43. 翔子と魔法陣

「こんなとこ?」


「かな。わざと怪我して治癒を掛けるのは嫌だし」


 魔石の浄化だけ試して放置してた神聖魔法、光盾、聖域結界、加護と試してみて、問題なく発動できるのは分かった。けど、効果があるかどうかは魔物相手にしないとなんだよね。

 トレモとかないかな。ダメージ値とか出たりすると嬉しいんだけど。


「ヨミ、ありがとね」


「ワフ〜」


 チョコに撫でられてご満悦のヨミ。かわいい。

 部屋に戻ってレポート書かないとかな。神聖魔法の検証は今できることは一通り終わったことだし、そろそろカスタマーサポートさんに送らないと。


「片付けしてるから、先に行っていいよ」


「うん、ありがと」


 訓練室の後片付けをチョコに任せ、ヨミと一緒に魔導人形部屋へと戻る。

 こっちの部屋には床に薄い溝を掘って、電源とLANを通すことに成功した。ひょっとしたら、ダンジョンの自己修復機能ですぐダメになるかもと思ってたけど、今のところは大丈夫そう。


「ワフ〜」


 ヨミはクローゼット脇に置いてある籐籠ベッドにダイブ。神聖魔法の検証の手伝いでちょっと疲れてるのかも? その辺も気になるところ……

 ノーパソを開き、スリープを解除したところで、社内チャットで呼ばれてたことに気がついた。呼ばれてるというか私宛。


『@shoko 八月頭に自衛隊が都内ダンジョンの地下一階を確認することになりました。その前にもう一度、危険がないか巡回して欲しいんですが可能ですか?』


 なるほど。何も起きないし、撤収して埼玉の方に注力したいけど、そのためのアピールは必要だからって感じ?

 特に問題は……あ、ヨミってどうしよう? 新幹線ってペット乗せていいんだっけ?

 ささっとググると……これはちょっとヨミが可哀想な感じ。となると、高速バスとかかな? それもちょっと……


『私とチョコは大丈夫なんですけど、ヨミがペット扱いで新幹線に乗るのは可哀想かなと。というか、これから大きくなったら乗れなくなっちゃうし……』


 そう返事を書いて送信したところでチョコが戻ってきた。


「どうしたの?」


「ん、これ」


 どれどれとチョコがノーパソを覗き込んで唸る。

 今回は良くても、毎度この問題に対処しないといけなくなるのは面倒なんだよね。とはいえ、私たちはこの蔵の地下を長い間放っておくわけにもいかないし。


「困った時のカスタマーサポート……賢者様はどうかな? とりあえず聞いてみて損はないと思うけど」


 ヨミが窮屈な思いをしなくていいってだけなら、何かしら方法はあるかも?

 それこそ、見た目以上に中身が広いようなキャリーケースとか魔導具であったりしないかな?

 と、社内チャットに反応が。


『そうですね。私が車で迎えに行きましょうか?』


 その発言に私とチョコが青ざめる。美琴さんの運転が上手いのは知ってるけど……

 東京からの帰りは智沙さんがいたし、ハンヴィーだったので安心感があったけど、美琴さんだと「それ頭文字がDなやつで見たことある!」みたいな車で来そうで怖い。


『カスタマーサポートさんに相談してみます』


 速攻で打ち返す。待て待て、時に落ち着け。


『大丈夫だ。御前から許可をもらって私が迎えに行こう』


 と智沙さんから発言があって、二人してホッと胸を撫で下ろす。

 美琴さんが『どういう意味ですか!』とかぷんすこしてるけどスルーしとこう。

 とはいえ、毎度毎度迎えに来てもらうのもどうなの? って感じなんだよね……


『ありがとうございます。一週間前にはどうするか決める感じで』


 まだ七月上旬だし、下旬になるまでに何かしら美琴さんや智沙さんに頼らない良い方法が見つかると良いんだけど……


***


「転移魔法陣?」


 チョコがそう言って一メートル四方のラグみたいなものを広げる。

 ヨミをペットケースに閉じ込めて移動したくない問題を相談したら、転送の引き出しに八つ折りでギリギリ押し込まれた状態で送られてきた。

 ラグっていうかマットかな? 綺麗な魔法陣が書かれてて、インテリアとしてもポイント高い……ってそうじゃない。

 一緒に送られて来た手紙には使い方の簡単な説明が書いてあった。


「うん。簡易設置型だって。くれぐれもそっちの世界で公にしないようにって釘刺されてる」


「そうだよね。本当にこれで瞬間移動?できるんだったら、とんでもないことになるし。悪用されたら大変なことに……」


「きゃー! チョコ太さんのエッチー!」


「なんであの子、いつもいつもお風呂入ってるんだろうね」


 そんなことを言いながら、それを床に敷こうとして……手を止める。


「直接敷くのなんか嫌?」


「うん、さすが私。ちょっと蔵からレジャーシート取ってくる」


 日本人の感覚なのかな。ここって基本土足だけど、部屋の中はスノコに絨毯でも敷いて土禁にしたくなってきた。

 それは良いとして、説明の続きを読む。四隅にあるピンポン球サイズの魔晶石には青の魔素が充魔されていて、一回の転移につき一個分を使うらしい。

 青の魔素を持つ人はすごく珍しいらしいので、使い切ったら、送り返してくれれば充魔するよって書かれてたけど……


「戻り。ってどうしたの?」


「ん、この魔晶石に青の魔素を充魔してそれを使うらしいんだけど、こっちで再充魔できないかなーって思って」


「ああ、翔子の魔素がストライプだったから、青だけ出せればワンチャン?」


 チョコが私が思っていたことを口にしてくれる。

 あの三色出ていたのを、自分の意思で一色だけ出すように出来ないかな?


 プルルルル♪


「っと、美琴さんかな。向こうは準備できたっぽいし、こっちも進めましょ」


「おけ」


 設置をチョコに任せて社内チャットの通話呼び出しに応答する。

 青歯のヘッドセットはここだと何故かうまく動かないので、ノーパソのマイクとスピーカーで我慢。


「お疲れ様です。あ、聞こえてます?」


『はい、大丈夫です。お疲れ様です』


「こっちの準備はもうすぐです。そっちはどうです?」


『こちらは終わってます。前にお二人が泊まった部屋の真ん中に設置しました』


「了解です」


 向こうにも同じものが送られてて、それを同様に設置する必要があるらしい。この二つを行き来できるとのこと。

 チョコがレジャーシートの上に転移魔法陣を設置し終わり、サムズアップして準備オッケーを伝えてくれる。

 さて、最初はチョコだけでも良いんだけど、カスタマーサポートさんはヨミは経験があるから平気ですよと言ってたので……


「ヨミ。チョコと一緒に、美琴さんとこにおつかいに行ってきて」


 かしこかわいいので、そう伝えるだけでチョコへと駆けていくヨミ。


「チョコ、ヨミ、行きまーす!」


「ワフー」


 靴を脱いで手に持って魔法陣の真ん中へ、ヨミもそれに合わせてついて行く。

 カスタマーサポートさんからは「少しでも不具合があれば、使用者の安全を優先して転移は動作しないので」と聞いている。まあ、大丈夫だろうとは思うけど。

 二人が十秒ほどじっとしていると、ゆっくりと淡い光が湧き上がって体を覆い……


『翔子さん! チョコさんとヨミちゃんが!』


「二人とも大丈夫そうです?」


『大丈夫だよー』


『ワフ!』


 向こうのマイクの遠いところから聞こえてくるチョコとヨミの声。

 ほっと一安心なんだけど、なんかもう魔法があれば他いらないって感じになるよね……

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