15. 翔子と状況報告
私の手を離した館長さんは、続いてチョコの方を向く。
「チョコです。よろしくお願いします」
「よろしくな!」
同じようにチョコの手を取って握手をし、そのまま両手でチョコの手のひらをぐりぐりと触っていたかと思うと、その手を目の前に持ってきてじっくりと見る。
うん、気持ちはわかるんだけど……
「館長」
「ん、ああ、わりー」
そう言って手を離すものの、今度は顔をじっくりと覗き込む。
で、さっき言われたことをもう忘れてるのか、チョコのほっぺを指でつんつんし始め……
「館長!」
「翔子ちゃんの双子の妹とかじゃねーよな?」
それ前に美琴さんも言ったやつです。
二人は双子、似てない双子っていうフレーズが脳内に再生される。
「そろそろ話を始めたいんですが?」
「わーったよ。ごめんな、チョコちゃん。どーしても普通の人にしか見えねーからよ」
全く悪気もなくニッコリとそう言われてしまうと、チョコも怒るに怒れないというか、そもそも怒れない相手だけどさ。
館長さんは一人がけの大きなソファーにどっかりと腰を下ろし、お茶請けの煎餅をバリバリと食べ始めた。なんというか豪快だけど絵になる感じ。
美琴さんは呆れ顔だが、向かいにあるソファーへと腰を下ろしたので、私たちも座りなおす。
「で、状況はどうだ?」
「今朝向こうから届いた手紙ですが、別紙に捜索対象の一覧が載っているそうです。ただ、それは私には読めなくて……チョコさん、お願いできますか?」
「はい。大丈夫だと思います」
チョコが答えると、美琴さんが皮のバインダーに挟んであったそれを渡してくれる。A4用紙ぐらいの紙が二枚。捜索対象はそれなりの人数いるっぽい。
チョコは手に取ってそれを眺め、
「うん、読めます。多分、翔子もこの右側は読めるんじゃない?」
「ん?」
そう言われて指さされた先を見ると、向こうの文字で『魔術士』とか『エルフ』とか書かれていた。名前はともかく一般名詞なら『白銀の乙女たち』で習ったのである程度読める。
「この人がドワーフで、この人は魔術士だよね?」
「合ってる合ってる」
美琴さんがほっとした感じだけど、館長さんが興味深そうにこちらを見ている。
「ちょっと貸してくれ」
「あ、はい」
とチョコが一枚目を渡すと、それ見た館長は、
「これ向こうの文字か?」
と。館長さんは日本語でしか手紙を受け取ったことないのかな?
まあ、向こうの世界の文字がこっちで必要になることは無いか。
「そうです。私は向こうの文字は標準で読めるので」
「翔子ちゃんが読めるのはなんでだ?」
「私とチョコは記憶が同期できるので、チョコが向こうの言語を読んで、日本語で理解した記憶を私が受け取ってってやって学習しました」
そう答えると、館長さんは一瞬だけ驚いた顔をしたが、次の瞬間面白そうに笑う。
え、えーっと、これはどういう反応なの?
「翔子ちゃん、すげーな! あたしだったらそんなこと思いもしないぜ? なあ、美琴?」
「はい。普通はできる人に任せてしまうと思うんですが」
そう言われればそうかも……
いやいや、あの蔵書部屋の本の数を考えれば、二人で読めた方が良いって考えになるのは普通だよね?
「え、えーっと、これは翻訳するとして、この人たち全員が捜索対象ですか?」
「あ、いえ、大陥没の下に転移してきたダンジョンに潜っていたと思われる人たちなんですが、そのダンジョンの全部がこちらの世界に来たわけじゃないそうなんです」
「「え?」」
私とチョコが声を揃えて驚くのを見て、館長さんが面白そうにしている。
中身が同じなんだからしょうがないでしょ……
「ダンジョンがどれくらい深いのかわからないんですが、少なくとも地下三階までは、こちらの世界と向こうの世界で分断されてしまっているという話ですね」
「えーっと、このリストに書かれてる人は、こっちにいるかもしれないし、あっちにいるかもしれないってこと?」
「その通りです」
とりあえず、助けた人をチェックして向こうとすり合わせて行くしかないかな?
「その地下三階より下はどうなってんだ?」
「今のところは不明だそうです。向こうでも捜索を始めているそうですが、まだ始めたばかりだそうです」
「ふーん、じゃ、そこから下はどうなってんのかもわかんねーってか」
館長さんが渋い顔で腕を組む。
それにしても、向こうとこっちで泣き別れになってるっての、本当に大丈夫なのかな?
その次元の境目みたいなとこに行ったら戻ってこれないとかは勘弁して欲しい。けど、そうそう悠長なことも言ってられないんだよね。
「気にはなりますけど急がないとですし、明日から潜るでいいんですよね?」
「んー、しゃーねーな。けど、チョコちゃん、無理はすんなよ? 二次遭難はしゃれんなんねーからな?」
あれ? 館長さん、チョコだけが潜ると思ってる? いやまあ、私も潜るとは普通思わないだろうけど。
「あの、翔子と二人で潜るつもりなので」
「「は?」」
今度は館長さんと美琴さんの二人がハモる。
えーっと、私が『俺ツエー』状態になってるのって、美琴さんにも伝わってない? カスタマーサポートさんから伝わってると思ってたんだけどなあ。
「いやいや、一般人にそんな危険なとこ行かせらんねーだろ!」
「そうですよ、翔子さん!」
「えーっと、カスタマーサポートさんから話が届いてないみたいですけど、私も一緒に潜ることになってますし、そのための訓練もしてますから」
そう答えるも二人の目が……信じてくれてない雰囲気満々で辛い。
こういう時は証拠を見せる方が早いよね、とチョコを見ると持ってきてくれてたカスタマーサポートさんからの手紙を取り出してくれる。
「えーっと、これ確認してください」
チョコがローテーブルにその手紙を置くと、それを美琴さんが手に取って読み始めた。
読み進めるに従って、その表情が驚きに変わっていく……
「本当なんですか? 翔子さんがその……勇者って言われるぐらいに強くなってるって」
そう言いつつ、手紙を館長さんに回す。
館長さんもそれを読むが、驚くというよりは渋い顔をして、手紙をテーブルへと放り置く。
「まあ、わかったけどよ。翔子ちゃん、本当に強くなっただけなのか? どっか調子悪くなったりはしてねーのか?」
「はい、全然」
「ふーん、ならいいけどよ……。じゃあまあ、揃って潜るのはいいが絶対に無理はすんなよ?」
「「はい」」
会ったばかりの館長さんだけど、本気で心配してくれてるようで嬉しい。
じゃ、明日の詳細な予定をと思ったんだけど、
「美琴、智沙を呼んでくれ」
「はい」
あれ? まだ関係者いるの? 白銀の館って社員は館長さんと美琴さんの二人じゃなかったっけ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます