10. 翔子と勇者召喚
チョコになった魔導人形がアイリスフィアと呼ばれる異世界製ということはわかった。で、そのカスタマーサポートもその異世界にあるらしい。
「この『アイリスフィア』っていう異世界のことが極秘事項ってことでいいんですよね?」
「はい。そして、白銀の館の裏の仕事ですが、アイリスフィアから送られてきた遺品を届けることなんです」
「え? 遺品って……」
「アイリスフィアに連れて行かれた人の遺品です」
こっちの世界——テラスフィアと呼ぶらしい——とあっちの世界——アイリスフィア——の行き来は出来ない。
だが、向こうからこちらの人間を呼ぶ、つまり召喚することは不可能では無いらしい。
突然の行方不明、古くは神隠しとも呼ばれるそれは、アイリスフィア側の常識のない者によって行われてきたんだとか。
「要するに『異世界転移』ってやつだよね」
「よくある馬鹿な王様がやる『勇者召喚』じゃないの?」
「翔子さんが正解です。版図を広げようとする王族が戦力増強のために『勇者召喚』をしているんだとか」
軽いギャグのつもりでラノベによくある『異世界転移』とか『勇者召喚』って言ったんだけど、どうやら後者が当たりだったっぽい。
魔王を倒すために勇者を召喚するならともかく、自国の版図を広げるためにやるのは筋が通らないと思うんだけど。って常識のない者って言ってたね。
それにしても、
「こっちの人が行ってすぐに勇者っていうほどの戦力になるの?」
とチョコが私の疑問を代弁してくれる。
「はい。詳しい理由はわかりませんが、こちらから召喚された人は向こうでしばらく過ごすことで、あっという間に強くなるそうです。人によっては特殊な力を手に入れてたりもするそうで……」
「あー、お約束のアレか」
「うん、アレでしょ。チートスキルで俺ツエーってやつ」
「はあ?」
また、私とチョコの会話に美琴さんがついていけてないっぽいので自重自重。
でもまあ、勝手に呼ばれていきなり酷使されるなら、それぐらいないとやってられないよね。
「というか、遺品じゃなくて本人が戻ってこれないの?」
「はい。アイリスフィアに連れて行かれた人たちをこちらの世界に戻す方法は無いそうです。ですが、その遺品であればこちらの世界に送ることができるので」
私がアイリスフィアにいる白銀の館カスタマーサポートから手紙を受け取ったように、その連れて行かれた人の遺品も届くってことかな。
「それってそんな頻繁にあるわけじゃないんですよね?」
「ええ、数年に一度あるかどうかだそうです。私がこの仕事についてからはまだ」
「そっか。裏の仕事っていうから、なんか怖い系かと思ったけど慈善事業?」
「はい。そう言ってもらえると嬉しいです」
まあ、秘密にする理由もわからなくもない。
ある日突然いなくなった人の遺品を届けるとか……どうやってるんだろ? 匿名で送りつけるのがいいのかな? でもそれで詐欺っぽく思われたりするのも癪だよね。
「じゃ、私はこのまま私の機能を確認してればいいんです?」
「はい、当面はそれで問題ないんですが……翔子さんもチョコさんも陥没の原因に思い当たっていたりしませんか?」
「あ! それ聞こうと思ってたんだった。ここみたいな地下が急にそのアイリスフィアから転移してきたら、ビルの基礎が抜けて崩落するんじゃないかなって」
「その推測通りです。六条本社の方でもあのビルの倒壊をシミュレートした結果、地下に巨大な空洞が突然できた可能性が高いと」
あってた!
まあ、その空洞が突然できた理由が『異世界からやってきた来た』とは誰も思わないだろうけど。
ん? ちょっと待って?
「この間、自衛隊が未確認生物に襲われたとかニュースで見たけど……」
「はい。あの地下に転移してきたのは、ただの空洞じゃないんです。ダンジョンと呼ばれるものが転移してきたそうです」
美琴さんの答えに私もチョコも唖然とするしかない。
それがどれくらいの大きさなのかわからないけど、少なくともこの地下よりもずっとずっと大きいし、何階層もあるんだろう。
「それって原因は?」
「わかりません。向こうでも調査中だそうですが……」
「この地下がうちの蔵の下に来たのも?」
「おそらくそれに起因してると思われます。向こうでは他にもいろいろと大変なことが起きているらしいですが、私は詳しいことまではわかりません。
ともかく、ここを翔子さんが見つけてくださったのは本当に助かりました。表に情報が出てしまう前にコンタクトも取れましたし」
今更だけど、確かに魔導人形だったり、この部屋の魔導具って言われてるものが世に出たらすごい騒ぎになりそうな感じ。
加えて、あの大陥没がダンジョンに繋がってるとかいう話は……未確認生物が発見されたって時点でバレるのは時間の問題かも?
「陥没の原因を国は知ってるの?」
「いいえ、今のところは。ただ、館長は場合によっては話さざるを得ないと漏らしていました……」
うーん、それも信じてもらえるかどうかも怪しい気がする。
だいたい、国の上層部なんて頭の固そうな人たちばかりだろうし……
「館長さんとしては、このことは秘密裏に解決されることを望んでるんだよね?」
「はい。可能な限りは。ただ、自衛隊員が既に魔物と接触しているようですし、かなり難しいんじゃないかとも」
「え? 魔物って……未確認生物って言ってたけどモンスターなの?」
「はい。内々に伝わってきた情報からの推測ですが、おそらくゴブリンと呼ばれる魔物と接触したと思われます」
ダンジョンだけじゃなくて、その中身もってことだよね。
ここも中身が丸ごと来ちゃってるわけだし、今さら不思議ってほどでもないか。
「でも、ゴブリンって雑魚モンスターっぽいんだけど、そんなに強いのかな?」
「まあ、銃火器とか持たずに入ってたし」
「えー、でも、素手でも強いんでしょ? 自衛隊員って」
チョコの言うように銃火器は持たずに入ってたはずだけど、普通に格闘戦でも勝てる気がするんだよね。というか勝って欲しい。
「それがゴブリンを子供と見間違えて近寄ったそうで」
「「あー……」」
それは仕方ない。私だって小さい子がいると思ったら慌てて駆け寄りそう。
専守防衛が基本だし、まさかそんなところに人に襲いかかるようなモンスター……魔物がいるとは思ってないよね。
「向こうは一匹で逃げたらしいので、それ以上は進まずに撤退したそうです」
「まあ怪我したら撤退するよね。そもそも想定外なんだし」
それにしても軍の機密情報のはずなのに聞いちゃっていいのかな。あ、そのためのNDAだったってことか。
「それでですね。その当面の先の話なんですが……チョコさんがそのダンジョンに潜ってもらえませんか?」
「へ?」
面食らうチョコを見つつ、私は『チョコと不思議のダンジョン』とかしょーもないことを思いついていた。
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