16. 翔子と智沙

 美琴さんがその『智沙』さんを呼びに部屋を出て行ってしまい、館長さんと三人……実質二人だけになってしまった。

 その智沙さんには白銀の館の秘密は話していいのかな? 呼ぶくらいだからいいんだよね?


「ん、ああ、智沙はうちの警備会社であたしのボディーガードをしてくれてる子だ。向こうの話とかは知らねーけど、特に説明しなくても大丈夫だから安心していいぜ」


「は、はい。えーっと、ひょっとして明日一緒に?」


「ああ、そうだぜ。さすがに一人で潜らせるわけにもいかねーだろと思ってたしな」


 確かにそうだよね。

 美琴さんがついてくるとは思ってなかったけど、腕っぷしの強い人が記録係的なポジションでついてきてくれるなら、それはそれで助かるかな。

 と、部屋の扉が開いて、美琴さんとその後ろに背の高いキツめの美人さんが現れる。


「おう、座れ」


「はい」


 めっちゃ体育会系な感じのお姉さん。三十前後ぐらいかな?

 美琴さんの隣に座ると凸凹がすごい。


「このでけーのが白井智沙だ。明日、翔子ちゃん、チョコちゃんをサポートしてくれるからな」


「「よろしくお願いします」」


「うむ、よろしく。私のことは智沙と呼んでもらって構わない」


「え、えーっと、じゃ、智沙さんで」


 その答えに少し嬉しそうな顔をする白井さん……智沙さん。

 もっとこう「こんな小娘二人を連れて行くのか?」的なお約束になるかと思ったんだけど、館長さんの前だからかな?


「智沙、明日の段取りを説明しろ」


「わかりました」


 智沙さんも美琴さんと同じ皮のバインダーを持っていて、それを開くと淡々と明日の予定を説明していく。

 午前九時過ぎにここを出発。十時前には陥没現場に到着して探索を開始。明日は初日ということもあって、午後三時には地上に戻って撤収というのが大まかな予定だそうだ。


「明日はどれくらい捜索するんだ?」


「自衛隊と同じ程度を考えています」


 その返答にやや不満げな顔の館長さん。もっと進むと考えてたっぽい。

 それを察したのか、智沙さんはバインダーから折り畳まれた紙を取り出して、ローテーブルの上に広げる。


「これが二週間前に陸自が探索に入った際に作成された第一階層の地図です」


 ちょっ! なんで、そんなものがここに!?

 と思ったけど、私とチョコ以外は至って冷静。軍事機密(なのかな?)ぐらいで驚くことでもないのかな。


「あまり探索が進んでいないみたいですね」


「地下の通路が分岐していることをあまり想定していなかったようです」


 自衛隊の人たちはどうやら通路の幅が広い部分を進み、分岐した枝葉の道は見える範囲でしか記述していない感じっぽい。

 確かにこういう枝葉の道も全て確認して行くとなると、地下一階を埋めるだけでもかなり時間がかかりそうな感じ……


「そこのばってんがついてんのがあれか?」


「はい。未確認生物と遭遇した地点です」


 印がついている箇所は入り口から結構遠く離れた場所。

 縮尺表示からすると百メートルもないぐらい? 確認しながら進んでたんだとは思うけど、正直あんまり進んでない気がする。


「わーった。まあ、気をつけてくれよ。無理だと思ったら撤退しろ」


「了解です」


 智沙さんが敬礼しそうな勢いで返事をし、館長さんは満足げに頷いた。

 と、急に私たちの方を見て、


「翔子ちゃんとチョコちゃんから質問はねーのか?」


 私たちからは特にないことを伝えると、館長さんは満足げに頷く。


「よし、じゃ、明日はよろしく頼むぜ!」


「「「「はい!」」」」


***


 その後、智沙さんは自社へと戻っていった。明日は私たちを迎えに来てくれるとのこと。

 館長さんは都内の陥没のことで政府の偉い人と会わないといけないと出ていった。


「せっかく翔子ちゃん達と飯にしようと思ってたのによ」


 とか愚痴っていたのが印象的だった。子供みたいな人だなって……


「美琴さん、秘書なのについていかなくていいの?」


「はい。翔子さんとチョコさんがこちらにいる間は、お二人のサポートをするよう言われていますし、館長の秘書も私一人というわけでもありませんので」


 とのこと。正直助かります。

 さっき話してた本邸から奥へ行くと別邸があり、こっちもそれなりに大きい。


「こちらの部屋をお二人で使ってください」


 そう言って通されたのは二十畳はありそうな客室。

 入り口横に持ってきたキャリーケースが置かれているのを見て、気になっていたことを思い出す。

 美琴さんに聞いておかないと、と思ったけど、まずは確認。


「えーっと、例の話はここでしても大丈夫?」


「はい。二階には私と翔子さんたちしかいないので大丈夫です。あ、でも、一応、扉は閉めておきますね」


 一階は食堂と本邸にいたメイドさんや料理人など数名、あと運転手をしてたお爺さんが住んでいるんだとか。

 二階は美琴さんと館長さんのごく親しい人だけが泊まれるらしい。私の扱いがいきなり『ごく親しい人レベル』になってるのはちょっと驚くけど……


「えっと、こっちでもカスタマーサポートさんが送ってくるものは受け取れるんですよね?」


 昨日、チョコのレポートに加えて、今日はもう東京にいることを伝えておいた。なので、もし私の装備が間に合うならこっちへ送って欲しいと伝えてある。


「なるほど。えっと、向こうから届くものは私の部屋で受け取れるんですが……」


「じゃ、ちょっと確認したいんですけどいいです?」


「は、はい。どうぞ……」


 あれ? ああ、部屋を見られるのが嫌だったのかな? でも、私も急に家に押しかけられたしおあいこだよね? チョコを見るとうんうんと頷いてるし、私の好奇心が何かあると感じてる!

 なので、そういうのに全然気づいてないふりをして、美琴さんの後ろをついていく。


「えーっと、散らかってて申し訳ないんですけど」


「大丈夫ですよー」


 ニコニコ顔でそう答えると、美琴さんは小さく一つため息をついてから扉を開ける。

 そこから見えたのは……大小のカーフィギュアがすっごい量あって、しかも綺麗に飾られている。


「うわ、すご……」


 フォーミュラーカーとラリーカーが並んでるし、レースカー専門かな?


「うう、子供っぽくてすいません……」


「別に謝ることじゃないと思う。私たちもこういうの好きだし」


 とチョコ。だよねえ。まあ、私たちの場合は車っていうよりは戦車かな? 戦車はいいぞ……

 それに私が東京に住んでた時の部屋みたいに、ゲームやアニメの円盤が片付けられずに散乱してるのとは大違いだし。


「こ、この箱です」


 話を元に戻すかのように部屋の隅に案内されると、そこには「どこのロープレだよ」っていう、それはそれは見たことあるような宝箱が置かれていた……

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