73. 翔子と応急措置
今すぐにできることと言ったら、館長さんに連絡することぐらいとなってしまったので、この洞窟?からは撤収することに。
「ここってダンジョンの一部ってことは、蓋しちゃうと外に向かって穴が開いちゃうんですよね?」
「うーむ、微妙なところよのう。ダンジョンコアとは切り離された場所になってしまっておるゆえ、その命令も届かぬのではないかと思うのだが……」
あ、そっか。どっかのダンジョンの階層の部屋の一部が切り取られただけだし、ダンジョンコアとはもう繋がってないよね。
「翔子君、道を閉じる必要はないが、この鉱床を石の壁で覆えないか?」
「え、でも、一日ぐらいで消えちゃう……。いや、ダンジョンコアから切り離されてたら、それも起きないかもしれないのか」
チョコが私の思考回路を口に出してくれる。
「明日、帰る前にもう一度見に来た方がいいだろう。その時に消えているかどうかも確認できる」
「すいません。やっぱりここは電波が入らないので、早めに外に出たいんですが」
あ、そうだった。さすがにこの洞窟内は無理だよね。
えーっと、石壁はさすがにちょっと広くて手間取りそうだし……
「翔子が石壁を作ってる間は私が付き添ってますので、皆さんは先に外へ」
「ワフッ!」
「うん、ヨミもね」
その提案に美琴さんが少し不満そうだったけど、智沙さんが賛成したので反論もできず。
無事外に出れたら、またサーラさんが戻ってくるということで納得してもらい、皆を見送る。
「ふう。大事に思ってくれるのは嬉しいけど、なんだか慣れないね」
「まあ、ね」
両親が亡くなってから、私は人とあまり話さなくなったらしい。
もちろん、挨拶をしなくなったりとかそういう完全引きこもりレベルの話ではなく、気軽に人と話さなくなったという意味で。
それに気づいたのは伯母の町子さんだけど、「翔子ちゃんが辛いと思うことはしなくていいのよ」と言われたのでそのままだ。
「あの頃は誰と話しても、ただただ同情されるだけだったからねえ」
「何を話していいかわからなかったんだろうね。今ならその気持ちもわかるかも」
この世界から向こうの世界へと行ってしまった人の家族はどういう思いをしたんだろう。
そうそう毎年起こるようなことでもないと思うけど、こっち側からしたら訳のわからない行方不明だよね。
その遺品をどんな顔をして渡せばいいの? それを受け取った側はどういう気持ちになるの?
「翔子。そろそろ始めないと美琴さんが心配してるよ」
「ワフン」
チョコとヨミに急かされ、私は石壁の魔法を唱える。
あまり分厚く作っても後々で確認することになったら面倒だし、ブロックぐらいの厚さでいいかな? あ、そうだ。確認用の小窓を作っておいて、そこに別の石壁を嵌め込んどこう。
「よし、終わり」
「ブラボー! おお……ブラボー!!」
くっ! いつかチョコがかっこいいところを見せてくれたらやるつもりだったのに!
「翔子ちゃん、終わった?」
「あ、はい、終わりました。行きます行きます」
サーラさん、早すぎじゃないかな。
でもまあ、今日はこの後を楽しまないとね。
***
美石山の頂上まで行って、特に何もなく、ただただ綺麗な風景を眺めてから下山。
時間は午後五時前。そろそろ夕食の準備でもと思ってたところで、智沙さんのスマホが鳴った。
「御前からだ。すまんが準備は……」
「任せてください!」
そう答える美琴さんだけど、キャンプ料理とかできるのかな?
単純にバーベキューするだけなので、お肉や野菜切ったり、串に刺したりする程度だけど不安が残る。あと普通にお嬢様は
智沙さんが不安を煽る苦笑いを残しつつ、スマホを持って離れていく。聞かれてまずいことがあるわけでもないけど、マナーとして染み付いてるんだろうね。
「夏休み、終わっちゃうかもですね」
「え? それは無いんじゃない?」
「ですが『陥没箇所から金の鉱床が!』なんて話が広まったら酷いことになりますよ?」
あー、日本版ゴールドラッシュになりかねないのか。
そうなる前にできるだけ陥没は調査しておく方がいいんだろうなあ。そして、それができそうなのは私たちだけ、か。
「フェリア様。あの鉱床って魔素で回復したりすると思います?」
「掘ってみんことにはわからんの。おそらく、あそこにある魔素が尽きるまでは回復するのではないか?」
都内のダンジョンや、うちの地下みたいに向こうの世界と繋がってて、魔素が流れ込んできてるならともかく、あの洞窟はあそこにある魔素を使い切れば補充はされないからってことか。
「先に私が魔法で魔素を使い切る、とかすれば?」
「ふむ。それは悪くない手かもしれぬのう」
ただ、無為に魔法を撃つのも躊躇われるというか、そんなのに適した魔法なんて無いよね。
だいたいが目的があって魔法を使うわけで……ってあれならアリかも?
「ただいま。薪ってこれくらいあれば十分?」
「ワフッ」
呼びかけられて振り向くとサーラさんとチョコが薪を大量に抱えていた。なお、ヨミにとっては夕方のお散歩だった模様。
智沙さんが炭を持って来てくれてはいるものの、せっかくなので薪を燃やしてのバーベキューをということで。
「十分だと思います。というか、サーラさん、そういうの詳しいと思ったんですけど」
「いやいや、私たちも野宿はできるだけ避けてたよ。あと野宿は豪勢な食事とかしないから」
そうでした。野宿でお腹いっぱいになるまで食べたりしませんよね。
洗い場にそれを置かれても困るので、テントの場所まで持っていってもらう。
こっちもあとは串をさして下拵えは終わりかな?
「すまない」
入れ替わりに智沙さんが戻ってくる。心なしかスッキリした顔?
「館長はなんと?」
「ここの買収に関してはすぐに手を打ってくれたそうだ。幸いというか、金額も大した額ではないそうでな」
苦笑いの智沙さん。この時期にお客が私たちだけですからね。
「私たち、早めに帰らなくてもいいんでしょうか?」
「ゆっくり休暇を楽しめとのことだ。今さら一日二日急いでもしょうがないとな」
「そうですか。でも、確かにそうですね。こちらから陥没を積極的に調べるには人が足りませんし、向こうで調べてもらうしかない、ですかね?」
「そういうことだな。翔子君の家に戻ったら、向こうにこの件を伝えて欲しいとだけ言われた。あとはゆっくりしろとな」
智沙さんが串を一本手に取り、器用に指二本でくるくると回してから、それに肉と野菜を交互に通していく。
『今できることをする』
明日は自分が作った石壁を確認しないとだし、そのあと帰ったらすぐに手紙を出す。だから、今日はキャンプを楽しもう。
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