけど、倒れているあたりで枝道が左に続いている感じ。

 そこまで行って、その枝道を覗いたサーラさんが、


「目標発見!」


 そう叫んで枝道へと入る。

 追いついた私たちがその先に見たのは、二十体以上いるオーク相手に盾を使って籠城戦をしている特殊作戦群の人たち。

 そのジュラルミン盾は標準装備じゃないよね? やっぱりオークを想定して持ってきてたんだろうけど……


「ブモゥッ!」


 最後尾にいたオークたちがこちらに向かって走り出す。氷弾を打ちたいけど、逸れてフレンドリーファイヤーになるのはまずい。


「チョコちゃん、よろしく!」


 振りかぶっていた棍棒が狙う先のサーラさんが消え、それを受け止めたのはチョコ。

 ガツンと鈍い音がした次の瞬間、そのオークの腕が棍棒を握ったまま体と泣き別れる。


「はっ!」


 右手の長剣ロングソードがオークの胸を穿ち、先端は突き抜けて向こう側に。

 そのオークが自らの血の海に頽れると、先ほどまで威勢の良かったオークたちが後ずさる。

 そこから先は一方的な展開となった……


***


「真田一等陸曹、後は任せる」


「は、はいっ!」


 敬礼した副長さんが仲間たちへと駆け寄って行くのを見送り、私たちは作戦タイム。

 ここに入ってから三十分ほどで目的は達成したかな。いや、彼らを出口まで送るまでが仕事。家に帰るまでが遠足。


「彼らが外に出るまで警護が必要だろう」


「そうね。怪我人もいるっぽいし」


 ちらっとそちらを見るサーラさん。その先には、おそらく腕が折れたっぽい人がいて、今は応急処置をしてる感じ。うーん……


「私、治癒してきましょうか?」


「……いや、いいだろう。今さらかもしれんが君の力のことは隠しておいた方がいい。幸い命に関わるような重傷者はいないようだしな」


 うっ、確かに。ただ、治癒はまだ試したことがないから、チャンスがある時に試しておきたいという気持ちも……。いや、なんかモルモット扱いみたいで酷い考えだこれ。反省。


「えーっと、来た時と同じで間にあの人たちを挟む感じでいいです?」


「ああ、それで行こう。ただ、来た時よりはペースを落とした方がいいだろう」


 まあ隊員さんたち満身創痍っぽいし、しょうがないね。後はこの床を埋め尽くしてるオークの死体をどうするか。

 どう見ても酷い光景だけど、聖域のおかげか皆気分が悪くなったりはしてない。ヨミのおかげって感じかな。


「このオークたち、土壁で埋めます?」


「そうしたいところだが量がな……」


 ここで倒したオークは二十三体。手前で倒した九体と合わせると三十二体。

 土壁を盛って埋めるとしても、この辺り一帯を満遍なく埋めるハメになってしまうわけで。とはいえ、放置すると何か別の魔物がここまで来そうな気もする……


「ふむ、この道はここで行き止まりようだし、最初のやつらもこの辺に放り込んで道ごと塞いどけば良いのではないか?」


「ああ!」


 フェリア様の提案に頷く一同。

 再調査するのかどうか知らないけど、そっちはどうでもいいや。厄介ごとが増えない方向で!

 チョコとサーラさんが戻り道の警戒も兼ねてその作業へと向かう。私と智沙さんも手伝おうかと思ったんだけど「あの人たちが不安そうだから見てて」と……


「撤収準備、整いました!」


「了解した。あの二人が先導するので付いていってくれ」


 うん、もう副長さんの立場が既に智沙さん以下に見える件。

 隊員十六名のうち半数近くが負傷していて、うち三名は手や足の骨折。わからないだけで肋骨を折ってる人もいそう。

 肩をかしたりしつつ、無言でチョコとサーラさんの方へと進んでいく。最後尾の私たちが枝道を出たところで先頭の二人が少し待つように副長さんに伝えたっぽい。ちゃちゃっとやらないとね。


《起動》《石壁》


 枝道を一歩進んだあたりを石壁で覆う。簡単に崩れないように厚めに。

 よしよし、なかなかの出来かな。満足してオッケーを伝えようと振り返ると、隊員さんたちがめっちゃ見てて……もうちょい奥でやれば良かった。

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