12. 翔子とタイプ設定

「私は帰ってきた!!」


 翌日、朝食は家で済ませてから、美琴さんを駅まで送ってきた。

 いつもなら町子さんの喫茶店『シティ』で食べるけど、今日パスなのは昨日伝えてある。


「はいはい、おかえり。お疲れ様」


「本当にね」


 美琴さん、初対面でもグイグイ来るタイプなので、圧倒されたというか。

 同い年で親しくしてたのはだいたいオタク趣味友だったし、一般人、いや、天下の六条グループにコネがあるようなタイプは初めてだったし。


「ま、仕事が貰えたんだから良いとしようよ」


「だね。それもかなりの額だもんね」


 高卒したての小娘に月五〇万は高すぎじゃないと思うけど、美琴さんだってそれくらいもらってるんだろう。

 これで当面は安定した生活が。そして保留にしていたマンガやらを買えるように……

 いやいや、まだ業務委託なんだし、ここは堅実に貯金すべき? って、その前にちゃんと仕事しないとだった。


「じゃ、今日はタイプ設定してみる?」


「うん。ところで例の都内の陥没に潜ってみるって話、どう?」


「そのつもりなのはわかるでしょ。自分なんだし」


 うん、自分に隠し事はできないってやつだった。

 チョコとしての能力をちゃんと把握してからが前提だけど、大陥没の場所がダンジョンになってるなら潜ってみたい。


「だって、ダンジョン系好きだもん」


「マスターもキーパーも面白かったよねー」


 そこから、いろんなダンジョンゲームについてあれこれ話し込んでしまった。

 まあ、陥没の所にあるダンジョンはレベルアップもしないしだろうし、武器が落ちてるわけでもないだろうけど。

 ゴブリンを倒しても、光になって消えるわけでもないと思う。多分、グロいんだろうなあ。

 でも……


「翔子も一緒に行くつもりなんでしょ?」


「うん」


 チョコは多分、問題なく戦えると思う。問題があるとしたら私の方なんだけど……


「昨日聞いた『転移した人が俺ツエー』ってなるの本当っぽいしね」


「自覚出てきた?」


「うん、少しある。推測なんだけど、この地下にいる時間が長いと強くなるっぽい?」


 思い当たるのは魔素と呼ばれるもの。魔法の素らしいこれが、この地下には充満してるっぽいんだけど、私もそれを取り込めるし、それを使って強くなってるっぽい。

 ガラクタ詰めたコンテナを楽に持ち上げられたり、蔵の整理に疲れなかったのも多分そのせい。


「地上に長くいると元に戻る?」


「魔導具と同じだと考えるとそうかも。この地下には魔素が充満してるから、それをずっと取り込んでると、向こうで言う『勇者様』になるんじゃないかな?」


「確かに今日読んだ身体強化魔法の本にも、魔素で体の動きを補助するとか書いてあったね」


 チョコはそう言いつつ左手を出す。私は右手を合わせて記憶を同期する。

 身体強化魔法は詠唱とかは無くて、意思の力で体内に取り込まれている魔素をコントロールし、力を強くしたり、皮膚を硬くしたりとかできるらしい。

 こんなことが世に知られるのは……


「報告しないとかなりまずいよね?」


「だね。今日はタイプ設定を調べてカスタマーサポートさんに手紙出すんでしょ? とりあえず、それに一緒に書いておけば良いんじゃない?」


「そうしよっか。一応、昨日話した内容とかも全部伝えるつもりだったし、私がチョコと一緒に潜るつもりなのも書いておくかな。危ないって話なら止めてくれる気がするし」


 うんうんと頷いてくれるチョコ。

 よし。今日の方針は決まった。


「じゃ、さっそくタイプ設定をしましょ」


 私とチョコは蔵書部屋を後にし、魔導人形部屋へと移動した。


***


「ん、終わりにしましょ」


「オッケー」


 全てのタイプ設定を試してみたんだけど結構時間を食ってしまった。もうすぐ午後四時。

 物理攻撃系の『永遠』『不可視』『天空』はそれぞれ、メイン盾・斥候・遊撃という役割がはっきりしていたし、動かし方もわかりやすそうだった。

 魔術士タイプの『異端』では魔法を実際に使ってみたんだけど、この場所で火球を打つわけにもいかず、通路に出て土壁を試し、その土壁に氷槍を撃ってみたりとか……大変だった。

 神官戦士タイプの『慈愛』は、わざと怪我をして治癒をかけるとか嫌だったので、加護、いわゆるバフを試してみたんだけど全く発動せず。


「神聖魔法、どういう感じで発動しないかわかる?」


「えーっと、異端タイプの時は魔法の詠唱するでしょ。あれと同じ感じで祈祷するんだけど、そこから何も反応がない感じ」


「神様の御使の聖霊にお願いするって感じらしいから、その聖霊さんがいないとか?」


「あ、そっか。こっちの世界だと聖霊さんいなさそうだよね。神社とかに行けばいるのかな」


 日本には神様があちこちにいるよね。八百万やおよろずいるらしいし。

 精霊魔法はどうなんだろ? 白銀の乙女では精霊魔法の出番がほとんどなくて、ヒロインたちのタイプにもいないんだよね。

 一応、『異端の白銀』って呼ばれたエルフさんが使えるらしいけど、その人、精霊魔法が苦手だから普通の元素魔法を使ってたっぽいし。


「まあ、これも報告かな」


「でも、ヒーラーなしはちょっと辛いね。バフもあるに越したことないし、アンデッドとか出てきた時に困りそう」


「だよね。今のままだと『殴りアコ』ならぬ『殴りノビ』?」


「普通に弱そう……」


 そんなことを話しつつ、ノーパソでレポートを書く。

 電気はまだ引けてないがバッテリー駆動でなんとか。Wifiが届かないので調べ物が出来ないけど、どうせ調べても出てこないことだし。

 んー、こんなものかな?


「これで良い?」


「うん。良いと思う」


「じゃ、家で印刷してくるよ」


「いってら〜」


 チョコを魔導人形部屋に残して上に。蔵を出たところでWifiが届く感じ。

 と、メールに着信が。美琴さんからっぽい。

 無事、東京に帰り着いたとのこと。昨日は押しかけてごめんなさいってのと、私の業務委託契約も問題無く手続きに入ったので、来月末からお金が振り込まれますよ、と。月末締めの翌月末払いは早い方?

 それと今月は昨日からの日割りでなく、普通に一月分払ってくれるそうで嬉しい。


 レポートは「手書きである必要はないですよ」と美琴さんから言われたので、テキストエディタで書いてプリントアウトに。これが一番早いと思います。

 美琴さんにもメールで提出するんだと思ってたけど、送らなくてもいいとのこと。中身を読んでもわからないし、また次の機会にでも説明してもらうのでとニッコリされました。


 なので、カスタマーサポートさんに引き出しの転送で送るだけで良く、向こうが検収してくれて、向こうから館長さんに検収完了を伝えるという流れに。

 ちょっとまわりくどい感じもするけど、私のレポート内容を検収できるのは、魔導人形の製作者でもあるカスタマーサポートさんだけだと思う。


 ……カスタマーサポートさんの名前聞いてもいいのかな?

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