31. 翔子と派遣ギルド

 休憩を終えて第五階層に降りると、そこも雑草に埋もれた部屋。


「うーん、またこれか……」


「草草草」


「んもー」


 草刈り機欲しい。実家の蔵にあったよね。

 というか、魔法でなんとかできないかな……とか考えてたんだけど、


「二人とも少し動かないでいてくれ」


「え?」


 智沙さんがしゃがみ込んで地面を調べ始めたので、私たちは言われるままにフリーズ。

 その隣にゼルムさんもしゃがみ込んで、そっと雑草をかき分ける。


「人の足跡だと思う。こういう靴は一般的なのか?」


「ああ、斥候役が良く使う革靴だな」


 なんかプロっぽい話をしてるので静かにしてよう。

 二人がそれを追いかけていくと、部屋の左手にある通路の方へと繋がっている様子。


「進もう」


「「はい」」


 チョコが右手にLEDランタン、左手に大盾ラージシールドを構えて先行する。

 自然と早足になってるみたいだけど、油断してる感じはないかな?

 上の階とは逆向きに進んでいくと、地図の通り中間地点の部屋の明かりが……あれ? 見えてこないんだけど。


「ねえ、これ何?」


 チョコがランタンをかざして照らした先は、樹木が編み込まれて通路をみっちりと蓋している。

 このサイズ、手で編むようなことは無理だと思うし、自然にこうなったっていうのも違和感が。


「これは精霊魔法だな。嬢ちゃん、ちょっと変われ。少しうるさくするぞ」


 ゼルムさんがそう言ってチョコの前へと出る。


「おーい! 誰かおるか! ドワーフのゼルムだ!」


 声でかっ!

 バリトンボイスってこういうのだっけ?


「坊やそれは狭霧じゃ〜って歌って欲しい」


「それだと魔王じゃん」


 コソコソとそんなことを話してると、壁の向こうから足音が聞こえてくる。

 人だよね? 魔物だと洒落にならないんだけどとか思ってたら、チョコが大盾ラージシールドを構え直してゼルムさんの脇へと進む。

 一応、私も腰の魔導拳銃に手を伸ばしておく。セーフティーはかけたままでいいかな。


「ゼルムさんですか!?」


「おう。その声はダンか!」


「はい! 今、開けます!」


 開けるってこれを? と思う間も無く、編まれてた樹木がスルスルと解けて消えた。

 ゼルムさんが精霊魔法とか言ってたけど、こんなことできるの!?


「どうやら無事のようだな、ダン。二人はリウイとリーシャだったか」


 そう声をかけられたのは背の高いイケメンにーちゃん。その後ろに二人の女の子。

 イケメンは二十歳半ばぐらい? 智沙さんと同じか少し下ぐらいに見える。女子二人は私と同い年か少し下かもって感じ。


「ゼルムさん、上の階にでかいレッドアーマーベアがいたと思うんですが……」


「ああ、それならこの嬢ちゃんらが倒したぞ」


 その言葉に「信じられない」みたいな目線が飛んでくるんだけど、そういうの苦手なのでやめてもらえませんかね?

 うん、とっとと話を逸らそう。


「それはいいので。ここにいるのは何人ですか?」


「え、えっと五人で、俺と兄弟たちです。その……俺たちを助けに来てくれたってことで間違ってないかな?」


「ああ、そうだ」


 智沙さんが引き継いでくれたのであとはおまかせ!

 そのまま怪我人、病気の人間がいないかを確認や、食糧事情などをゼルムさんを交えて話し始めた。

 ざっくりと部屋を見渡すと、上の階と同じで果実をつけた樹が数本。熊と同じでアレを食べて凌いでたのかな。


「不思議に思ってたんだけど、あの果実ってすぐになるものなの?」


「さあ? ダンジョンだからなんでもありじゃない?」


「なるほど」


 全然関係ありませんでした。単純に保存食を多めに持ち込んで来てたかららしい。

 第四階層以降に潜っていった人たちは、早々に第六階層まで到達し、例の『神樹』のところをベースキャンプにして第七階層以降に挑む予定だったんだとか。

 で、彼らが持ち回りの荷物番をしてるときに異変が起きたらしい。


「なら、なぜお前さんらはここにおる。神樹のある部屋で待っていた方が良かろう」


「部屋が真っ二つに分断されると同時にブラッドホーネットが現れたんです。それで慌てて報告にあがろうと思ったら、上の階にはレッドアーマーベアが……」


 前門の蜂、後門の熊?

 ブラッドホーネットって何だろ。スズメバチの魔物なんだろうなーぐらいの想像はできるけど。

 あと、あの熊はやっぱ強いのか……


「それからずっと下は見にいっておらんのか?」


「いえ、毎日確認には行ってます。今ちょうどデニスとリタが偵察に出てますが、ブラッドホーネットが厄介で……」


 そう申し訳なさそうに話すイケメン。

 どう考えても一匹じゃなさそうだもんね。数十、いや数百かも?


「翔子君、チョコ君、偵察にいった子らを迎えに行こう」


「「はーい」」


 ついでにブラッドホーネットやらも見ておきたい。

 先へ進むなら倒さないといけない相手なんだろうし。


「少し待ってください。私も行きます!」


 イケメンはそう言って妹二人に撤収準備を指示。

 ゼルムさんも手下のドワーフさんたちにそれを手伝うよう言い渡している。


「今日はブラッドホーネットとかいうの見て終わりかな?」


「そうなりそうね。まだ午後一時前とかだけど」


「スズメバチ相手に準備なしはキツいよね?」


「だね。なんかこう殺虫剤っぽいので対応できたりしないかな?」


「うーん、こっちの薬が効く気がしない……」


「あー……」


 そんなことを話してるとイケメンの準備も終わった模様。

 さっきは持ってなかった大剣を背中に背負っている。

 これを振り回す膂力があるんだろうけど、それならレッドアーマーベアに勝てそうな気がするんだけど。


「ダン、先導してくれ」


「はい」


 並んで進み始める二人なんだけど、大剣の大きさが明らかにゼルムさん以上あってじわる。

 そういえば、ゼルムさんはイケメンのことを知ってたっぽいよね。とチョコが疑問を投げかけてくれる。


「ゼルムさん、知り合いなんですよね?」


「ああ、すまんすまん。ダンたちはワシが住んでおる街の出身でな。今じゃ、覇権ギルドでも期待の新人パーティーだ」


「いや、そんな期待されるほどじゃ……」


 と謙遜するイケメン。いや、それよりもですね。


「派遣ギルド?」


 何それ? 人材派遣してるギルドなの? とか思ってたら、


「ん、ああ、そうだったな。『未来の覇権』という名の大きいギルドだ」


 と修正してくれた。ハケン違いなのね。

 ん? この違いは日本語だけな気がするんだけど……気にしないことにしよ。


「あの、ゼルムさん。この三人の美しいお嬢さん方は?」


「ああ『白銀の館』のギルドメンバーだ。お前さん、妙なことは考えるなよ?」


「はっ、はいっ!」


 え、何そのやりとり? すっごい気になるんですけど??

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