74. 翔子とアルバム
「「ただいまー」」
夏キャンは無事終了して帰宅。
翌日、朝から例の洞窟をもう一度確認に行ったけど特に魔物がいたりもせず、私が作った石壁も残ったままだった。
フェリア様曰く、やはり一部だけがこちらの世界に飛ばされてダンジョンの基本機能も失われたのだろう、と。
あとは残っている魔素を使い切れば、ただの洞窟になるんじゃないかということで一安心。今ある金鉱床は多分、館長さんが掘るか隠すかしてくれると思うし。
「チョコ。二人と地下へ先に行っといて」
「はいはい」
サーラさんとフェリア様(イン鳥籠)を連れて、先に研究所へと降りてもらう。
智沙さんは使ったテントやキャンプ道具の手入れ。美琴さんはお土産を町子さんのところに持っていてくれている。
で、私はというと、昨日のうちに美琴さんが書いてくれた手紙の原稿がノーパソにメールされているので、それをプリントアウトしないとね。
「ワフ?」
「ちょっと待っててね。手紙出したら、お散歩しつつ美琴さん迎えに行こうねー」
「ワフン!」
うちの子かわいい。かしこかわいい。
ノーパソを開いてメールを確認……来てる来てる。
メールをそのままプリントアウトってわけにもいかないので、書類作成ソフトにコピペして体裁を整えたらプリントぽち。
「ワフ」
プリンターが動き始めると、紙を取りに行くことを覚えたヨミが駆けていく。私は封筒を用意しましょ。
そろそろ封筒も品切れになりそうだし、駅前あたりまで出ないとかな。あ、美琴さんに言えば会社の備品とかくれたりするのかな?
「ワフン!」
「ありがとね」
打ち出された紙二枚を持って来てくれたヨミをなでなで。褒めて伸ばす方針で。
手紙を三つ折りにして封筒に入れてしっかりと閉じる。あとは転送の引き出しから向こうに送ればオッケーかな。
「ヨミ、行くよー」
「ワフー」
裏口から出て蔵に入り、地下への扉を開けて……チョコたちどっちだろ? 魔導人形部屋かな?
お、いたいた。って、
「何してるの?」
「たいしたことじゃないよ。皆の武器とか防具の話をチョコちゃんにね」
「うっ、私も聞きたいけど……。チョコ、後で教えてね。これ出したら夕方の散歩と美琴さん拾ってくるから」
「ほいほい、いってらー」
フェリア様は? と思ったら、テーブルの上に大の字になって寝てた。どんだけフリーダムなの、この人……。いや、妖精だった。
ちゃちゃっと転送の引き出しに手紙を納め、転送されたことを確認して部屋を出る。あと智沙さんにも声掛けておかないとかな。
ということで、家を通って表に出て、庭でキャンプ道具を洗っている智沙さんを捕捉。
「任せっきりですいません。ちょっとヨミの散歩と美琴さんを拾ってきます」
「ああ、気にするな。ゆっくり散歩してくるといい」
「はーい」
「ワフー」
お言葉に甘えてそっちはお任せ。というか、智沙さんのキャンプ道具ってどれも高そうだから、下手に手伝って傷でもつけたらと思うと、ね?
家の前の坂を降りて車道を渡り、町子さんのお店『シティ』へと到着。
外から見た感じ、まだ夕飯前だからお客さんも少ないっぽいね。カウンターに座っている美琴さんが町子さんと楽しそうに話している。
カランカラーン♪
「こんにちはー、っていうか、ただいまです」
「翔子ちゃん、おかえりなさい。おみやげありがとうねー」
「いえいえ。で、美琴さんと何を?」
やたら楽しそうだったけど、何か共通の趣味でも見つかったのかな? 町子さんは別に車マニアでもなかったと思うんだけど。
「翔子さんの小さい頃の話を聞いてました」
「ちょっ!」
「後でアルバムとか見せてもらえると嬉しいです」
ニッコリ。はあ……
「後で見せますから、ヨミの散歩に行きましょう」
町子さんがいるところであーだこーだやると傷口を広げそうなので早々に撤退! 戦略的撤退です!
っていうか、アルバムなんてどこに置いたっけかな。いろいろあって見直すのが怖くてしまっちゃったと思うんだけど……
***
「はー、恥ずかしかった」
肩まで湯船に浸かって、やっと一息つけた気が。
結局、夕飯の後にきっちりとアルバムの話を蒸し返されて、皆に見せる羽目になってしまった。
私とチョコ以外、皆が見たいって言うし、ヨミまで「見たい!」って感じでしっぽふりふりされてしまうと抵抗のしようもなく。
「でも、みんなで見て良かったね。私たちだけじゃ、ずっと見れなかったと思う」
「そうなんだよねー……」
亡くなった両親と撮った昔の写真。あの時からずっと見れなかったけど、皆と一緒にアルバムを開いて……意外とすっと見れた。
いろいろと思い出して切ない気持ちにはなったけど、ずっと美琴さんと智沙さんが「かわいい」とか「ちっちゃい」とか……いや子供だからちっちゃいのはしょうがないでしょ。
サーラさんとフェリア様は『写真』というものに驚いてたけど、
「ヨーコとみんなで一緒のところを『しゃしん』にしてもらえてればなー」
と。それは私も見たかったなあ。
『永遠の白銀』マルリーさん、『不可視の白銀』サーラさんには会えた。後は『異端の白銀』ディオラさんと『天空の白銀』ケイさんだけど、こっちに遊びに来てくれたりしないかな。
「カメラをカスタマーサポートさんに送れば、撮って送ってもらえるんじゃない?」
「なんだけど、それって怒られるやつだと思うなー」
こっちのオーバーテクノロジーはあっちに持って行かないように言われてるしね。
というか、魔導拳銃を作れるくらいなら、カメラぐらい作れそうな気がしてきた。
「空の賢者様なんだし、カメラぐらいは作れると思うんだけど」
「だよねえ。隠し持ってそうな気がする……」
今度、手紙を出すときに聞いてみようかな? いやでも、隠してるなら答えてくれないか。
「とりあえず、明日の朝とかにみんなで写真撮らない?」
「おお、それ! そして、それをカスタマーサポートさんに送る!」
「何それ、精神的な外堀を埋める感じ?」
チョコの言い方は酷いけど、こっちから写真送って「私たちですー。写真撮ったので送りますねー」ってやれば、向こうも写真撮って送ってきてくれたりしないかな作戦。長い。
「カスタマーサポートさんが反応してくるかどうかはわかんないけど、写真は撮っておいていいんじゃない?」
「うん、賛成。というかマルリーさんやディアナさんとも写真撮っておけばよかったね」
そうなんだよね。スマホ持ってたのに写真撮るのすっかり忘れてた。
もう一回、ディアナさんとマルリーさん、来てくれないかな?
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