32. 翔子と神樹

 屋敷へと戻ってくると、チョコがヘルプを求める目線を飛ばしてきたので、助け舟を出した。


「すいません。チョコと話があるので、先に応接室にいますね」


「あ、はい」


「彼らは私とゼルム殿に任せてくれ」


 智沙さんがわかってる感あって鋭いなあと。

 ともかく、そそくさと本邸の方に入って応接室へ。

 いつものソファーに座り込んだチョコが、


「疲れた」


 そう言って左手を出す。隣へと座って右手を合わせる。

 屋敷への帰り、私は美琴さんと助手席。

 チョコは目立つのもあって、ゼルムさんたちドワーフ、救出したイケメン兄弟と一緒に車両後部に乗ったんだけど……


「ああ、なるほど。探索よりも帰りの質問攻めに疲れたのね」


 私たちが『白銀の館』に所属していることを、イケメン兄弟の女子たちに質問されまくった模様。

 特にチョコが『永遠の白銀』姿だったことで、


「チョコさんは『永遠の白銀』を継承されたんですか!?」


 というような質問が……


「継承って何?」


「一子相伝とかなんじゃないの?」


「世紀末白銀伝説」


「テーレッテー」


 あぐらをかいて座りたいところだけど自重。

 オタトークをしたせいか、チョコも少し落ち着いた感じかな?


「アレ、どうするか考えた?」


「んー、まあいくつか考えたけど、どうだろ……」


 チョコの言うアレとは、第六階層の例の『神樹』に巣を作っていたブラッドホーネット。

 イケメン兄弟の弟と妹を迎えに行くついでに、そのブラッドホーネットを見に行ったんだけど、結論としては「準備しないと絶対無理」な相手だった。


 第六階層への階段を降りると、そのまま真っ直ぐ道が続いていて、その先には草原が広がっていた。天井もかなり高くて、多分、第四と第五の高さ分が吹き抜けになってるっぽい。

 ダンジョンがこちらの世界に飛ばされる前は正方形だったのかな? でも、飛ばされたせいで壁で縦に半分に切られた状態に。


 で、真ん中にあった『神樹』も半分になってしまっている。

 何を言ってるか以下略って感じだけど、遠目に見ても幹の直径が十メートルはある大樹が壁で半分になってしまっている。

 残り半分は埋まってる? いや、元の世界にあるのかな?

 近寄りたいところだけど、遠目に見てわかる大きさのスズメバチの巣がぶら下がっていて、周りにはその巣の住人が飛び回っている。

 ブラッドホーネット一匹の大きさは人の頭ぐらいらしい。

 普段はネズミやウサギを襲う魔物だそうだけど、巣に近づくと当然のように攻撃してくるそうだ。


「あの部屋の端ギリギリを迂回すれば襲ってこないかな?」


 第七階層へは部屋の反対側に階段への通路があるそうなので、ブラッドホーネットをスルーするっていう選択肢もありっちゃありなんだけど。


「途中まで大丈夫でも、部屋の真ん中付近で襲われたらやばくない?」


「あー、そっか……」


 ぐったりとソファーにもたれかかるチョコ。

 そこでちょうどメイドさんがやってきて、アイスコーヒーを置いて去っていった。ちゃんと話が切れるタイミングとか見計らって来てるのかな?


「翔子はアレを倒す方向で考えてるんだよね」


「倒すっていうか駆除?」


「確かに巣ごと処分しないとダメそうだよね」


 可能なら焼き払いたいところだけど、そうすると神樹が燃えちゃいそうで罰当たりな気がする。

 なんとかして神樹には傷をつけず、蜂を全滅させた上で、巣も綺麗に駆除したい。


「殺虫剤は効かなそうだったけど、そうなると各個撃破しかない感じ?」


「スズメバチってすごいスピードで飛ぶし、当てられる気がしないんだけど」


「対空砲っぽい使い方ってその銃でできない?」


「あー、近接信管か……」


 どうにかしてブラッドホーネットの近くで破裂し、衝撃波でも散弾でもばら撒ければワンチャンありそうな気がする。

 そんなことを考えていると、


「翔子さん、チョコさん、お待たせしました」


 美琴さんと智沙さんが来て、向かいのソファーに着席した。

 今日は館長さんは不在なのでまとめだけ。とはいえ、私が帰りにだいたいは話しているので、あとは明日どうするかというところだけど。


「あのイケメン兄弟たちは大丈夫でした?」


「いろいろと驚いていたようだが、ゼルム殿が世話を焼いていたので問題ないだろう」


 とのことで一安心。

 正直、一番最初にゼルムさんたちを救助できたのは大きかった気がする。あの人、ぱっと見でわかるぐらい良い人だし。


「それでは報告の方をまとめましょうか」


「うむ。概ね翔子君の話した通りだが、私の方からおさらいしておこう」


 智沙さんが律儀に今日の出来事をおさらいしてくれる。

 私はそれを聞きつつ、近接信管での対空砲が実現できた時の戦術を考えていた。


 ………

 ……

 …


「人の頭ほどの大きさがあるスズメバチですか……」


 美琴さんがそれを想像して身震いする。

 私もあれが目の前に来たら、ちょっと卒倒しかねない。


「スズメバチということは毒針があるのだろうな」


「そうですね。ゼルムさんがそんなことを言ってました。麻痺毒っぽい感じですね。動けなくしてから……だそうです」


 巣にお持ち帰りされて咀嚼されちゃうんですね。わかります。


「しかし、厄介だな。あれを迂回は難しいだろうし、駆除する他なさそうだが」


 と私たちを見る智沙さん。何か対処を思いついてないかという感じ。

 私とチョコがさっき話してた内容を伝えると、


「ふむ。ひたすら相手を撃ち落とし続けるということか……」


「危険はないんですか?」


「まあ、普通に歩いて行ってそんなことしたら四方八方から囲まれてアウトだろうけど、通路に陣取ってならなんとか?」


「鉄砲狭間って言うんだっけ? そういうのを作って一方的にやれれば、万一の時も撤退できるから良いかなって感じ」


 ブラッドホーネットがどれくらいの圧で向かってくるのか不明だけど、石壁の魔法とかで防げると思いたい。


「そうなると明日すぐというわけには行きませんよね?」


「うん。まずはこの戦術が通用するかをカスタマーサポートさんに聞かないとね。行けるとしても、今の銃だと近接信管な魔法はないので、向こうにお願いするしかないし」


「そうだな。いずれにしてもブラッドホーネットの件は伝えた方が良いだろう。既に安全な駆除方法が確立しているかもしれない」


 あ、うん、確かにそうでした。

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