14. 翔子と絵理香
『まもなく東京です』
新幹線の車内アナウンスが流れ、気の早い人たちが荷物を棚から下ろし始める。
私とチョコが持ってきた荷物は小さめのキャリーケース一つ。お金と着替えだけ持ってけばいいよねっていう結論だったので。
「チョコ、東京着くよ。起きて」
「ん、うん……」
窓側の席で寝ていたチョコを起こす。
うちの蔵の地下にいる分には魔素を補充できるけど、そこを離れるとそういうわけにもいかない。
スリープモードが一番魔素消費が少ないので眠っていてもらった。
「もう着いたの?」
「うん、荷物お願い」
「オッケー」
私と違って寝起きがスッキリなのは魔導人形だからなのかな。ちょっと羨ましい。
スッと立ち上がったチョコ。銀髪を隠すためにパーカーのフードを被ってもらってるんだけど、隙間から見えてて目立ってないか気になる……
「ほい。どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
気にしてるの私だけかな。
土曜のお昼過ぎということで家族づれが多めだし、東京なら髪の毛の色が多少派手でも目立たないか……
五分もすると東京駅に到着。
チョコを連れて降りると、そこにはすでに美琴さんが待ち構えていた。
「翔子さん! チョコさん!」
「美琴さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です。土曜なのにすいません」
そういえば土曜だった。
あんまり仕事してるって気がしてないからか、今日が休みって気もしてなかったよ。
「えーっと、この後の予定は?」
「はい。まずは迎えを用意してますのでそちらへ」
ホームで立ち話続けてもしょうがないので素直について行く。
そういや、今日はどこに泊まればいいんだろ? 例の陥没の近くにビジネスホテルがあったし、あそこかな?
八重洲口を出て少し歩いたところで、駐車スペースにごついリムジンが停車しているのが見える。そしてそれに向かって進んでるということは……
私たちが近づいたところで運転手が降りて、後部座席のドアを開けてくれた。
「どうぞ」
「は、はい」
入った中は対面座席となっていて、私とチョコが後ろに、美琴さんが前へと座った。
「屋敷へお願いします」
『かしこまりました』
なんだかスイッチを押しながら話したということは、押さないと通じないぐらい遮音されてるんだろう。そして屋敷って何? 美琴さん、お屋敷に住んでるの?
「えーっと、これからどこへ?」
「館長が住んでる屋敷です。私も住み込みですし、翔子さんたちもこちらにいる間はそこでお過ごしください」
「え、マジで……」
チョコが思わず口にする。当然、私もそんなお高そうなところだと気が休まらないんだけど。
「はい。私も住んでいる別邸です」
「そ、そうなんだ。ちょっと高級なところは慣れてないんで、私もチョコもビジホとかでいいんだけど……」
「ごめんなさい。今回のことは極秘でもありますし、お二人に目をつけられても困るので」
私はともかく、チョコは確かに目立つか……
「わかりました。なんか粗相があったらごめんなさい……」
「大丈夫ですよ。ふらっとコンビニに行ってもいいですし」
コンビニって……それ屋敷の中にあったりするんじゃないのかな?
「それとこれから館長に会ってもらうんですが、かなり砕けた人なので礼儀作法とかは全く気にしないでください」
と苦笑いされる。
そういえば館長さんは最初にもらった名刺の人、六条の血縁者だよね? 会うことになるんだろうなーって漠然と思ってたけど。
「翔子、もうフード脱いでいい?」
「あ、ごめん。いいよ」
「ありがと。我慢できなくないけど、なんだか暑苦しくて」
そう言ってフードを脱ぐチョコ。
季節的にもパーカーはちょっと暑いだろうしね。
「すいません。目立たないようにしてもらってたのは助かりました。お二人が並んでると、双子のモデルなんじゃないかと注目されてたと思いますし」
「「いやいやいや」」
そんなわけないでしょ。
双子を見て不思議な気分になるのはともかくねえ。あと銀髪?
『まもなく到着します』
いつの間にやら目的地近くまで来てたっぽい。
車が一時停止し、そしてまた動き出す。豪邸にあるような門を潜ったのかな?
そして少し走ったのちに、
『到着しました』
との声がしてドアのロックが外れる音がする。
じゃ、降りるかなと思ったら、先に運転士さんにドアを開けられた。
「あ、ありがとうございます」
思わずお礼を言ったら、老齢の運転士さんがニッコリ。
これってチップとか渡さなくてもいいんだよね?
「翔子さん、チョコさん、こちらへ」
「「はーい」」
そう促され、チョコがキャリーケースを運ぼうとしたら「お預かりします」と運転士さんに奪われてしまった。運んでくれるってことなんだと思うけど。
「そちらは別邸の方へお願いします」
「かしこまりました」
「さ、行きましょう」
そう言われて見た先にはまさに豪邸という建物がそびえ立っていた。
***
「本物のメイドさん初めて見たね」
「だね。ヴィクトリアンだよ」
秋葉原にいるようなコスプレ系メイドじゃなくて本物のメイドさん。
すれ違う時にスッと道を譲って、軽く会釈をするのがとてもプロっぽい。
「こちらの部屋でお待ちください。館長を呼んできます」
通された部屋もすごく広くて豪華なソファーにローテーブルが置かれている。
多分、このセットだけで一千万とかしそうで怖い……
「座っていいのかな?」
「立って待ってるのも失礼そうだし、座るしかないんじゃない?」
「確かに……」
二人して浅く腰掛けたところで、メイドさんがカートを押して入ってきた。
うわー、すごーい、本物のアフタヌーンティーってやつだー……
と、入ってきた扉が大きな音を立てて開かれてビクッとする。
「よく来たな!」
大股で歩いてくるのは背の高いおばさま。
若い頃はさぞや美人だったんだろうっていう感じで、この人が館長の六条絵理香さんなんだろうけど、どこかで見たような……。あー、あれだ『恐ろしい子!』とか言う人に似てる。
先に冷静さを取り戻したチョコに肘でちょんと突かれ、私たちは慌てて立ち上がる。
「さ、雑賀翔子です! よろしくお願いします」
「おう! 六条絵理香だ。よろしくな」
ガッチリと握手したんだけど握力がすごい。
館長さんの後ろに立っていた美琴さんが呆れた風におでこを抑えてるけど、この口調は『砕けてる』とかいうレベルじゃないよね?
「館長。いきなり普段の口調はどうかと思います」
「いいじゃねーか。これから体張って仕事してもらう相手なんだ。家族も同然だろ?」
人懐っこい笑顔でそう言ってくれるのは嬉しいんだけど、その家族って『ファミリー』的な意味なんですかね……
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