13. 翔子と東京出張
魔導人形がチョコになって一週間ちょい。
そろそろ確認することも無くなってきて、次の次ぐらいのレポートは何を書けばいいのか悩ましくなってきた。
レポートは日報かなと思ってたけど、向こうもある程度纏まってる方が助かりますということで、一日おきに落ち着いた。
私としても、毎日はめんどくさいなと思ってたのでちょうどいいんだけど。
「今日はここまでにしよっか」
「だね」
ここ最近で一番大きな発見はチョコの、魔導人形のことではなく、今いる中学の体育館ぐらいの大きなスペース。
最初に地下を見つけたときに開かなかった地下二階の扉の先がここ。うちの蔵の大きさとか考えると、裏山の中がくり抜かれてできてるのかな? 山崩れとか起きないといいけど。
提出したレポートに「魔法を打つ場所が〜」的なことを書いて送ったら、地下二階の扉の先が訓練場ですよって返事が返ってきた。
チョコが取っ手を持たないと開かないようになってるとのことで、言われた通りにするとあっさりと開いた。
おかげで槍や短剣を投げたりとか、火球なんかの危険な魔法を放ったりとかもできるようになって、試せることは全部試せた感じかな?
その次の発見はやっぱり私がヤバくなってること。
確かにこれは『俺ツエー』かもしれない。意識すると発動するので、普段の所作に困ることはなかったのは安心した。
コップを掴んだら割れた、とかなると泣くと思う……
「もう剣筋とかも冷静に見れてる感じだよね?」
「一応ね。練習試合だって意識があるから冷静になれてるけど、本番でどうなのかちょっとまだ不安かな。それとさすがにこの格好でダンジョンはちょっと……」
「防具なし全裸プレイは厳しいよね。ネコ飯ド根性もないし」
メイン盾の『永遠』タイプに設定中のチョコは白銀の全身鎧と大盾を装備中。本当はこれに
対する私はジャージに木剣のみという間抜けな格好。チョコがタイプ設定で装備するものはどれも着れるけど、それをするとチョコがタイプ設定に失敗するっぽいので。
「カスタマーサポートさんが送ってくれるって言ってたけど、どこに届くんだろう?」
「それも謎だよね。あの引き出しに入るサイズじゃないと思うんだけど」
ダンジョンに潜ることになったら私も行くつもりなのを伝えたんだけど、別に止められることもなく「そういう運用を想定してましたので、そのための装備を送ります」って返ってきた。
「どんな装備が届くのか楽しみだね」
「うん、ちょっとね。でもまあ、人前で着れるような感じじゃないんだろうなー……」
あの引き出しに届くサイズならローブとかかな?
ハロウィンっていう時期でもないので、人前で着るのは避けたいところ。
「いいじゃん。私だけこの格好なのはやだ」
「銀髪に似合ってるよ?」
「似合ってても、これで街中は歩きたくないよ」
そんなことを話しながら片付けを終えて訓練場を出る。
先に魔導人形部屋へと戻ると、クローゼットの下にある転送の引き出しが着信アリになっていた。
「チョコ〜」
「はいはい」
「着信アリになってる」
「あれ? 向こうからなんて珍しいね」
転送の引き出しを開けるのはチョコの担当みたいになっちゃってるのでお任せ。
先に席についてレポートを書くためにノーパソを開いたところで、チョコが手紙を持って向かいの席についた。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
封蝋を割って開封した状態でそれを渡してくれる。
チョコも言ってたけど返事じゃなくて向こうから来るは珍しい。
多分、緊急の案件なんだろうなーと思いながら手紙を開いて目を通すと……
「うわ、これは確かに急ぎになるよ……」
「なになに?」
「例の都内の陥没、あそこのダンジョンに向こう側の人が取り残されてるんだって。多分、発生した時に潜ってたんだろうね」
「一緒に転移して来ちゃったんだ。大丈夫なのかな……」
陥没から二週間ちょい。そこそこ食料を持ち込んでるそうだけど、さすがにやばいよね。
水は魔術士さんがいれば浄水の魔法で出せるので、そこは大丈夫だと思うというようなことが書かれている。
「で、早いうちに救出して欲しいって」
「私たちで、だよね?」
「うん。こっちの世界の人にばれるわけにもいかないし、救出したら白銀の館で保護するみたい」
手紙には白銀の館の方にも連絡してあるので、連携を取って対応して欲しいとのこと。
これはいったん家に戻った方がいいかな?
「今日は金曜だし、レポート出す日だったよね?」
「うん。ちょっと書いてる暇が無さそうだけど」
「翔子はとりあえず家に戻って美琴さんに電話したら? レポートは私が書いておくから、話してきた方がいいと思う」
あ、そうか。チョコも私なんだから、代わりにレポート書いて貰えばいいんだった。
「わかった。じゃ、よろしく」
そう言って手を合わせて記憶の同期を行う。
よくよく考えると、この同期があるせいで私の身のこなしも良くなっているんじゃないかな?
蔵から出たところでスマホを取り出すと、着信履歴に美琴さんの名前が十五分おきに五件もあった。
向こうはもっと早くに気がついてて連絡しようとしてたっぽい。ごめんなさい。
というわけで掛け直すと、ツーコールを待たずに繋がる。
「もしもし、雑賀です」
『翔子さん!」
「ご、ごめんなさい。下は電波が届かなくて遅れました……」
すっごい待ってた感のある声が届いたので思わず言い訳をしたら、美琴さんが察したのか声のトーンを落として答える。
『こちらこそ何度もすいません。それで向こうからの手紙は読みました?」
「はい。で、どうすればいいか聞こうと」
『明日にもお二人でこちらに来てもらえますか?』
うん、人命かかってるし急ぐよね。
「わかりました。早朝に出るので昼過ぎには東京駅に着くと思います」
『ありがとうございます! 新幹線に乗ったら列車番号を教えてください。ホームに迎えに行きますから!』
「了解です」
要件は伝わったので通話終了。
細かいことは明日会ってからでいいだろうし、美琴さんもまだ仕事中のはずだし。
さて、明日いきなり行くわけだし、町子さんには伝えておかないとかな。
いつまで東京にいるかだけど、救出が終わらないと帰ってこれないと考えるべきだよね。一ヶ月ぐらい?
うーん、何を持っていかないといけないかとか話しておくべきだったかな?
チョコのタイプ設定は本当に蒸着だったし、魔導人形部屋から離れた訓練場や家の中でも武器防具が転送されてきたので持っていかなくて大丈夫のはず。
あ、私の装備って結局間に合わなかった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます