3. 翔子とチョコ
えーっと、おでこを合わせればいいんだよね? こうかな?
前髪を上げておでこを魔導人形のおでこに合わせる。
まあ、何も起こるわけが……
『読み込みが終了しました。前額部を外して問題ありません。特性の合致を確認しました』
しゃ、しゃべったー! っていうか、目も開いてるー!
というか、この声は私? 自分の声を録音して聞くと思ってるのと微妙に違うっていうあれかな?
いや、それはいいとして、次の手順は確か、
「セットアップ開始」
『了解しました』
と、見る見るうちに人形の形が変化して、私そっくりになる。
なんだかもうオーバーテクノロジー過ぎて声も出な……って裸だよ!
「ちょっ、服ぐらい着てよ!」
『了解しました』
クローゼットの引き出しから下着やらを取り出して着込む。
上は半袖シャツ、下はハーフパンツと部屋着っぽい感じに。
いや、これもう生物じゃないの? 誰かに見せても区別つかないんじゃ……
「どっちが本物かわからないな。これ、少し変えておいた方がいいのかも?」
とぽろっと言ったら、
『オリジナルとの区別のために髪などを変更可能です』
と答えが返ってくる。ちゃんと考えられてるんだ。
うーん、どうしよう。ぱっと見てわかるのはやっぱり髪色だよね。地毛は黒髪。今はおかっぱ……一応ボブカットなんだけど、それに合う色ってなんだろ?
「デフォルトカラーってある?」
『銀色になります』
デフォルトカラーって言ってから「通じるの?」って思ったら通じるし。
ともかく、銀髪ならわかりやすいかな。
「じゃ、銀髪で腰ぐらいまであるストレートヘアーにしてみて?」
『了解しました』
と一瞬で指定した銀髪ロングストレートに変わる。
あ、そうだ。一度見てみたい感じがあったんだった。
「この右目の下の小さい黒子、口の右下に持ってこれる?」
『了解しました』
おおー! なんか色っぽくなった。
あれ? 私よりずっと美人じゃない? ……気にしたら負けな気がしてきた。
「じゃ、これで確定。えーっと次は何だっけ?」
『セットアップは完了です。意識を起動すると、初期状態では完全同期個体となっており混乱しますので、着席しておくことをお勧めします』
完全同期個体っていうのが気になるけど、大丈夫なのかな?
えーっと、とりあえず椅子に座って……魔導人形の方も座らせておくかな?
「あの椅子に座れる?」
『了解しました』
指差した私の対面にある席にきっちりと座る。すごい!
いよいよ、起動かな?
「じゃ、起動」
『了解しました。自意識混濁防止のため、目を瞑ってください』
言われた通りに目を瞑る。
自意識混濁ってなんだろ?
『起動シーケンスを開始します』
そう聞こえるが特に気分が悪くなったりはしない。本当に進んでるの? っていう感じ。
『起動完了まであと三〇秒。完了時、確認のために発声することをお勧めします』
発声? まあなんか言えばいいのかな。
『3・2・1……』
「「終わった?」」
ん? んんん? 声が二重に聞こえたような?
あー、うーん、そっかー……想像がついた。
つまり、魔導人形の方の私も同じことを考えている。そりゃ本人の複製なんだから当然。
ということは、次に私がどうするかもわかる。
「あ、あ、大丈夫。思考を別にするように設定できた。目を開けていいよ」
「うんうん、そうするよね」
目を開けると……顔はそっくりだけど、銀髪ロングで口元に色っぽい黒子。
うん、しばらく髪を伸ばすかな……
「えーっと……」
これは魔導人形の方に別の名前を付けた方がいいかな。と魔導人形の私も考えているはず。
「チョコでいいんじゃない?」
「やっぱりそれ?」
子供の頃のあだ名『チョコ』がしっくりくるかなと思ってたらそう言われた。
「でも、自分の呼ばれ方なんだし、そっちで決める方が利に適ってない?」
「そう思うけど、やっぱり翔子の許可を取るべきかなって考えになるかな」
自分と話していると話が早いんだけど、どうやら重要事項の決定権は私の方に頼る感じ?
それだと単独行動中がちょっと心配なんだけど。
「目の前にいて聞ける時は聞くの?」
「そんな感じ」
んー、どういう感じなのか私本体からはわからないのか……
「こうやればわかるんだって」
左手の掌を私に向ける。これは手を合わせる感じだよね。
私は右手を出してぴったりと合わせる。手のサイズまで全く同じ。当たり前だけど不思議。
と、向こうの記憶が流れ込んできた。あー、なるほど……
「こうしないとわからないのは、ちょっと不便だけど納得したよ。じゃ、よろしくね、チョコ」
「うん、よろしくね、翔子」
自分と会話するって楽しい! 楽しいんだけど……
「本当に書いてある通りに動くと思わなかったよ」
「そもそも私って……魔導人形ってなんなの? ロボット三等兵?」
「だとしても、なんでうちの蔵の地下に?」
「すごい近くに人形が。つまり、ニアオート……」
「それ以上はいけない」
向こうも自分なので通じないネタが存在しない楽しさ。
延々とオタトークを続けてられるんだけど……
「どうしよう。ちょっと厨二心に響いたからノリで試しただけだったのに。勝手に使ったとかクレーム来てお金請求されたらどうしよう?」
「ぐぬぬ……。あ! 取説の最後の方にカスタマーサポートとか連絡先ないかな?」
「それだ!」
机の上に置いてあった取扱説明書を二人して覗き込む。
確かタイプ変更の次からだよね。
『魔導人形のお手入れ』
「これ、クローゼットっていうかチャージステーションなんだ」
多少の損傷はクローゼットに入れておくと治るらしい。服も同様。武器や鎧も今ある場所に置いておけば修復されるとか。
「武器や鎧って壁に飾ってあったりするあれかな」
「まあ、そうだよね。タイプだっけ? 設定すると着れるようになるの?」
「着るっていうか蒸着っぽいよ」
蒸着って……確かにあれも銀色だったけども。
一瞬で着替えが完了するってことだよね。ありえない話なんだけど今さらか……
『トラブルシューティング』
まあ『動かなくなったら?』とかそういうの。
魔素というものが切れると動かなくなるらしい。
「魔素って……漢字から想像するに魔法の素ってことだよね?」
「うん。私の動力がその魔素っていうものらしいよ。電化製品が電気で動くのと同じで、魔導具や魔導人形は魔素で動くっぽい」
魔導人形には大気中?の魔素を吸収する機能があり、基本的に魔素切れは起きないらしい。
けど、大規模な魔法を放ったりとかで一度に大量の魔素を失うと、その吸収機能も止まるので完全停止してしまうとのこと。まあ、その時はクローゼットに納めろと書いてある。
「ふーん……。じゃ、その魔素っていうのがこの地下にあるってことだよね?」
「うん、この地下にはあるかな。私はそれを取り込んで動いてる感じ。あと、照明だったり自動ドアだったりも全部魔素で動いてる魔導具っぽいよ」
私が思い当たっていた部分をチョコが正しいと追認してくれた。
どうやら、チョコ……魔導人形本体に関わることなら知識として持っているっぽい?
あとは自己診断モードとかがあるらしいけど、そのモードに入るには専用のパスワードがあるらしくて『お問い合わせください』とだけ書かれていた。
まあ、最後のページがその連絡方法っぽいし、読んでみましょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます