44. チョコと短期出張

 ヨミと一緒に東京の六条の別邸に転移してきたのは良いんだけど。


『再使用可能まで一時間あるらしいから、しばらくそっちでゆっくりしててー』


「えっ、マジで?」


『うん、そっちの魔法陣の真ん中に転移したと思うんだけど』


「あ、そうか。しばらく反応しない時間あるよね、当然」


 言われてみればクールタイム当然あるよね。でも、五分とか十分とかそれくらいだと思ってたのに結構長い。

 これはあれかな。カスタマーサポートさんが連続使用を微妙に制限しておくことで、万一のことに備えてって感じなのかな。


『美琴さん、しばらくチョコをこき使って良いですよ。重いもの運ばせたりとか』


「了解です」


 アッハイ。

 まあ、やるけどね。こっちで他にすることもないし。

 と、その前に確認しておかないと……って、あらら?


「翔子。こっちの魔法陣の魔晶石も一つ魔素使っちゃってる」


『え、マジ。到着するそっちも使うんだ。じゃ、後で帰りに使うから残り二個になって、次は私も東京に行く時になるね』


 こちら側に置かれた魔法陣についてた魔晶石四つのうち一つが青の魔素を失って透明に変わっていた。美琴さんが使ったわけでもないだろうし、私たちが転移してきた時に消費されたんだと思う。


「そうそう。だから、さっき話してた件、忘れないでね」


『オッケー』


 うーん、ただのお試しだったとはいえ、せっかくここに来たから何かすることが……


「あと何か用事ある?」


『秋葉で外付けHDD買ってきて』


「なんでやねん」


 とまあしょうもないやり取りをするくらいだから、特に無いってことで良さそうね。

 ヨミとお屋敷の周りを散歩でもするかなと思ったけど、私たちが急に居るとそれはそれで問題になりそうな気もする……


「翔子さん、ちょっとアイリス語でわからないところがあるので、チョコさんに聞いて良いですか?」


『あ、そうですね。終業時間までチョコに教わってください。ヨミのお散歩があるので、その時間に帰ってきてもらえれば』


「わかりました」


 ということは、美琴さんの部屋に移動かな? ここはまた帰りに使うだろうし。

 ヨミは翔子が使ってたベッドの上で丸まってるけど、もうシーツとか洗濯ずみだろうし、匂いとかが残ってるわけじゃないよね? ヨミにはわかるのかな?


「ヨミ、おやすみしてる?」


「ワフ」


 声だけの返事を返してきたのでそのままで。


「じゃ、お願いします」


「はーい」


 家庭教師なんてしたことないんだけど、とりあえず質問に答えてればなんとかなるよね?


***


 美琴さんの家庭教師役はすんなりと。というか、私なんかよりずっと頭がいいから、ちょっと言葉を添えるだけで解決しちゃうし。

 進学校へ行って「あー、本当に頭の良い人ってこういう人たちなんだ」って悟ったけど、そっち側の人だったよ。

 まあ、そうでもなければ、いきなり六条の会長秘書になんてならないよね……


「ありがとうございました。これで残りも大丈夫そうです」


「いえいえ。なんていうか『もう教えることはない』って感じです」


 いやホントに。やけに習得が早いなーって思ったら、美琴さん、英語ペラペラらしいし。

 もう、読む方に関しては、記憶を同期してる翔子より上じゃないかな……


 コンコン


「あ、はい」


「私だ」


 また『お前だったのか』をグッと堪える。

 声の主が智沙さんなのはわかっているので、別にふざけても大丈夫なんだろうけど、きょとんとされるのは目に見えてるので……


「どうぞー」


 と美琴さんが部屋の扉を開けると、


「チョコちゃん、よく来たな!」


「うわっ、館長さん!?」


 いきなり館長さんに抱きつかれた。相変わらずスキンシップが多い人よね。

 後ろに控えている智沙さんはポーカーフェイス……ちょっと呆れてる感じかな?


「本当に一瞬で来れたんだな?」


「はい。まだ信じられませんが……」


 美琴さんがそう言って私の方を見るんだけど、私がここにいるのは事実だもんねえ……


「ワフッ!」


「ヨミちゃん!」


 館長さんが私の拘束を解き、足元のヨミを抱え上げる。

 うん、まあ、知ってたけど、デレデレすぎじゃないかな。


「えーっと、今日はまたなぜ?」


「御前が二人が来るのを気にして、何かあったらと落ち着きがなくてな」


「落ち着きがないとか言うな! ああ、ヨミちゃんに怒ったわけじゃないからな〜」


 怒鳴る館長さんにヨミがビクッとして、館長さんが慌てて弁解する。智沙さんは怒鳴られても平然としてるんだよね。本気で怒ってるわけじゃないからだろうけど。


「それはそれとして伝えておきたいことがある。少し時間はいいだろうか?」


「あ、はい。大丈夫です」


 終業時間まであと一時間弱あるし。月末に来る時の話かな?

 美琴さんの部屋はちょっと手狭なので、転移してきた私たちが泊まってた部屋へ移動。


「この部屋は翔子ちゃんとチョコちゃん専用にしたから、いつでも遊びに来いよ?」


「え、いいんです?」


「二階は白銀の館の社員寮ってことになりました」


 それは良いんだけど、私たちってほとんどこっちに居ないんだけどいいのかな。

 とはいえ、白銀の館の仕事ぐらいでしか東京に来ないだろうし、その度にここに泊まることになるんだろうからいいのかな。


「私も隣の部屋に引っ越している」


 と智沙さん。

 普段は館長さんのボディーガードが主業務になったそうで。美琴さんが秘書してるのと同じかな。


「さて、自衛隊の調査は八月頭に正式決定したそうだ。翔子君たちはその三日前には来てくれるだろうか?」


「了解です」


「うむ。来てもらった翌日に第六階層までを一通り確認しておきたい」


 これもまあ想定内。


「自衛隊の調査は詳細なものではないと聞いているし、それが終わったところで六条が工事を始める予定だ」


「工事ですか?」


「おう。今の入り口に扉をつける予定だ。歴史遺物って扱いにして一般人は立ち入り禁止だな。本格的な調査はうちがやるってことになってる。

 今空いてる穴をそのまま大きな地下ホールにして、その上は公園にでもするつもりだ。ま、しばらくは工事が続くけどな」


 と館長さん。

 もし万一、ダンジョンから魔物が出てきたとしても、その地下ホールで食い止めるというか、時間稼ぎができるって考えかな? 上を公園にするのも、まあ人が居付くような場所にはしない感じだと思うし。


「翔子ちゃんたちには、三ヶ月に一回ぐらい下の様子を見て欲しいと思ってんだが……どうだ?」


「あ、はい。もちろんやります。で、それに絡んでちょっと相談が……」


 月末こっちに来てから話そうと思ってたけど、こっちに来て館長さんがいるなら、先に相談しとくほうがいいよね。翔子もそう思うはず、っていうか私が思ってるなら間違いない。

 なので、絶賛封印放置中の第七階層以降について、私たちの考えを話し始めた……

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