45. 翔子と作戦会議

「ワフッ!」


「ただいまー」


 転移魔法陣に現れたチョコとヨミ。

 ヨミは元気いっぱいだけど、チョコはお疲れ気味?


「おかえり。どうしたの?」


 とりあえずしゃがんでヨミを撫でてあげる。

 チョコはふらふらと歩いて、自分の椅子へと座った。


「館長さんと智沙さんも来たから、例の件を話したんだけどね」


「あー、助かるー。けど、大反対されたよね?」


「そそ」


 左手を出すチョコに右手を合わせる。

 ふむふむ。まあ、反対されるのは予想通りだけど……


「ワフ?」


「ん、ごめんごめん。お散歩行こうか?」


「ワフ〜」


「いってら。立ち直ったらお夕飯の用意しとくから」


 チョコが手をひらひらさせてるので、回復待ちの間にヨミとお散歩かな。

 まあ、ちょっと歩きながら考えを整理しよう。


 地下から蔵に出て、棚に置いてあるリードをつける。

 しっかりつくまでちゃんと大人しくしてるヨミ。かしこかわいい。

 家の表に出て、そのまま坂を降りていく。滅多に車の通らない県道だけど、しっかり左右を確認して渡ると、そこから先は田んぼと畑が広がっている。

 農道をぶらぶらと歩きつつ、チョコの記憶を辿る……


 第七階層の話にとにかく反対してたのは智沙さんだ。

 まあ、私と同じで実際に階段の途中で「やばい」のを体感したもんねえ。


 チョコは私がヨミのおかげで神聖魔法を使えるようになったから大丈夫だと主張した。もちろん、私も大丈夫だとは思ってる。

 けど、実際にそれを目にしてない智沙さんだけでなく、館長さんも美琴さんも「今すぐ無茶をする必要はない」という主張。


 でも、あそこを徐々に整備して地下ホールだったり、上を公園にするっていうことなら、きちんと安全な状態にしておきたいんだよね。

 美琴さんが最初に冗談で「ダイクロで酷い目にあった人が呪ってるんじゃ」みたいな話をしたけど、それがホントでもおかしくない気がするし……


 結局、チョコも説得できないまま戻ってきたんだけど、このままだと次に私が居たとしても許してもらえない感じかな。

 大事にしてもらえてるのは、すっごく嬉しいんだけどね……


 農道を進んで行って広場に出た。

 小さい頃はここで夏休みの朝のラジオ体操とかやったなあ。


「ワフッ!」


「よーし、かけっこしよっか!」


 リードを外してヨミと走り回ってると、なんだか考えてることがすーっと……解決しないんだけどね。

 とりあえずはカスタマーサポートさんに相談かなあ。


「ワフン」


「うん、帰ろっか」


 帰りに町子さんところに寄って、東京に行く日程を伝えておかないとね。


***


「ただいま。チョコ、町子さんから夏野菜の揚げ浸しもらってきたよー」


「おー、いいね!」


 今日の夕飯は餃子、夏野菜の揚げ浸し、お味噌汁とご飯。

 ヨミには好物の鳥ささみとトマト。牛肉よりも鶏肉の方が好みなのは生態なのかな? 健康的でいいんだけど。


「「いただきます」」


「ワフ」


 在宅ワークだし、明日多少ニンニク臭くても平気なのはいいよね。

 揚げ浸しは出来立てで美味しいけど、一日置いた明日のお昼も楽しみ。


「おかわりはお茶碗半分ぐらい?」


「うん、お願い。あ、梅干し持ってきて」


「はいはい」


 うちの家訓は「立ってるものは親でも使え」なので、ついでをお願いする。

 あ、熱いお茶でお茶漬けでもいいかなと思ったら、チョコがお茶を沸かしてくれるみたい。うーん、堕落するなあ、これ……


「はい。あと塩昆布も持ってきた」


「グッジョブ」


 お茶漬けに梅干しと塩昆布。さらさらと流し込んでほっと一息。


「「ごちそうさまでした」」


「片付けしとくから、カスタマーサポートさんへの手紙書いたら?」


「ん、ありがと」


 別に明日でもいいんだろうけど、心に勢いのあるうちに書いてしまおう。

 食器を片付けて、布巾で綺麗になった座卓にノーパソを置く。

 カスタマーサポートさん的には、ヨミが来て神聖魔法が使えるようになった私たちに第七階層以降も見て欲しいと思うんだよね。

 あ、そういえば……


「向こうの第七階層以降がどうなったかも聞いておいた方が良くない?」


 と思い当たったことを言ってくれた。


「それそれ。向こうがどうだったかわかれば、こっちもやり方あるよね。そう考えると、やっぱ地図ぐらいはないと無謀かな?」


「だね。ゼルムさんが言ってた『タチの悪いダンジョン』になってるんだとしたら……」


 うーん、確かにそんなところに行くのはちょっとやだなあ。

 私、チョコ、あとまあ智沙さんは絶対についてくるだろうけど、パーティーとしては人数不足なんだよね、根本的な問題として。

 メイン盾はチョコがやるとして近接にもう一人。後衛は私がヒーラーをやると、ダメージディーラーとしてもう一人欲しい。となると……


「向こうから人を借りれないかな?」


「なるほど、確かに。この間のエルフのディアナさんだっけ? 細剣レイピアと弓を持ってたから近接も遠距離も両方できそうだよね。それに精霊魔法も使えるし……めっちゃ優秀な人なのでは?」


「向こうの『白銀の館』のグラマスなんだし、そりゃそうでしょ。残念っぽいのはともかく」


 普段がちょっとズレてるだけで、戦闘になればきっとすごく優秀なはず、はず……

 図々しいお願いだけど、第七階層以降のクリアリングにディアナさんを借りれないか書いちゃおう。


「カスタマーサポートさんからダメって返事が来たら諦めようね?」


「うん、そりゃね。今すぐはダメって話かもしれないし、向こうで調査が終わってなくて、こっちに人をまわせないって話ならしょうがないよ。そんな時に私たちが勝手して、迷惑かけるようなことになったら……」


「そだね。でもまあ……」


「「ダンジョンの未踏部分は埋めたいよね〜」」


 隅々までマッピングしたい勢としては、ダンジョンを途中まで探索して放置してるっていう状態がすっごくモニョるのよね……

 あそこって『神樹の迷宮』とかって名前ついてそうだし、方眼紙マッピングしたい欲が……ダブルスクリーンの下側が欲しい。


「オートマッピングの魔法って無いよね?」


「うーん、私が読んだ本には無かったと思うし、翔子が記憶にないなら無いかな」


「そっかー。一応これもカスタマーサポートさんに聞いてみるかな。無いなら、既存の魔法の組み合わせとかでできないかな」


 転移とか転送とかの魔法があるんだから、座標指定の概念はあると思うんだよね。

 なので、座標間の距離を測れて、あとは通路とか部屋の広さが把握できれば……あっ!


「スマホのARアプリとか探す方が良くない?」


「うん、そっちだね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る