9. 翔子とアイリスフィア
場所を魔導人形の部屋へと移した。
チョコが運んできてくれた椅子はお誕生日席へと置いて、美琴さんに座ってもらう。
「じゃ、この場所を見つけたこととか、魔導人形に登録してチョコになったこととか順に説明しますね」
「は、はい!」
というわけで、ざっくりと実家へ戻ってきてから今までの経緯を話した。
美琴さんはそれを真剣に聞いてくれているようだ。
普通に考えると妄想だと思われるような内容だけど、その内容が今この場所だし、目の前にはチョコとなった魔導人形がいるわけで。
「で、これが取扱説明書」
「見させてもらいますね」
表紙からの謎言語は美琴さんも読めないのかパラパラとめくっていき、日本語での説明が始まったところから熱心に読み始める。
私たちは邪魔にならないよう、静かにそれを見守っていたんだけど、
「手紙が転送される引き出しから、製造元へと連絡を取ったんですよね?」
「ですです。で、その返事で白銀の館の名刺をもらいました」
その返事の手紙と名刺を美琴さんの前に。
それらを手に取って確認した美琴さんは、
「これは最近の名刺ですね」
「え? そんなことわかるんです?」
「はい。白銀の館の名刺は紙面に微細な凹凸でシリアルナンバーが記されていて、私がそれを管理しています」
何その無駄に凝った作り……
というか、名刺一枚にそれだけ気をつけてるってことなの?
「最近っていつぐらいです?」
とチョコ。そのシリアルからいつの名刺かわかるからだよね。
「この番号は陥没騒ぎの後に、重要な連絡を取らないといけない相手ができるだろうと言われて渡したものです」
「ということは、私が引き出しを使って送った手紙を読んだのは館長さんで、返事と一緒に名刺を入れてくれた?」
チョコがそう言って、私もそう思ったんだけど、
「あ、いえ、違います。送った手紙を読んだのは別の人です」
とのこと。
ん? と思ったけど、会社役員をする偉い人がカスタマーサポートのわけないか。
「じゃ、私たちが連絡を取った白銀の館カスタマーサポートって人が名刺を入れてくれたのね」
「あれ? でも、白銀の館は社員二人なんでしょ? 館長さんじゃなくて、美琴さんでもないなら誰が?」
「はい。それについて説明しますね」
美琴さんは名刺、手紙、取扱説明書をきっちりと机に置き直した後、椅子にしっかりと座り直した。表情も今まで以上に真面目な感じに。
私たちもそれに釣られて、しっかりと椅子に座り直す。
「まず、お二人が手紙を送った相手はこちらの世界の人ではありません」
「「は?」」
「白銀の館カスタマーサポートは、この世界ではなく、アイリスフィアと呼ばれる世界にあるんです」
話がぶっ飛びすぎてて逆に冷静になってしまう感じ。
美琴さん曰く、次元を超えた先にその『アイリスフィア』という異世界があるらしい。
チョコになった魔導人形を作ったのは、そのアイリスフィアにいる人なんだそうで。
「その『アイリスフィア』ってすごい文明が進んでる世界なんです?」
「科学の代わりに魔法が発展した世界だそうです。ただ、その魔法でとんでもない事故が起きて、それ以降は全く文明も進んでいないんだとか」
「「へー」」
そういや、魔導人形が魔法使えるって書いてあったし、チョコが今日読んでた魔法の本の中身を思い出すと、電気の代わりに魔素を使う感じなのかな?
正直、今の電化製品に頼ってる部分を、個人が魔法で補えるのは楽ちんそう。チョコになった魔導人形もそうだし。
「私みたいな魔導人形が作れるんだからすごいよね」
「だね。知らない間にすごいロボット作れるようになったと思ったんだけど、やっぱりまだまだ無理だよね」
「いえいえ、チョコさんとなった魔導人形はすごい出来ですが、実はそのレベルの魔導具……魔法の道具はアイリスフィアでもほぼ存在しないんです」
美琴さん曰く、チョコになった魔導人形は『アイリスフィア』にも数体しかない希少な魔導具らしい。
そんなものを私は勝手に使っちゃったのか……
「ごめんなさい。勝手に使っちゃって……」
「いえ、魔導人形が見つかり、しかもチョコさんとして稼働状態になっていたのは本当に助かりました」
「え? それってどういう?」
「先程見せてもらった返事の手紙にも書いてありますが、魔導人形を扱える方というのが非常に少ないそうです」
そういやそんなこと書いてあった。特性がどうとかだっけ。
「翔子が使用可能だった理由ってわかります?」
「私も詳しいことはわかりません。館長が製作者から聞いた話では、普通の人では全く動かせないそうです」
「翔子、普通じゃないらしいよ?」
「チョコがそれ言う?」
「ご、ごめんなさい!」
そのやりとりに慌てて謝る美琴さん。ちょっとしたギャグのつもりだったことを伝えて落ち着いてもらう。うん、こっちがごめんなさい。
「まあ、不具合とか改善点があったら手紙を送って欲しいって書いてあったし、直接聞いた方が早いのかな」
「はい。詳しいことは向こうの人に問い合わせてみればいいと思います。カスタマーサポートと名乗ってますが、魔導人形を作った本人だということですので」
「え、そうだったんだ……」
「はい。館長がそう言ってました」
今の状況を概ね理解できたかな。
白銀の館のアイリスフィア支部で製造された魔導人形、そしてこの施設がうちの蔵の下に転移してきたらしい。
私がそれを興味本位で勝手に使っちゃったけど、普通は使えないはずなのに使えてしまってて、向こうとしては願ったり叶ったりって感じなのかな。
いや、でも、そもそも……
「この世界とその『アイリスフィア』っていう世界は行ったり来たりできるものなんです?」
その質問にチョコがそれそれといった顔をし、美琴さんは静かに首を横に振った。
「この世界の科学技術では不可能だということです。少なくとも重力制御ができるようにならないと、とは聞いていますが」
「あれでしょ。マイクロブラックホールを生成すると、次元の壁が揺らぐっていうやつ」
「あー、あったね。あれってなんだったっけ?」
「お二人はわかるんですか!?」
私とチョコはオタクなネタのつもりだったんだけど、美琴さんはマジに受け取ってしまったので慌ててそれを説明する。
一般人の前で私とチョコのオタトークはちょっと封印しないとダメかも……
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